第25話

僕は今日もゆっくりゆっくり自分の仕事を終わらせていく。

ぺりぺりと人魚の鱗を丁寧に削いでいく。ただ、それだけの仕事。

人魚と関わりたくなんてないけれど、人との交友関係を築いていくのが苦手な自分には誰とも言葉を交わさなくてよくて、ただのこの単純作業が皮肉にも自分に合っていた。


「ひゅっ....うぅっ....ぁ.....」


声帯を潰してしまったせいで上手く言葉を発っせなくなった人魚からこぼれる音。

痛みを感じているのだろうか。

だが、もし人魚が痛みを感じていたとしても自分には関係ない。この最高級人魚肉ブランドでは、このやり方が基本なのだから。

.....この会社は所詮、人魚の肉を売らなくても成り立つというのに。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっなんっ.........でっ........?」


声帯を潰し損ねたであろう人魚の悲痛な叫び声。本来は美しく、癒しをもたらすことができる歌声を奏でることができるはずの喉を潰すなんて、本来はもったいないことなのに。

今では声帯を潰さずに管理下の元で歌を歌わせたりのパフォーマンスでもお金を稼げるらしいのに。

美しい生物ならなんでもいいのなら、先輩でも十分にお金を稼げるんじゃ.......。

僕のよこしまな考えがまるで透明な液体に真っ赤な液体を垂らしたかのように淡く、じわじわと広がっていく。


僕がぼーっとしていると

ガリッと勢いよく手元から音がした。

そう、それはまるで腕の皮膚に裂け目をいれたような勢いのいい音。


「.....ぅ....んぁ....あ.....。」


人魚がまた音を鳴らした。さっきとは違い、

口元から血液をぼたぼたと溢れださせならが。

ただ、それは人魚の血液とは違い、美しいピンク色ではなく、甘ったるい後味の悪い香りも発っしていなかった。


「.......?」


理解が追い付かない。ぼたぼたと自分の左手から勢いよく血液が垂れ流れて、腕をつたっている事実さえも。

....この人魚は、僕の腕を噛んだのだろうか。段々と左手が痺れてくる。

人魚は毒を持っていないはずだし、恐らくは声帯を潰すときに使った毒が残っていた。そんなところかな。


ドンッと鈍い音を僕は鳴らした。

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