探偵業の始動

第4話 真相の関係者

数日後、健一は高橋直樹の父親が過去に住んでいたという町に向かうことに決めた。山田も同行し、二人は車でその町に向かった。


「ここが、彼が育った町か…」健一は周囲を見渡しながら呟いた。静かな住宅街が広がっており、彼の心の中には緊張が走った。


「まずは近くの人に話を聞いてみよう」と山田が提案した。


健一は近所の人に声をかけ、少しずつ情報を集めていった。高橋直樹の家族についての情報は、彼が育った家庭環境や、その後の人生にどれほど影響を与えたのかを知る手がかりになる。


「実は、彼の父親が昔、刑務所に入っていたことがあると聞いたことがある」と、一人の近所の人が話してくれた。


「それが本当なら、直樹の行動にも影響があったのかもしれない」と健一は思った。


その後、彼は高橋直樹の父親の居所を追い、ついに彼と直接対面する機会を得た。小さな公園で彼を見つけ、勇気を振り絞って声をかけた。


「高橋直樹の父親さんですか?」健一は尋ねた。


その男は健一を見つめ、少し驚いた表情を浮かべた。「そうだけど、君は誰だ?」


「私は真田健一です。直樹についてお話を伺いたいと思っています。」健一は丁寧に答えた。


男の表情が一瞬曇り、「彼のことは話したくない。」と冷たく返した。


健一は、これがきっと彼の過去の影響を物語っているのだろうと感じた。

「でも、彼の行動には何か理由があったはずです。あなたの話を聞くことで、彼を理解できるかもしれません。」


男は一瞬ためらった後、苦い表情を浮かべた。

「あの子は、私が犯した罪の影響を受けている。彼の人生を台無しにしたのは私だ…。」


その言葉に、健一の心に何かが響いた。

「どうか、彼のことを教えてください。私も、彼を助けるために知りたいのです。」


少しの沈黙の後、男は重い口を開いた。

「高橋直樹は、幼いころから周りの影響を受けやすい子だった。私の過去が彼を追い詰め、道を誤らせた。彼は私の影を背負って生きている…。」


健一はその言葉に耳を傾け、直樹の行動の背後にある複雑な感情を理解し始めた。この話を通じて、健一は自分の記憶が少しずつ戻りつつあることを感じていた。

この出会いが、健一の探偵業に新たな視点をもたらすことになる。過去を理解することで、未来を切り開く力を得ていくことを、彼は確信したのだった。

健一は高橋直樹の父親の話を聞きながら、彼の表情から深い後悔と苦悩を感じ取った。男の言葉には、長い間抱えてきた罪の意識が滲み出ていた。

「私が彼を道を誤らせた。私のせいで、彼は自分の人生を見失っている」

と、その言葉が健一の心に重くのしかかった。


「直樹さんは、自分の道を見つけられずにいるのかもしれません。でも、あなたの話を聞くことで、彼を救える手がかりが見つかるかもしれません」

と健一は静かに言った。


男は目を伏せた。しばらくの沈黙の後、男は再び口を開いた。

「直樹は私が刑務所に入っていた時に、私のことを恨んでいた。彼は私の影を恐れ、同時にその影から逃げられなかったんだ。」


「その影とは、具体的にはどのようなものですか?」健一は尋ねた。


「私が若いころ、無理な借金をして、家族を巻き込むような犯罪を犯した。それがすべての始まりだった。直樹はその影響を受け、私を恨み、同時に私の生き様を引き継いでしまった。彼は常に『自分は父親のようになりたくない』と思っていたが、その思いが逆に彼を追い詰めた。」


健一はその話に胸が痛んだ。高橋直樹は、父親の過去から逃れようとしたが、その結果、より深い絶望に囚われてしまったのだ。彼はその事実を理解し、今後の方向性を考え始めた。


「あなたの過去は、直樹に影響を与えたかもしれませんが、彼自身にも選択肢はあったはずです。彼を助けるために、何をすればいいか考えています。あなたもその一端を担うことができるかもしれません。」


男は一瞬目を見開いた。「何をすればいい?」


「直樹と直接会って、あなたの気持ちを伝えることが大切だと思います。彼があなたの過去を理解することで、自分を取り戻す手助けになるかもしれません。」


男は黙り込んだ。健一はその間に、直樹の心の奥に何があるのかを探りたかった。男の表情が硬くなるのを見て、彼はさらに続けた。

「あなたが直樹に自分の過去を話し、謝罪することで、彼は少しでも心の重荷を軽くできるのではないでしょうか。」


男は顔をしかめ、

「でも、私が何を言っても、彼の心は戻らないかもしれない」とつぶやいた。


「それでも、あなたが行動を起こすことが大切です。直樹があなたの声を聞くことで、彼は過去と向き合い、前に進むことができるかもしれません。」

健一は心からそう信じていた。


男は深いため息をつき、

「分かった。君の言う通りにしてみる。直樹に会う勇気が持てるかどうかは分からないが、やってみる価値はあるかもしれない。」


「あなたのその一歩が、直樹にとって大きな意味を持つことになると思います。私も協力しますので、いつでも連絡してください。」健一は微笑みながら言った。


その後、男は少しずつ話しやすくなり、高橋直樹の幼少期や、彼がどのように育ったのかについて詳しく語り始めた。過去の事件や、家族との関係、そして高橋が直樹に与えた影響を次々に語る中で、健一は彼の心の葛藤を深く理解していった。


数時間後、健一と山田は高橋直樹の父親と別れ、公園を後にした。車の中で山田が「どうだった?」と尋ねると、健一は少し考えてから答えた。

「彼は、自分の過去を背負って苦しんでいる。でも、直樹に会うことで、少しでも彼の心が軽くなるかもしれない。」


「それは良いことだな。君の言葉が彼を動かす力になるかもしれない。次のステップはどうする?」


「直樹に直接会って、彼の気持ちをもっと理解しようと思う。父親の話を通じて、彼の心の中に潜む何かを見つけたい。」


山田は頷き、「それなら、準備が必要だな。何か聞きたいことがあれば、しっかりと考えておこう。」


健一は自分の心の中で、直樹との対話のイメージを膨らませながら、彼がどのように感じているのか、そして彼にどう接するべきかを思案した。


次の日、山田は高橋直樹に連絡を取り、会う約束をした。彼の心は緊張でいっぱいだったが、同時に彼を助けたいという強い思いがあった。彼は、過去を受け入れ、新たな一歩を踏み出すための力を与えられることを信じていた。


「次は、直樹との対話だ。これが重要な分岐点になるかもしれない」と健一は心に決めた。彼は、自分の過去を探りながらも、他者の過去にも寄り添うことで、新たな道を切り開くことができると信じていた。

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