第3話 退院と過去の居場所
数日後、退院の日がやってきた。健一は病院の外に出ると、清々しい空気が彼を包み込んだ。これから先の人生がどうなるか誰にも分からない。しかし、彼には山田という相棒がいて、過去を掘り起こすための手がかりもある。
「健一、君の探偵業、一緒に頑張りましょう」
と山田が言った。
「ありがとう、山田。頑張ろう」
と健一は力強く答えた。彼の心には、自分の人生を再生するための希望が満ちていた。これから始まる新たな人生に向けて、健一は一歩を踏み出した。
「まずは色々巡ろうか、何か思い出すかもだし。」
「どこから行くんだ?」
「じゃあ俺らの
「わかった。案内よろしく」
そう頼んで俺は山田の跡をついて行った渋谷駅から山手線に乗り新宿駅で降りた。
そのあと10分ほど歩いて小さなビルの中に入った。
2階に上がるとそこには健一がかつて働いていた法律事務所があった。薄暗い廊下を進むと、扉の向こうには忙しそうに働く弁護士たちの姿が見えた。健一はドキドキしながら、その場所に踏み込む。
「久しぶりだな、健一!」と、事務所の代表である佐藤航弁護士が笑顔で迎えてくれた。彼の顔を見た瞬間、健一の心に温かい感情が広がった。
「佐藤さん、元気でしたか?」健一は微笑みながら答えた。
「もちろん!君が帰ってきてくれて嬉しいよ。みんなも待ってるんだ。」
健一は事務所内を見回した。そこには、かつての仲間たちがいる。彼らもまた、健一の復帰を喜んでいるようだった。しかし、健一の心には不安が渦巻いていた。自分がここにいる理由、そしてどれだけのことを忘れてしまったのか。
山田が健一の隣に立ち、「どうする?何か確認したいことがあれば、聞いてみてもいいかもしれない」と言った。
健一は少し考え、「佐藤さん、あの事件について話がしたいです」と言った。
佐藤は真剣な表情になり、「都心無差別銃乱射事件のことか?あれは本当に大変だったな。」と頷いた。
「そうです。その事件の詳細や、その後の経緯をもう一度教えてもらえますか?」
佐藤は深いため息をつき、「もちろん。あの事件では、君が弁護団のリーダーとして非常に多くの責任を負っていた。君は被害者の方々のために、心を尽くして戦った。その姿はみんなが知っているよ。」と語り始めた。
「具体的には、どんなことがあったのですか?」健一はさらに掘り下げた。
佐藤は続けて、事件の流れや法廷での争い、そして多くの人々の心情について詳しく説明してくれた。その中で、特に高橋直樹という実行犯の人物についての話が出てきた。
「高橋直樹は、事件後にメディアでも取り上げられたが、彼の動機については誰も明確にわからなかった。君が弁護団を組織した時、彼が本当に何を考えていたのか、誰かを指導していた可能性もあったんじゃないかと思う。」
健一はその言葉に心を惹かれた。「もし、彼の背景をさらに調べることができれば、真実が見えてくるかもしれない。」と考えた。
「実行犯の家族や友人に聞き込みをすることはできるか?」と健一は尋ねた。
佐藤は頷き、
「それは大事な手がかりになるかもしれない。ただ、注意が必要だ。関係者は警戒しているから、慎重に進める必要がある。」
「わかりました。できるだけ注意を払います。」健一は答えた。
その後、佐藤はこの事務所の資料室へ案内してくれた。資料室には多くの事件ファイルが整理されており、健一は思わず胸が高鳴った。彼の過去がここに詰まっている。
「ここに君の関わった案件の資料がある。自由に見ていっていいよ。」と佐藤が言った。
健一はファイルを手に取り、目を通すことにした。ページをめくるごとに、かすかな記憶の断片が戻ってきた。そして、あるファイルに目が止まった。それは「都心無差別銃乱射事件」の詳細な記録だった。
「これだ…」健一は呟き、深く吸い込むと、気持ちを引き締めた。過去を掘り起こすための第一歩が始まる。彼は自分の運命を自らの手で切り開こうとしていた。
山田は傍で見守りながら、「何か思い出せそうか?」と尋ねた。
「まだ完全には思い出せないけれど、この資料を通じて、自分の役割を再確認したい。」健一は力強く言った。
彼の心には、自分の人生を再生するための希望が満ちていた。過去を掘り起こし、未来へと繋がる道を歩んでいく覚悟を決めたのだ。健一は資料室の静寂の中で、慎重にファイルをめくりながら、自分の過去を掘り起こそうとしていた。「都心無差別銃乱射事件」の資料は、彼が弁護士としての使命感をどれほど強く持っていたのかを思い出させるものであり、その中に多くの人々の運命が詰まっていることを痛感した。
ページをめくるごとに、事件の詳細が彼の心に映し出されてくる。法廷での緊迫した瞬間、被害者の家族との面会、そして多くの資料の中で重要な証拠が彼の手に渡っていたことが浮かんできた。しかし、あの事件の背後には、何かもっと大きなものが隠れているように感じた。
「健一、何か気になることがあったら教えてくれ。君が思い出したことは、今後の調査にとって重要だから。」山田が横で促した。
健一は少し考えて、「この事件、ただの銃乱射事件ではなかったような気がする。背後にはもっと深い理由があったんじゃないか?」と口にした。
山田は頷き、「それが分かれば、君の記憶も戻るかもしれない。具体的に何を調べればいいと思う?」
「まずは実行犯の背景。そして、彼の関係者、特に家族や友人にアクセスできれば、何か重要な手がかりが得られるかもしれない。」健一は強い意志を持って答えた。
佐藤弁護士もその意見に賛同した。「そうだな。関係者への聞き込みは非常に重要だ。ただ、気をつけること。彼らの心情は複雑で、簡単には答えてくれないかもしれない。」
健一は資料をもう一度じっくり読み返した。「この資料には、高橋直樹の家族についての情報もある。彼の父親が過去に犯罪に巻き込まれていることが書かれている。もしかすると、彼の行動の一因になっているかもしれない。」
山田は目を輝かせ、「それは重要な発見だ。具体的にどのように調べるつもりだ?」
「まずは高橋直樹の父親の行方を追いかけてみる。もし彼に会うことができれば、何かが見えてくるかもしれない。」健一は決意を新たにした。
その後、健一は資料をまとめ、必要な情報を集めることに集中した。山田も積極的に手伝い、情報収集のための準備を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます