第2話 失われた記憶の証拠
病院の一室、健一は静かにベッドに横たわっていた。外の明るい日差しが窓から差し込み、彼の心の中にある不安を少しでも和らげてくれるようだった。体はまだ万全ではなかったが、彼の意志は強くなっていた。「退院したら、探偵業を始める」と決意し、過去の自分を取り戻すための計画を練り始めた。
隣に座っている山田も同じように考えていた。彼は健一の助手であり、長い付き合いがあった。
「まずは君の過去を探るための資料を集めよう」
と言い、健一が退院するまでに必要な情報を集めることを約束した。
健一が弁護士としての過去を知ることで、少しでも記憶を呼び覚まそうと決意したことを受け、山田は動き出した。彼は病院の図書室や法律事務所に足を運び、健一がかつて関わった事件の資料ひとつひとつ集めることにした。事件の詳細や裁判記録を読み解くことで、彼の記憶が蘇る手助けになるかもしれない。
病室では、健一が法律書や事件ファイルを読む時間が続いた。「これが…俺の仕事か」と彼は思いながらページをめくる。法廷での彼の姿、緊迫した瞬間、そしてクライアントの表情が次々と思い出されてきた。
「これが俺の人生だったのか」と、自らの役割に少しずつ理解が深まる。しかし、その一方で、なぜ彼がこの病院にいるのか、その経緯が思い出せないことに焦りを感じていた。
資料の中には、特に印象に残る事件がいくつかあった。無罪を勝ち取ったケースや、クライアントの人生を変えるような事件が、彼の手によって解決されたものだった。健一はその記録を全て読み進めながら、何か大切なことを忘れているような気がしていた。
「何か、思い出せたか?」
「この事件…確か、ある重要な証人がいたはずだ」
と、健一は自分の記憶の断片をつなげて辿る。だが、具体的な詳細は思い出せず、もどかしさが募る。彼は深く息を吐き、「どうして、こんなに記憶が曖昧なんだ」と自問自答する。
そのとき、山田が手に持っていた資料を差し出し、
「これ、君に関係する事件の詳細だ。少しでも思い出せることがあれば」
と言った。健一はそれを受け取り、ページをめくる。事件の概要や証拠が詳細に記載されており、どこか懐かしさを感じた。
「これは…!」と健一の心に何かが触れた。しかし、
「うっ……」
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫だ…気にするな…」
とある事件の記録が、彼の中のかすかな記憶がフラッシュバックを起こした。弁護士としての彼がどのように人々を助けてきたのか、どれほどの努力をしてきたのか、その情熱が蘇るようだった。それと同時に別の事件の記憶が蘇った。決して忘れることのないあの事件を。
「都心無差別銃乱射事件…」
「それがどうした?」
「すまない、その資料を今度持ってきてくれないか?」
「あぁ…わかった。」
この日はあの事件のこと以外は特にわからなかった。
次の日…山田は「都心無差別銃乱射事件」に関する資料を持ってきた。
その事件は3人の男が東京都渋谷区で起こした死者27名、重軽傷者143名が被害にあった事件で、もはやテロのようなものだった。
その後実行犯は警視庁機動隊員によって捕獲され。死刑を言い渡された。
俺はこの事件の被害者弁護団のリーダーを務めた。
「この事件の重要なポイントは…」と健一は言葉をつぶやく。彼の目は輝き始め、頭の中で過去の情景が次々に浮かび上がる。法廷での激闘、クライアントとの信頼関係、そして勝利の瞬間…だがこの事件は多くのことが謎に包まれていた。
なぜこの事件を起こしたのか?武器弾薬はどこから仕入れてきたのか?
謎が謎を呼び、最終的に犯行動機にないまま実刑判決が下った。
考え事をしているとふと、紙が落ちた。
「落ちたぞ」
そう言われ落ちた紙を拾って渡してきた。それは、実行犯側の証人尋問の資料だった。
名前を見るとそこには「高橋直樹」があった。
まぁ覚えておこう。
「何かわかったか?」
「いいや、特に…無駄骨だったな。」
「まぁそんな時もある」
と山田が励ます。健一は頷き、
「そうだな」
「じゃあ俺は家に帰るわ。なんかあったら電話しろよ。」
「わかった」
そう言って山田は病室から出ていった。
その夜、健一は1人考えていた。
過去を調べても弁護士関係の記憶しか戻っていない。彼はそんなことを思っていた。
昔の自分は今と比べてどうなったのか?
そんなことをかんがえていたら眠気が来た。思うがままに俺は深く眠った。
翌日…俺は「この記憶を深掘りして探偵業をしたい」と意欲を見せた。山田の支えを感じながら、健一は再び自分の人生を取り戻すための道を歩み始める決意を固めた。
健一は病室の窓から差し込む日差しを浴びながら、再び自分の人生を取り戻すための道を歩み始めようとしていた。記憶が戻らないもどかしさを感じつつも、彼の心には新たな希望が芽生えていた。過去の事件を追い、失われた自分を見つけるための旅が始まる。
「まずは、あの銃乱射事件についてもっと掘り下げる必要がある」と健一は思った。あの事件がどれほど多くの人々の人生を変えたのか、そして自分自身に何が起きたのか、その核心に迫りたかった。
その日の午後、山田が再び病室に訪れた。
「どうだ、昨日の資料を読み進めたか?」
健一は頷き、
「ああ、ただ、いくつか気になることがあった。特に、実行犯の関係者、高橋直樹についてだ。彼の動機や背景が全くわからない。」
山田は真剣な表情になり、「そうだな、あの事件は多くの謎を残している。実行犯が捕まった後も、その動機については明確な答えがなかった。もし高橋直樹のバックグラウンドを調べられれば、何かが見えてくるかもしれない。」
「それなら、彼の過去を調べてみてほしい。誰かが彼をそそのかしたのかもしれないし、何か大きな問題が隠されている可能性もある。」健一は目を輝かせながら提案した。
「わかった、少し調査してみる。」山田は応じた。「ただし、急いで結果を出すのは難しいかもしれないから、時間をかけて調べるつもりでいてくれ。」
その後、山田は健一のために高橋直樹についての資料を集め始めた。健一はその間、他の事件や資料も少しずつ目を通し、自分の過去を掘り起こすための準備を続けた。
数日後、ついに山田が新しい情報を持って戻ってきた。「高橋直樹に関する情報を見つけた。彼は過去に精神的な問題を抱えていたという噂がある。特に、彼の家族には複雑な事情があったようだ。」
「それが何か関係しているのかもしれないな」と健一は思った。「彼がなぜこんなことをしたのか、背後にあるストーリーを知ることで、俺の記憶にも何か光が差し込むかもしれない。」
「それに、彼の弁護を担当していた弁護士も気になる。彼はどうやって高橋を弁護したのか、何を知っているのか…それが鍵になるかもしれない。」
健一は自分の過去と向き合うために、一歩一歩進んでいく決意を固めた。「山田、次はその弁護士に連絡を取ってみてくれ。彼の見解を聞いてみたい。」
山田は頷き、すぐに行動に移ることを約束した。「わかった、できるだけ早く連絡を取ってみる。」
その後も健一は毎日、資料を読み続け、山田の調査結果を待ちながら、少しずつ過去の記憶を思い出していった。弁護士としての誇りや、クライアントへの情熱が蘇る中で、同時に彼は自分が何を失ったのか、何を取り戻さなければならないのかを痛感していた。
ある晩、健一は思わず深く眠りに落ちた。夢の中で、彼は法廷に立つ自分を見た。周囲には傍聴席に座る人々の顔が浮かんでいた。彼は証人を呼び、緊迫した場面を思い出す。人々の目が彼に注がれ、彼はその期待に応えようと必死になっていた。
「健一、君が信じていることを証明しなければならない」と、夢の中で彼自身が言った。その言葉が彼の心に響き、目が覚めるとき、彼は一つの確信を持っていた。「自分の過去を知ることが、未来を切り開く鍵になる。」
翌朝、彼は山田に話しかけた。「俺は自分の記憶を取り戻すだけじゃなく、他の人たちを助けるためにも探偵業を始めたい。過去を解決することで、未来へ進む力に変えていきたい。」
山田は笑顔で頷き、「それこそが探偵業の本質だ。君の意思を尊重する。これから一緒に頑張ろう。」
健一は強く決意し、彼の冒険が本格的に始まることを感じた。過去を掘り起こし、新たな自分を見つけるために、彼はこれからも進んでいく。
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