第6話

こんなもん、さっさと捨てりゃそれで終了。


ただそれだけ。…簡単なこと、なのに。



一つ息を吐き、箸を置いて。


写真立てに手を伸ばすと、いつもここで躊躇ってしまう自分がいる。





伏せた写真立ての中の俺達は、寄り添い合って笑っているはずなんだ。


それでも一番に頭に浮かぶのは、笑顔なんかじゃない。




『コウちゃんさぁ…ほんとに私のこと好き?』




何かを求めるような真っ直ぐな瞳と、問い掛けと。




『…は?そういうのウザイ』


『え…?』


『そんなんいちいち聞いてどうすんだよ。好きって言えば満足すんのか?』


『…そうだよ。満足する』




何かを祈るように掴まれたシャツの裾と、震える声と。




『はぁ…つまんないこと聞くな。仕事で疲れてんだよ』


『そ、か…ごめんね』




少し潤んだ大きな瞳と、下唇をキュッと噛み締める仕草と。




『おい、どこ行くんだよ由麻ゆま!』


『バイバイ、コウちゃん…』




向けられた背中と、最後に一度だけ振り向いた涙で濡れた顔と…




記憶の中の由麻は全部悲しそうで、辛そうで…


どれだけ頑張って思い出そうとしても幸せそうに笑う由麻は浮かんでこない。


俺には思い出す資格もないと思っている。


だからこそ…今日もやっぱり写真立てに触れることができなかった。


そうやって自責の念に駆られては、伸ばした手を引っ込める。


この一年、そんな毎日を送ってきた。

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