第6話
こんなもん、さっさと捨てりゃそれで終了。
ただそれだけ。…簡単なこと、なのに。
一つ息を吐き、箸を置いて。
写真立てに手を伸ばすと、いつもここで躊躇ってしまう自分がいる。
伏せた写真立ての中の俺達は、寄り添い合って笑っているはずなんだ。
それでも一番に頭に浮かぶのは、笑顔なんかじゃない。
『コウちゃんさぁ…ほんとに私のこと好き?』
何かを求めるような真っ直ぐな瞳と、問い掛けと。
『…は?そういうのウザイ』
『え…?』
『そんなんいちいち聞いてどうすんだよ。好きって言えば満足すんのか?』
『…そうだよ。満足する』
何かを祈るように掴まれたシャツの裾と、震える声と。
『はぁ…つまんないこと聞くな。仕事で疲れてんだよ』
『そ、か…ごめんね』
少し潤んだ大きな瞳と、下唇をキュッと噛み締める仕草と。
『おい、どこ行くんだよ
『バイバイ、コウちゃん…』
向けられた背中と、最後に一度だけ振り向いた涙で濡れた顔と…
記憶の中の由麻は全部悲しそうで、辛そうで…
どれだけ頑張って思い出そうとしても幸せそうに笑う由麻は浮かんでこない。
俺には思い出す資格もないと思っている。
だからこそ…今日もやっぱり写真立てに触れることができなかった。
そうやって自責の念に駆られては、伸ばした手を引っ込める。
この一年、そんな毎日を送ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます