第13話 自覚


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**王太子ジュリアンと天才少女カタリナの「スピード電撃婚約破棄」の裏側 ──10年後に振り返るあの出来事の真相**


──10年前、王太子ジュリアンと天才少女カタリナの「スピード電撃婚約」が世間を騒がせたのは、まだ記憶に新しい。わずか2年の出会いから交際に発展し、たった2か月の交際期間でジュリアン殿下がプロムの夜にカタリナへ「結婚しよう」とプロポーズしたという。その劇的な夜を経て婚約が発表され、多くの人々を驚かせた。


当時、ジュリアン殿下18歳、カタリナ16歳という若さでの婚約は、ドラマチックな経緯と同様に世間の注目を集めた。プロムの夜、ジュリアン殿下が堂々とカタリナとの婚約を公表し、二人の関係は公になった。紙面でも連日のように彼らを取り上げ、彼らの若々しい姿は時代のアイコンとして称えられた。しかし、若すぎる婚約に対して王室内では不安の声が上がっていたことも事実だ。


カタリナは天才的な頭脳で注目されていたものの、養子であることや実家からの財政支援が王室内で疑念を生んでいた。また、王太子の婚約者としては将来的に政治的役割を果たすことが求められ、カタリナの立場は一層複雑になっていった。


***


婚約破棄への流れは急速だった。婚約破棄が進む中、カタリナが泣いていたという証言もある。16歳という若さで結婚を決断し、その決断が覆されるという出来事は、彼女にとって非常に辛いものであったはずだ。周囲の圧力に追い詰められ、カタリナの意志に反して婚約破棄が急速に進んでいった。


「もう少し時間をかけて話し合っていれば、二人の関係は違ったのかもしれませんね」と当時の関係者は振り返るが、結果として婚約破棄は避けられなかった。ジュリアンとの結婚生活について話し合う時間もなく、急展開に対応する準備が整っていなかった。婚約発表から破棄までの流れは、ある意味で必然だったのかもしれない。


***


それから10年。現在ジュリアン殿下はエディス妃と結婚し、穏やかな家庭を築いている。一方、カタリナは長らく国外に滞在し研究に専念していたが、最近帰国し、新たな人生を歩み始めたと言われている。


あの「スピード電撃婚約破棄」の真相──それが純粋な愛情によるものだったのか、それとも他の要因が絡んでいたのか、今でも語られることは少ない。しかし、ジュリアン殿下とカタリナのあの出来事は、多くの人々の記憶に残り続けている。



―――――












カタリナの研究所を訪れたエディスは、案内された部屋で雑誌を手にしていた。

雑誌には、ジュリアンとカタリナの若き日の写真が掲載されており、それを目にしたカタリナは「あ、それ…」とつい声が漏れ、慌てて口を閉じた。


「この頃の話、つい見ちゃうの。今回は、二人が婚約した時の話ね」とエディスは微笑みながら、手にしていた雑誌を閉じた。


カタリナは一瞬驚いたが、すぐに表情を柔らかくし、「早く来られたんですね。何かあったんですか?」と話を逸らした。

しばらく沈黙が続き、エディスは考え込んでいる様子だった。

普段冷静な彼女にしては珍しい反応に、カタリナはただ黙って待っていた。


「昨日、検査結果を聞いてから、家にいるのが辛くて……」


「辛いんですね?」とカタリナが静かに問いかける。

エディスは重い心を抱えながらも、すべてを打ち明けることはできなかった。

彼女がノンキャリアと判明したことで、健康な王族として将来どう扱われるのか、誰にも相談できず苦しんでいたのだ。


「ジュリアンにはもう何も言えない。隠さなきゃと思うけど、それがどんどん重荷になっていくの」


ジュリアンに罪悪感を抱きながらも、エディスは同時にその罪悪感の裏にある感情に気づき始めていた。

彼を巻き込んでしまったことを悔やみながらも、自分が本当に失いたくないものは彼との関係そのものであり、彼の存在が実は自分にとって何よりも大切だったということを。


「好きなのに、一緒にいるのが辛い」


エディスは初めて自分の感情を認めた。

彼への愛情と恐れが彼女を圧倒していた。



カタリナは黙ってエディスの話を聞いていた。

エディスの抱える苦悩に共感しつつも、彼女には自分の知り得ない事情が絡んでいることを理解していた。

だからこそ、深入りせず、ただ静かに聞いていた。


朝の光が窓から柔らかく差し込む中、部屋の中に静寂が広がった。

外からは小鳥のさえずりが聞こえるものの、二人の間に漂う空気は重く、どこか冷たい。

カタリナはテーブルに置いた手を一度見つめ、次の言葉を探すように沈黙を守った。

心なしか、時間がゆっくりと流れているように感じられる。


エディスもまた視線を落とし、しばらく何も言わなかったが、深いため息をついた後、静かに口を開いた。「ふたりが婚約した時のこと、覚えてるわ。お揃いのブートニアとプロムコサージュをつけて、手をつないでダンスしていた姿が今でも目に浮かぶ……」


カタリナはその言葉に反応して、少し複雑な表情を浮かべたが、静かに頷いた。


「踊り終わった後、ジュリアンが跪いてプロポーズした時、羨ましかったわ」とエディスが続けると、カタリナは焦った様子で「そんなことないですよ。エディス様だって素敵な経験をしてきたはずです」と否定しようとする。

しかし、エディスは静かに笑いながら言った。「ジュリアンは、カタリナのような明るくて自由な人が好きなの。私とは違うのよ」


カタリナは一瞬言葉を失ったが、しっかりとエディスの目を見つめ、「そんなことありません。エディス様は素晴らしい方ですし、殿下だって……」と反論しようとした。


しかし、エディスは微笑みながら、手にしていた雑誌を閉じた。「ありがとう。ジュリアンは優しい人よ。あまり心配しないで」


そしてエディスは、絞り出すように言った。「記事を見るたびに確認するの。私が彼の好みじゃないということを」

微笑んでいるが、今にも泣き出しそうな顔で「そうでもしないと、ありもしない期待してしまう程には幸せな生活だったわ」と言うエディスにカタリナは何も言えなかった。



ジュリアンを縛る理由がなくなった今、彼の意志を尊重するべきだという良心が、彼女の中で静かに訴えていた。



カタリナは何か言いたげだったが、エディスの穏やかな表情を見て、深呼吸してから微笑みを返した。「エディス様、今日は私の家に泊まっていかれませんか?少し時間を置くのも良いかもしれません」


カタリナの提案に、エディスは少し驚いたが、ゆっくりとその言葉を受け入れることにした。


彼女は、この一瞬の温かい交流が、自分に少しだけ勇気を与えていることに気づいていた。



ジュリアンとの未来はまだ見えないが、もう少しだけ自分を見つめ直す時間が必要だと感じていた。


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