第8話 4日目 - カタリナの提案
4日目。ジュリアンは仕事で外出し、今日はカタリナと二人きり。
エディスはいつものように調合室でカタリナと談笑しながら薬草について語っていたが、カタリナの表情にはいつもとは違う緊張感が漂っていた。
「エディス様、実は…お話ししたいことがありまして…」カタリナが少し戸惑いながら切り出す。エディスは、彼女の様子にただならぬものを感じて、手を止め、じっとその顔を見つめた。
「どうしたの?心配事でもあるの?」
カタリナはため息をついてから、慎重に言葉を選びながら話し始めた。「エディス様の家系について、少し気になることがあって…」
「家系?」エディスは驚いた。自分が王族であることは事実だが、そんな話を外部の人間にされるとは思ってもみなかった。それに、家族に特に目立った健康問題があるわけでもない。
なぜカタリナがこんなことを言い出すのか、理解できなかった。
「実は、私はエディス様の国に留学していた時、いろいろなことを学びました。その中で…ずっと気になっていたことがあるんです」カタリナは言葉を続けた。「貴国の王家は、先代から不自然に女子ばかりが続いていますよね。それに、歴代の家系図を調べると、男性が極端に少ない。普通なら偶然と片付けられるかもしれませんが…遺伝的な要因があるのではと考えたんです」
エディスは一瞬、息を飲んだ。
王家に伝わる病については、国家機密とされており、外部の者には一切知らされていない。
特に、男子の生存率が極端に低く、女子が多いことは王族の間でも暗黙の了解だった。
それをカタリナが疑いを持ったことに、驚きを隠せなかった。
「それって…どういうこと?」エディスは静かに尋ねた。
カタリナは少し視線を下に落としながらも、毅然とした口調で続けた。「もちろん、これは推測の域を出ません。ですが、留学中に知ったことと、エディス様の家系の特徴を照らし合わせた時、もしかしたら遺伝性疾患が関係しているのではないかと思ったんです。確証はありませんが、もし可能性があるのなら、検査を受けてみるべきではないかと考えました」
「遺伝性疾患…」エディスはその言葉に心の中で大きく動揺した。自分の家系には確かにそのリスクが存在する。
しかし、それを外部の人間が知り得ることはないはずだった。それでも、カタリナがそこまで考えに至ったことには敬意を感じた。
「私は、子どもを持たないとジュリアンと約束しているの。彼は知らないけど、私の遺伝子の問題があるかもしれないから…」エディスは苦笑しながら答えたが、カタリナの深い気遣いに、彼女の誠実さを改めて感じた。
「それでも、もし将来的に変化があった時、後悔しないように準備をしておくのは大切です」とカタリナが真剣に提案した。
エディスはしばらく沈黙した。
カタリナがどれほど自分のことを真剣に考え、そこまで深く掘り下げてくれたのか、その気持ちは十分に伝わってくる。
しかし、同時に彼女の推察の鋭さに、内心で得体の知れない畏怖を覚えていた。
国家機密である「王家の病」を、ここまで外部の人間が推測するとは思いもしなかった。
カタリナは医療の知識と洞察力で、表に出ない事実を見抜いたのだろうが、それにしても、王族の病というタブーに触れるようなことを、こうも堂々と提案してくる彼女の真摯さと同時に、その頭脳の鋭さに驚きを隠せなかった。
「…ありがとう、カタリナ。貴女がそこまで考えてくれているなら、一度検討してみるわ」微笑みを浮かべて答えるものの、その言葉の裏には、カタリナに対する新たな感情が芽生えていた。
彼女の優れた洞察力が、いずれ自分たちのもっと深い秘密にまで迫るのではないかという不安が、心のどこかで静かに広がっていた。
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