第4話 その頃のカタリナ
「カタリナ、君の婚約破棄のこと、記事になってるよ」
目の前にタブロイド紙を差し出す同僚に、一瞬、何を言われているのかわからなかった。
「婚約破棄?なんのこと?」
「いや、君が10年ぶりに帰国するから、昔の話を引っ張り出してきたんじゃないか?」
私は10年前の婚約破棄を取り上げたタブロイド紙に目を通し、心の中でため息をついた。
どの時代も、有名人のスキャンダルってのは話題になるものね…
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**10年前、衝撃の婚約発表とその結末とは?**
プロムの夜に発表された、王太子ジュリアンと「天才少女」カタリナの婚約。そのニュースは王国中を驚かせたが、その1か月後の卒業パーティで、さらに衝撃的な出来事が起こる。そう、二人の突然の婚約解消である。期待されていた「初の平民妃」と王太子のカップルはなぜ破局に至ったのか――当時の記者たちもその理由を掴めなかった。
当時、カタリナは「お互いの気持ちが通わなくなってしまった」と説明し、ジュリアン殿下は「自分の責務を果たせないと感じた」と語ったが、どちらも具体的な理由を明かさず、世間を混乱させた。さらに、ジュリアン殿下が放った「僕の愛情がなくなったから」という一言が、波紋を広げ、彼への批判が高まったのも当然だ。
しかし、10年の時を経て、彼の誠実さが再評価され、あの発言もカタリナへの批判を避けるためだったのではないか、と考える人も増えている。この一件が、当時の王国にどれだけの影響を与え、今も続くかを改めて実感することだろう。
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「この【彼の誠実さが再評価され】って、まるで私のせいみたいじゃない?」
「そう言うものか?」
「この記事は何なの?今はエディス様と仲良くしてないの?」
どちらにせよ、事実とは違うことが明らかで、記者の主観が事実をねじ曲げているように感じた。
「お二人にお世継ぎがいないから、エディス様も相当言われてるみたいだよ」
「信じられない」
そんなこと、本人同士の問題じゃない!
10年なんて、私にとってあっという間だったわ。
気づけば結婚して、子どももできて…まぁ最終的には離婚しちゃったけど。
でも、今の生活に何の不満もない。
シングルマザーは大変だけど、子どもは可愛いし、元気に育ってくれてるし、研究も順調だし。
異国での生活も新鮮で、むしろ楽しんでる。
ジュリアン殿下とのことが昔は心に引っかかっていたけれど、今では遠い過去の話。
あの頃の自分とは違う。
今は、自分の人生をしっかり歩んでいるから、何も後悔なんてしていない。
あの婚約破棄の後、私は逃げるように隣国へ留学した。
新しい環境に飛び込んだことで、少しは気持ちの整理もできたし、何より隣国の医療技術は発展していて、学ぶことが本当に多かった。
でも、そろそろ帰国してもいい頃かなと思い始めている。
ここまで異国での生活が順調に進んだのも、エディス様のおかげと言っても過言ではない。
エディス様はこの国の出身で、彼女とジュリアン殿下の結婚が両国の関係をより友好的に、そして親密にしてくれた。
彼女の存在が、私の留学先での生活を一層安心できるものにしてくれたのは確かだ。
正直、あの二人には、これからもずっと仲良くしていてほしいと心から願っている。
彼らの結婚は、単なる個人のものじゃなく、国と国の未来にも繋がっているのだから。
私は卒業式でジュリアン殿下と交わした最後の会話を思い出した。
ジュリアン殿下が淡々とした表情で「お互いの責務を果たそう」と言った時、私は冷静に答えた。
「殿下はこの国の指導者になるお方です。私に謝る必要などありません」殿下相手というより、この場にいる人に向けて言ったつもりだ。
その言葉に続けて、「いかなる時も、ご自身の意志を貫いてください」と告げ、ジュリアン殿下に婚約指輪を返却した。
ジュリアン殿下の手が優しくエディス様の腰に回されているのを見て、ふたりが並ぶ姿の美しさに改めて心を打たれた。
まるで運命的に結ばれるべき二人のように、お互いを引き立て合っていた。
私はその光景に微笑まずにはいられなかった。
「お二人が仲睦まじい様子で何よりです。あまりご迷惑をおかけしてはいけませんので、これにて失礼いたします」
ジュリアン殿下の冷えた指先には気づいていた。
彼が背負うものの重さは計り知れない。
私には、彼を支えることはできなかったけれど、エディス様ならきっと――。
しかし、エディス様も何かを隠しているように思えてならない。
あのことについて、彼女がどれだけ知っているのかはわからないが、そのことで苦しんでいるのではないかと感じている。
もしエディス様が窮地にいるなら、私にできることはしたい。
今回の帰国は、そのためでもあるのだから。
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