第6話 受験そっちのけの中毒者(高校3年)
とうとう最高学年に上がった。このころにはコロナが少し落ち着いていた気がする。クラス替えで1年の時同じクラスだった人が多くて、弓道部もまあまあいた。受験はあるけど、まだ5月6月は進路関係はざっくり決める感じだったと思う。僕はクラスで死んだように生きていたと思う。決していじめられていたわけではない。ただ人とのかかわり方が分からなくなっていた。部活では狂った奴を演じることでバランスをとるようになっていたし、両親とろくに会話した記憶がない。だからまともな、人とのかかわり方を忘れてしまっていた。結果弁当も一人で食べて、嘘寝をしていた。最初は嘘寝だったが、だんだんとガチで寝るようになる。勉強もやろうと思えば本気で取り組めた。でもなんでか取り組む気になれなかった。7月くらいに1年の時に仲良かった2人とご飯を食べるようになる。きっかけは些細なことで、でも久しぶりに一緒に食べたご飯はおいしかった。それからその友達とポーカーを始めるようになる。エムホールデムというゲーム。僕はやりこんだ。受験も家庭も将来ももうどうでもよくなっていた。
部活は6月で引退した。最後の大会にメンバーとして選ばれ、練習で2回目の皆中を決めたり弓具店に足しげく通ったり。とにかくできることをした。
大会の詳細だが、5人1チーム AとBの2チーム 各4射2回ずつだった。自分はBチームの3番(真ん中)の位置だった。前日までの調子の良さがどこかにいったように緊張で狙いが定まらない。結果僕は8射1中というボロボロ具合。チームメンバーもかなり調子が悪くて8射0中だったり1中だったりがほとんどで、あっさり敗退が決まった。申し訳ない気持ちを持つ自分とああ終わったんだと現実を受け入れてしまっている自分がいて、悔しくないんだと自分で自分に失望した。帰りに友達と4人くらいで吉野家に寄り牛丼を食べた。みんな肩の荷が下りたように楽になったのか結構リラックスしていた。引退か。うちの高校の女子は勝ち進んだ。
それから時が経ち6月の末、部の納射会みたいなもので、正式に僕たちの代の引退が行われた。その日確か、男子と女子が揉めていた記憶があって地獄だった気がする。引退の時にサイン色紙をもらった。今も家に飾ってはいるが、飾っているだけだ。3年間楽しかったな。もう弓道部に戻ってくることはないんだろうな。僕は自分の矢12本を譲渡という形で置いていった。手元に残ったのは色紙とかけだけだ。僕は道場にさよならを告げた。
父親は仕事をやめて無職になった。うつ病を発症して休職していたのが完全に無職になった。分からなかった、ろくに父親と関わってなかったから。母親もどうしていいか分からない状態だった。なんでもっと早く何とかできなかったんだろう。母親のパートの資金と父親の休職手当での生活をしていかないといけない中塾に通わせてもらった。ただ情けないのだが勉強に実が入らなかった。なんかすべてが嫌になっていた。ポルノ動画を見まくった。そんなもので満たされるわけがないのに。ポーカーをやりこんだ。分かっている、こんなもん何の役にも立たない。部屋は散らかったまま、毎日しこって無理やり落ち着かせようとしていた。正直惰性というか、習慣になってしまった。エロいことが好きなわけじゃない、ゲームは好きかもしれないが。でもあの時はとにかく現実を直視したくなかったんだと思う。自分の存在意義に疑問を感じていたし、自分がキャラを作っていることに嫌気がさした。姉との差は広がるばかり。楽しくない、恵まれてはいたのだろうが勝手に地獄だと思ってしまって、希望なんて感じなかった。ゲームにのめりこみ、オナニーで時間を進める。生きたまま廃人になった気分だ。学校にも遅刻するようになった。
夏休み、初めて女の子に告白された。ラインでしかも高2の時に遊んだときぶり。なんで自分なんだろう。そう疑問に思ったが、せっかくなんでOKした。デートがどうするとか話したっけ。そこまでは良かった。問題はそのあとだ、彼女は突然下ネタを言い出した。それで僕に体の関係を求めているようなメッセージが送られてきた。下半身はうずいていたし、頭がポカポカしているのが分かる。ただ、自分が選ばれた意味が分からなかったというのと責任取れねえという理由で断った。正直、めっちゃドキドキした。でも体の関係という生々しさがどうにも気味が悪いと思ってしまった。自分がやっているオナニーとどう違うんだと聞かれても答えられないが、自分にはほど遠いことのように感じた。3時間ほどのやり取りだったが、その女を振った。しつこくメッセージがきたが沈黙を続けた。期待させておいて失望させ怒らせる。自分はそういう人間だ。人を怒らせる天才、中学生の時に幼馴染と喧嘩したときに言われた言葉の通りだ。誰かを不幸にすることしかできない。でももう完全に冷め切っていた。俺は性行為を否定した。女を捨てた。不器用だからそんなやり方しか取れなかった。
結局勉強にも、学校行事にもいまいち力が入らなかった。塾に通ってなんとか合格は勝ち取った。大学生になれるんだという安心感となんで頑張ってない自分が選ばれるんだよという疑問、自分のやってきたことへの嫌悪で入り混じった。
卒業式は友人と駅まで一緒に帰ってそのあと解散した。確か吉野家に行ったっけ。
卒業旅行を一緒に行く相手もいない。別れを惜しみ、はぐをするというシチュエーションもない。人生1度のビックイベントを無駄に過ごした。
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