【第4話】石像の意識

「ウォッカとジンが少ないわ」


ロギ姉さんは一階のツロ酒店に電話した。



「毎度ありっ!了解っす」



相変わらずケドが元気よく電話に出た。ほどなくしてヘニンガーのダークも一緒に運んで来てくれた。



「今日は姉さん1人です?」



妹のショーコがアルバイトしている関係でちょっと気になった。妹は週3で働いている。最近は、お客さんに声をかけられるようになって喜んでいるようだった。



「ネイさんはそろそろ来そうね

 ショーコちゃんはまだじゃないかなぁ」



色々と欲しい物がありそうだから、買い物でもして来るのかな。ケドはテキパキとお酒を定位置に置いていった。



〜それにしてもお店寒いな〜



いつも以上に寒い店内だった。

壁に掛かっているリモコンは21度を示していた。



「姉さん!店寒くないですか?」



ロギ姉さんもそう思ったらしく、リモコンを取って確認した。



「あら、これじゃ寒いわね❄️」


「来た時は26度だったような気がするけど…」






「今日は寒いところからお客さん来たりしてね!」


ケドは冗談っぽく言って階段を降りていった。




お店がオープンして、そこそこ馴染みのお客も来た。チーママのネイさんもショーコさんも笑顔を振りまいてくれた。これがBARクロギツネの良いところだ。カウンターの中を手際よく3人が動きまわり、お客の要求を次から次へとこなしていく。イラつかせることは全くない。


クロギツネに新規で来るお客はいない、必ず予約を入れることになってるからだ。お客様のご希望に添える様にお酒、お料理が事前に用意される仕組みだ。どの世界から来ても対応できる様に準備している。年に何回か突然現れる新規客はいるけど、それは異例中の異例だ。


午前2時30分、ちょうどチーママとショーコちゃんが帰った頃、再び店内が寒くなり出した。リモコンは21度を示している。


ロギ姉さんは誰か来る予感がした。


それも生身の生き物では無さそうだ。寒さはさらに強くなっていった。



「ここまで寒いと言う事は

 あまりいい思いをされて来なかった

 お方かもしれないわ…」



ロギ姉さんは心の中で結界を四方に張った。これで何が起ころうとも瞬時に封印出来る。



「大丈夫ですよ、お入りになって」

「もう誰も居ませんから」



ドアの内側が白く凍りついてた〜入口のドアノブが回った〜吹雪が舞い込むかと思うくらいに見えたが、次第に収まっていった。



「申し訳ない…」

「我々も敵から身を守るために吹雪の結界を張っている。申し訳無かった」



次第に結界が解除され白いモヤが晴れていった。


「さぞかしお疲れだったでしょう」

「ど〜ぞお入り下さい」


ロギ姉さんは入って来た2人が戦士であると瞬時に気付いた。身も心も疲れ果てている状態だった。凍りついたまま下を向いている。



「まさか凍っているの?」



いや違う。何かの像だ。現象化しているが、生命反応は無い。一体如何なる存在なのか?



「石像さん…ですか?」



ロギ姉さんは自らの結界を解除しながら聞いた。



「ハイ、その通りデス。石にされマシタ。私達は遠い過去…何万年もの昔に…この地球で…或る生物と戦いそして敗れ去ったアンドロイドです。当時は人間の意識と混在してましたが…残されたデータの一部デス」



「人間モドキだった…のですね?」



ロギ姉さんは腕の無い男を見ていた。髪がちょうど肩のところまで伸びている様に見える、ヘルメットの様なものをかぶっている男だった。



「その時戦った人間は転生輪廻のルールの中に組み込まれマシタ。しかし人工知能に近いデータの私は石像の中に封印され、南極の壁の向こうに置き去りにされマシタ。猛吹雪の中で未だに存在しているのです…」



何とも厳しい世界だ。遠くを見続けたまま、誰とも話す事もなく何万年も置き去りにされた石像ってことか。その中に封印された意識とは。心を失う直前だったのだろう…



「今日はゆっくりされて下さいね」



〜ロギ姉さんは彼らの意識を辿っていた。深い悲しみが氷の如く封印されていた過去。あの100年にも及ぶ戦いは一体何だったのか!或る生物とは一体何なのか?今日は決して聞く事はしないでしょ〜



「アリガタイ…オコトバ…ウレシイ」



凍りついた意識が氷解するのには時間がかかる。僅かな時間だけど話を聞いてあげることにした。姉さんはこの店の存在をどうやって知ったか気になっていた。もしかしたら…。



「ここに来るまで大変だったでしょう

 どなたかに連れて来てもらったのですか?」



「数日前だったと思うが、氷の壁が何キロにも渡って崩れ去った日があった。アースとか名乗る存在が我々を見つけ出してくれた。どうやってここに来たかは覚えてないが、凍りついた潜水艦の前に意識を…アワセルヨウニ…と言われ…そのあとずいぶん暖かな気分になっていった様な気がする…」



そうハクトと名乗る男が言った。


「ああ〜地球さん🌏」


ロギ姉さんは何となくそんな気はしていた。普通の出現では無いからだ。やはりアースさん、そして地球さん🌏でしたか…


「またお会いしたいわ」


〜グラッ〜グラッ〜!



「うん!地下が揺れたか!」


トーチスと名乗った存在は揺れる残像の中で言った。


〜いまだ店内は21℃のまま。しかし2人の意識は氷解してきた。それは、そんな簡単な事ではないでしょうが、どんな小さな存在であっても存在理由はある。たとえデータであっても…



〜見捨てない心が重要なんじゃ〜



アースさんが言っている…そんな気がした。



「ちょっと地震ではなさそうね!」


「寒いから何かお飲みになってね♡」



店内は寒い。しかし2人にはちょうどいいらしい。松葉を入れたホットジンが2人の心を温めている。



〜今日もいい日になりそうだわ〜



ロギ姉さんは湯気の立ち上るグラスを眺めて言った…



「ケドの予想した通り〜」……(^.^)


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