【第3話】午前3時の訪問客...

ちょうど片付けも終わり、

黒檀のカウンターに静寂が訪れた。


不思議な1日だった。


サムさんが帰ったあと来たお客様は1人、遠い星雲から来た意識だった。ク•マゼラン星雲は何処にあるのだろう?その星は強い生命体が弱い生命を淘汰していく逆肉強食の世界。その中で食べられてしまったネコ型生命体の意識をロギ姉さんが受信して現象化した存在がやって来たのだ。


「ほんとうに可哀想な話だったわ」


最後まで名乗らなかったネコ型生命体は、数百年に及ぶ奴隷支配の悲惨さを語った。身長50メートル以上の爬虫類型生命体を筆頭に、数十種類の戦闘型種族はそれぞれの惑星で覇を競い合っていた。負けた種は全て食された。科学技術の優れた種族がやはり強かった。いかに負けないように肉体そのものを改造して、どんな環境下でも生きていく術を身につけていた。その中でネコ型生命体は、ほぼ餌の扱いを受けていた。食われるために育てられる運命は何ともし難い。


恐竜型はドラゴンの様な種族、そしてアヌビスの様な犬型戦闘種族もいた。そんな中、巨大グマと巨大ウサギの様相をした種族は平和を希求し、他を思いやる優しい心を持った存在だった。その惑星は大きい。地球の10倍くらいは雄にある。そんな惑星が所狭しと宇宙空間にあったら、もはや逃げ場は無いでしょう。


もし惑星に意識が存在するのなら、戦闘と破壊、強者の論理は許されるのか?この世界を統べる意識って一体何を基準にしているのだろう?高次元世界はわからないけど、いま生きてる宇宙、我らの異次元、3次元空間って何のために存在しているのか?生まれてくる各種生命体の意味、そして今現在の自分たち小さな意識は一体何処へ向かうのか!


ロギ姉さんはしばし考えを巡らせた。


「愛がなければダメよ!

 簡単な事じゃないの」


思わず独り言が出てしまった〜


確かにその通り…でも色々な種族が存在してしまった。存在を許されている。その想いに応じて姿形が変わり、その中に入っている意識はたんたんと成長していく、そんな不動の法則の中にいる。



〜弱肉強食の論理なんて変だわ!〜



この世界に共通するものって何?全宇宙はどれだけ広いの?考えれば考えるほど困惑してしまう。



〜でも意外とシンプルな事かもね〜



ロギ姉さんはメープルのキャビネットからサムのボトルを拭き始めた。近々また来るかも…、そう思いながら上段のグラスに写った自分を見ていた…。



……………………… (^^;




〜午前3時になった〜



「あっ地震?」

「いま揺れたわ!」



小刻みにビル全体が揺れた感じだ。誰か階段を上がって来てる様でも無いし、姉さんは少し様子を見るように、グラスを吹く手を止めた。



「また揺れたわ!」



今度はビルでは無くて、キャビネットの中のグラスが一つだけ揺れてる。普段使わない年代物のグラスだ。思わず姉さんは手を伸ばして、そのグラスをカウンターに置いた。しばらく見ていると真ん中の空間が光り始めた。ブルーがかった宝石のような状態になって行った。



「まあ綺麗!」



ロギ姉さんは見惚れていた。そのうちその宝石の中から声がして来たように思えた。何か言ってる!宝石の奥の方から聞こえる。



「誰?」



ロギ姉さんはちょっとだけ厳しい目をした。



「わしにも一杯くれんかの?」

ごく普通に鼓膜で振動する音域だった。



「えっ!」


「どちらさん?」



ロギ姉さんは面食らった。もっと荘厳でもっと怖い人を想像していたからだ。いきなり近所の立ち飲み屋で、小銭数えて飲んでる爺さんみたいな人の声だったからだ。



「はい大丈夫ですが、

 そんな小さなところにいたら、

 何もお作りする事ができませんわ!」



「そうじゃったの!ではこうするわい」



お爺さんの様に喋る意識は、カウンターの上に現れた。それはゴールドとブルーに輝く蝶だった。たぶん本体は違うのだろうけど、ロギ姉さんを驚かせない様に、配慮して出現したようだった。



「大きな存在でいらっしゃるのね」


「無理なさらなくても結構ですよ」



ロギ姉さんはさっきの地震といい、グラスに入った時の強烈な磁場変動といい、唯ならぬお方とお見受けしていた。最後まで正体がわからなくても良いお方として、もてなそうと思った。



「深淵なマリアナ海溝と、そびえ立つエベレストを足して割った様な、マリンブリーに澄んだ飲み物があればうれしいの!」



群青のような存在か!色は青く透き通ってる事ね!ロギ姉さんはアイスBOXから綺麗な氷を出して、おもむろにブルーのリキュールに浮かせた。徐々に融合していく世界はとても素敵だった。


そのゴールドブルーの蝶🦋は、嬉しそうにその氷の上に乗って、渦巻状の長いストローからブルーカクテルを味わっていた。



「あなたの事は色々聞いておるよ!わしは優しい心を持っておる貴女を常に見ておった!どこで見ていたかは内緒だけどな!」



「まっ時空が動くたびに映像が来るからの〜」


「貴女は未来が見えるのじゃな!そんな感じがするわい」



「ええっ、私のこと言ってます?」


ロギ姉さんは珍客に驚く様子もなく




「お店って初めてですか?」


グラスの周りを楽しそうに飛び回っている、ブルーゴールドの蝶にさりげなく聞いた。




「初めてと言えば半分正解だな!うーん実は昔、誰かさんの帽子に隠れて来たことがあったっけな」


「その時は寝ぼけておったから記憶が無いけどな!」





ロギ姉さんは何となく感じていた。この感覚は初めてでは無かった。やはり大きな意識だ。一点に集約して、尚且つレベルを落とせる能力は、並外れた能力だと思う。



「何てお呼びしたらよろしいかしら」


ロギ姉さんは尋ねた。



「地球…いや、どうしよう…」


「そうだな〜アースって呼んでくれ」




「アース?地球さんって事ですね」



「まあそんなもんだよ、ハッハッ」



アースそして地球さんって上手くかわした感じだな…。彼は地球意識の端切と言うか地球神そのもの。あるところではGa地球神と呼ばれている。地球の管理責任者みたいなもんだ。せっかく綺麗な星を提供しているのに、使い方がおかしいヤツらがどうしても出て来るので、定期的に注意して歩いてる存在だ。


必要に応じて自分の意識を無限大に広げたり、コップの中に入れたりするくらい朝飯前だ。しかし何でまた、そんな方がBARクロギツネに来たのでしょうね?



「ふと気付くと、ここを受信してしまうのじゃ!」



地球さんは🌏お店の中を探索するドローンの様に、ふわふわ飛んでいた。




「色々な意識が集まるところはそんなにないからね」


「それも次元を超えてね!」



妙に詳しい地球さん。それからしばらくして、キチンと挨拶して消えていった。わずかな滞在だったけど、ロギ姉さんは幸せな気分にさせてもらったようだ。



「面白い方だったわ♡

 また来てくれるかしら」



〜その瞬間〜


「おお〜!また来るからの」


小刻みに…

さっきのグラスだけが…

揺れていた…。

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