【第1話】ツロ酒店

〜新宿は種族の坩堝(るつぼ)〜


これだけ人が集まる場所にはそれなりの磁場が出来る。そして一定方向に持っていかれる。エネルギーとはそういうものだ。すでに磁場が固まってる場合、どんなに叫んでも誰も聞いてはくれない。反対に同じ波動を持っている者たちからすれば、とても居心地の良いフィールドとなる。


見たことのない種族も沢山いる。


我々が人間と見ている者の中に、相当数「宇宙存在」が紛れ込んでいる。宇宙存在は圧倒的パワーで何かの目的を達成しようとしている。交差点ですれ違う男と女、いや性別も判らない者たちの中にも大勢隠れている。昼夜、蠢(うごめ)くこの街には、違和感無くピッタリな存在だと言える。



あと、動物としてこの地球に存在を許されているエネルギー体もいる。人間の領域まで魂が進化していない存在。しかし肉体的には大きく、身体能力も優れている。熊や虎、馬や鷲、犬や猫もそうだ。まだまだいるけどね…


牛や豚のような家畜は

その目的が大きく違う。


自分の身を捧げる業をもって、繰り返し繰り返し転生する。食べられる事を前提に種族の運命を形成してるわけだ。修行形態が違うこの坩堝の中で、毎日食糧として身を捧げているのには、それなりの意味があるのでしょう。生まれた時から檻の中に入れられて、とても可愛い目をしている生き物なのに食べ物として扱われている。そんな正業をしている動物たちに酷い扱い方をしてる人間は、今度逆の立場でその心境を味わう事になるかもしれない。


家畜では無くその動物的な能力が優れてる中にキツネがいる。生物学的には犬科タヌキと同じだ。しかしキツネは不思議だ。その中でもクロギツネは霊的パワーがさらに強い。



……………………………………



〜今日もツロ酒店〜

〜開店は夜の7時からだ〜


シャッターを開ける音はいつも元気MAXだ。決まって開けるのは弟のケド(Kedo)。MAXなクロギツネだ。2メートル近い身長と、鍛え上げたマッチョな筋肉は配達にはもってこいだ。


「ヨイッしょ!っと」


軽々とビール大瓶4ケース運んで行った。今日のひと苦労作業は暁月ビルだな。ほぼ台車が使えない急な階段5階までだ。


「まっ!いい運動になるか!」


納品されたビールケースを奥まで運んで行った。ツロのアニキがやってきたのはその後だった。相変わらずデカい、弟より10センチは身長が高い。


「ケド!暁月ビル…悪いな」


納品が大変な事はツロも知ってる。いいお客さんなんで、大切にしてる。そのお店は狭くて探しづらい場所にある。


〜何でかって?〜


人間に見つからない様にするのもあるが、異次元の通路を抜けて辿り着く前に、幻影を見せる必要があるからだ。ツロ酒店も同じだ。この店に来ることは人間には不可能だからだ。


「大丈夫だよ兄さん」

「いい運動になりそうだよ」


相変わらず筋肉系の話がメインの兄弟だ。ツロも実は負けてないマッチョだ。お互い自慢の筋肉を見せびらかすのが趣味。いいことだな(°▽°)


「そうか!気合入ってるな」


仲の良い兄弟はいつ見てもいいもんだ。





「そろそろ姉さんたちがやって来るな」


ツロは階段を見上げた。時刻は午後の8時半を回っていた。2階を借りて貰ってるロギ姉さんだ。



「姉さんは9時半くらいかもしれないよ!」



ケドはなぜか知っていた…けど、別に気にしなかった。妹もここでアルバイトしているので家族みたいなもんだからね。


「今日はちょっとだけ遅いんだね!」

「同伴でもしてくるのかな?」


アニキの洞察力は凄いと思った〜正解だよツロ兄貴〜

さっき居酒屋で変な帽子かぶったお兄さんと食事していたのを、ちょうど目撃したところだった。そうすると大体9時半出社が相場と決まってるね、この世界は。


〜そんな事はどうでもいいと、

ケドは早々に仕事に戻った。


今日もまた

にぎやかになりそうだな。



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