第5話
「……で、俺はどっちに向かえばいいんだ?」
アビスの頭を撫で終わり、俺は呟くようにそう言った。
正直に言えば、俺はガチャさえ引ければ満足ではあるんだけど、やっぱり生きていくためには街……最低でも村くらいには行かなくちゃならない、よな。
「……アビス、街の場所とか、知ってたりするか?」
いつの間にか抜けていた敬語を気にすることなく、ダメ元でアビスにそう聞いた。
さっきの出来事のおかげなのか、もうアビスの瞳を見ながら喋っても全然恐怖心は湧いてこなかった。
ただ、そこで俺は思った。
……よく考えたら、街にたどり着いたとして、アビスの瞳とか、最初の俺みたいに怯えられたりしないか? ……そもそも、同じ人として見られるのか? 魔物とかがいる世界だぞ? そういう対象として見られたりしないか?
……なんか、心配になってきたな。
まぁ、でも、行かないわけにもいかないし、この悩みは後回しにするか。
「あっち」
アビスは俺から視線をずらすことなく、反対側の方向に指を指して、一言そう言ってきた。
……え? 分かるのか?
ガチャ石の時も思ったけど、なんで分かるんだ?
……まぁいいか。
アビスは俺にガチャ石のことを教えてくれた、いわば恩人だ。アビスがなんであろうと、どうでもいい事だ。俺はガチャさえ引ければなんでもいいしな。
「なら、そっちに行くか」
「うん」
……アビスと一緒に少し歩いたところで、俺は思った。
今更なんだけど、アビスって当たりなのかな、ハズレなのかな。
チラリと横を見る。
最初は怖かったあの瞳も今では全然怖くなんてないし、むしろ可愛いとすら思える。
ガチャ石のことも教えて貰えたし、間違いなく当たりだな。
「待って、ショウ」
「え? うん。どうした?」
アビスの言葉に素直に従って、俺は足を止めた。
すると、肌が緑色の人型の小汚い小人……ゴブリン? が4匹程現れた……かと思うと同時に、ゴブリン? の腹辺りの空間に黒い亀裂のようなものが入り、ゴブリン? の体が真っ二つになりつつ、その亀裂の中に吸い込まれるようにして消えていった。
……え? いや、え? 今、何が起きたんだ?
アビスがやったんだよな……? ゴブリン? の腹辺りに入った黒い亀裂はアビスの深淵のような瞳そっくりだったし、無関係な訳が無いし、それは間違ってないはずだ。
「あ、お、おい」
無言でアビスがゴブリン? が消えていったところ辺りに歩いていった。
空間に入っていた黒い亀裂から何かが吐き出されたかと思うと、亀裂が消えていった。
……もうずっと訳が分からない。
「ショウ、これ、さっきの四角い道具に当ててみて」
俺が困惑しているのか知ってか知らずか、アビスは俺にさっきの黒い亀裂から吐き出されたであろう紫色の石を渡してきた。
……これがガチャ石ってこと、なのか?
だとしたら、もう俺は4回もガチャを引けるってことになるんだけど。
「分かったよ」
四角い道具っていうのはスマホの事だと思うし、ポケットからスマホを出しつつアビスの言葉に頷いて、俺はアビスの言う通りにした。
すると、紫色の石が消えるようにしてスマホの中に入っていった。
直ぐにスマホを確認する。
そこには、簡単に言うと、ガチャ石を一個獲得するには後、魔石(小)が96個必要と書かれていた。
……これ、10連ガチャに辿り着くの、元の世界で課金をするよりもめちゃくちゃ大変じゃないか?
だって、単純計算で後1000体はあのゴブリン? みたいなのを倒さなくちゃならないってことだろ? ……キツすぎない?
元の世界で働いて金を稼ぐ方が簡単にガチャを引けたという衝撃な事実に色々な感情が渦巻く気持ちを抑えつつ、アビスの視線を感じたから、そっちに目を向けた。
……深淵のような瞳になんの代わりもない。
ただ、心做しか、本当に何となくだけど、褒めてほしそうな目をしている、気がする。
「……えっと、よしよし、ありがとな? アビスのおかげで助かったし、ガチャ石獲得に一歩前進したよ」
嘘は一切言っていない。
だからなのか、俺に頭を撫でられているアビスも嬉しそうにしている……気がした。
そんなアビスの様子を見ていると、まぁ、別にいいか、という気持ちになってきた。
ガチャを引くために魔物を倒さなくちゃいけないっていうのも、ガチャを引くために死ぬ気で社畜として働かなくちゃならないっていうのもあんまり変わんないと思うし。
言葉だけ聞くのなら、魔物を倒さなくちゃならないという今の状況の方が命が掛かっていて大変に思えるけど、この世界に来る前の俺なんてガチャを引いてる時以外は常に死んでるような感じだったし、最早こっちの方がマシまであると思う。……と言うか、実際マシだ。
こっちではガチャを引いていない今もアビスと話したりして、全然生きてるって感じがするもんな。
そう思うと、まだ早いかもだけど、本当にこっちの世界にこられて良かったよ。
アビスにも出会えたしな。……俺の一方的な思いかもだけど、割と最悪な出会い方だったけど。
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