第3話

 何が当たりなのかは分からないけど、どれだけ考えても分かる事では無いし、俺は初回無料と書かれた単発ガチャのボタンを押した。

 一応、期待していないことがない訳では無い。

 だって、大抵のゲームで最初に無料で引けるガチャっていうのはレアな何かが確定だったりするから、このガチャもそうなんじゃないか? という期待だ。


「おぉぉぉぉ……え?」


 その瞬間、映っていた金髪の美少女が神々しく光出したかと思うと、さっきまでの神々しい光が全て嘘だったかのように禍々しい黒い光に切り替わった。

 そして、それと同時に、美少女の目が開いた。まるで底が見えない深淵のような瞳だった。

 画面の中の出来事だ。だからこそ、ありえない。そう、分かっているのに、その瞳は俺の事を見ているような気がした。

 初めて体験するような恐怖に俺は思わずスマホを放り投げてしまっていた。


 いくら俺がガチャ中毒者の頭のおかしい奴だとしても、あの光景は流石に怖かった。

 ……まぁ、気のせいだって分かってるんだけどさ。画面の中の瞳が俺を見ている、なんてそんな訳ないし。

 あれは多分そういう演出だったんだろう。

 こんな訳の分からない不思議なことが起きている状況だ。色々と敏感になっていただけだ。

 ガチャが引ける喜びがあったことは事実だけど、心の奥底ではこの訳の分からない状況にちゃんと不安を感じていたんだろう。

 

「……すぅ、ふぅ」


 そう思い、落ち着いてきた俺は一度深呼吸をしてから、投げてしまったスマホを拾うことにした。

 ……ここからでも分かるくらいにスマホからは禍々しい光を出していた。


 あれが当たりの演出なのか、ハズレの演出なのかは分からないけど、これが夢でない以上、もう俺の引けるガチャはあれだけかもしれないんだし、最後までちゃんと確認しておかないと。


 そして、ちょうど俺がスマホの目の前まで来たところで、光が止まった。

 かと思うと、カプセルのようなものがスマホの画面からコロンコロンと転がるようにして出てきた。

 全く意味が分からないけど、この状況自体を考えれば納得できなくもないし、特に驚くようなこともなく、俺はそのままカプセルとスマホを一緒に拾った。

 気持ちを切り替えて、ウキウキ気分でカプセルを開けようとしたのだが、一瞬見えてしまったスマホの画面で俺は言葉を失った。

 だって、今見えたスマホの画面にはさっきまで映っていたはずの美少女が居なくなってたんだから。

 残されたのは単発と10連という言葉と背景だけ。


 ……思わず俺はカプセルに目を向ける。

 そんなわけない、よな? ……どう見てもサイズ感が違いすぎるし、ありえない、よな。

 そうだ。ありえないはずだ。……でも、どうしてもあの底が見えない深淵のような瞳を思い出してしまい、中々カプセルを開けることが出来なかった。


「……すぅ、ふぅ」


 もう一度深呼吸をする。

 よく考えろ。

 あの瞳を持った女の子を恐れてこのカプセルを開けなかったとして、俺はどうするんだ? 

 新しくガチャを引こうにも何でガチャを引くのかすら分かっていないんだ。

 つまり、俺にはこれを開けて、この世界? で暮らしていけるような当たりの何かを引き当てるしか道は残されていないんだよ。

 ……大丈夫だ。

 この世界? に来る前に引いたガチャを思い出せ。

 給料を全部注ぎ込んだというのに、SSRは天井まで引いて一体だけ。しかもその出たキャラはピックアップキャラじゃなく、すり抜け。

 あの時は自分の運を呪ったけど、今なら分かる。

 俺はここで当たりを引くためにあの時爆死をしたんだ。


「頼む!」


 過去一番かもしれない。ここまで天に祈りを捧げながらカプセルを開いたことなんて。

 まぁでも、それも仕方の無いことだろう。

 だって、命が掛かっていると言っても過言ではないんだ。

 死んでしまえば、もうガチャを引けない。

 そう考えるだけで俺は今以上に頭がおかしくなりそうだった。

 ……まだまだガチャを引くために、俺は死ぬ訳にはいかないんだ。


 さっきまでスマホの画面から出ていた禍々しい光がカプセルの中から出てきたかと思うと同時に、俺の事をその光が飲み込んだ。

 嫌な予感がする。本当に、凄く、嫌な予感がする。


「……ぁ」


 そして、そんな俺の予感は当たっていた。

 だって、禍々しい光が消えたかと思うと、俺の目の前にはさっきまでスマホの画面の中にいたはずの美少女が底の見えない深淵のような瞳を俺に向けて優しく? 頬んできていたんだから。

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