第2話疑惑

検死の担当は戸川達也と言う検死官だった。

10年以上前に、彼が勤めていた尼ケ坂病院殺人事件で、黒井川警部と出会い、何度も2人で事件を解決してきたのだ。

黒井川警部は、戸川検死官の事をワトソン君と呼ぶ。


検死を終えたワトソン君は残りは部下に任せて、ロビーで喫煙している黒井川に近付いた。

若い川崎巡査もいた。

「お待たせしました。薬物の確認に手間どっちゃって」

「いやいや、お疲れ様」

と、言って黒井川はワトソン君に缶コーヒーを渡した。

ワトソン君は黒井川からタバコを1本もらった。

「薬物は何だったの?」 

「三酸化ヒ素でした」

「く、黒井川警部。これは自殺ですよ!決まりです。最後に豪勢な料理食って服毒自殺ですよ!これは」

「君はうるさいなぁ〜。現場に戻って防犯カメラの解析を聴いてこい!」

「はっ!」 


ワトソン君はハイライトに火をつけた。

「やっぱり、自殺だと思う?」

「私は違うと思います。グラスの中では300mgのヒ素が検出されました。致死量です。しかし、ボトルの中は30mgの量です。これは、単なる中毒症状が出るだけで致死量には至りません」 

「じゃ、誰かがグラスのワインの中にヒ素を入れて、その後にボトルにもヒ素を混入させたのか?」

「そう言う事になります」

「今夜は遅くまでありがとう、ワトソン君。僕は現場に戻る」

「黒井川さんは良いオッサンなんだから、無理しちゃダメだよ!」

「うん。分かった」


現場の防犯カメラには、殺された井口ともう一人の人物が映っていた。

それは、中華の鉄人亀山卓郎であった。

警察は亀山の取り調べを始めた。

他に2人で行動する人物は映っていなかった。

このマンションは表のエントラスとエレベーターにしか防犯カメラはついていない。


裏口は駐車場から近道でカギを持った住人はそこから出入り出来る。


亀山の取り調べが始まった。

「あなたは、3日前にプロデューサーの井口大和さんの自宅へ行きましたね」

と、川崎が尋ねると亀山は、

「はい。行きました。午後7時を回った時間帯だったと思います」

「何をされていたのですか?」

「話しです」

「どんな?」

「……そ、それは」

「言いにくい事ですか?」

「や、八百長をしようって」

「八百長?」

「中華の鉄人を連勝させると、店の客が増えるだろうから、稼ぎの1割でいいから金を渡せば人生を変えてあげるって!」

「何だ、あの番組好きなんだけどなぁ〜」

「私は断りました。でも、鉄人の中じゃ既に八百長をしている人もいるらしくて……」

「ほう、誰です?」

「ぼ、僕には分かりません。信じたくもない話しですから」

「分かりました。あと、あなたはワインを飲まれましたか?」

「わ、ワイン?絶対に飲まないですよ、車で行ったですから。でも、キッチンからは何か肉の焼けた匂いがしてました。僕は番組降板の決心をして別れました。僕の代わりの料理人なんて五万といますから」

「ありがとうございます」


「警部、どう思われます?」 

と、柿沼巡査部長が尋ねた。

「犯人は、亀山では無いね」

「そうですか」

「今、あの番組で負けなしの料理人はだれ?」


「和の鉄人・半沢友也ですね」

「和の鉄人?」

「はい。和食です。13連勝中です」

「ちょっと、半沢の店の住所教えてくれる?今すぐに」

「はっ!」


翌朝、黒井川警部と柿沼巡査部長そして川崎巡査が半沢の店に向かった。

「はんざわ亭」に、着いたのは10時だった。

着物姿の半沢は、どなた様ですか?というので、柿沼は警察バッジを見せた。

「どう言う事でしょうか?」

「あなたは、料理番組の鉄人ですよね?」

「はい」

「プロデューサーの井口さんをご存じですよね?」

「はい」

「亡くなられました」

「い、いつの事ですか?」

「4日前です」


「皆さん、朝ごはんは?」

「朝ごはん?まだですが」

と、黒井川が言うと半沢は3人をテーブル席に座らせた。

エッグスタンドに乗せた、半熟卵を出した。底には黒いつぶつぶが。

半沢は、

「温泉卵のキャビア添えです」

「うんめぇ〜」

と、川崎が言うと、柿沼が川崎を肘で突いた。

続いて岩牡蠣が出てきた。

「これは、すだちを絞って下さい。味付けはほんのり塩だけです」


3人は口を大きく開いて、岩牡蠣を一口で食べた。

「次がメインです」

と、言ってステーキを出して来た。


「飛騨牛のタタキです」 

3人は黙って食べた。人間はホントに美味しいモノを食べると黙ってしまう。

 

3人は半沢にごちそうさまでした。とお礼を言った。

「私もね、歳を取ってね。もう、63なんだけど、立ち仕事が辛くてね。番組も降板したいって!井口さんに言ったばかりなのに亡くなったんですか。自殺?」

「まだ、何とも4日前の夜7時は何処にいらっしゃいましたか?」

「4日前の夜?さぁ〜……あっ、車を運転していました」

「どちらへ?」

「食材を獲りに」

「食材とは?」

「私は釣りが好きでね。今の時期は、アオリイカが釣れるんですよ。夜釣りに」

「見せてもらえますか?」

「いいよ。お〜い、タツ、この前のアオリイカ持って来い」

 

料理長のタツは、氷の上のアオリイカを持ってきた。柿沼は写真を撮った。

でも、これは4日前以前もしくはその後に釣られていたのかも知れない。これではアリバイにはならない。


「後、何かありませんか?些細な事で結構です。コンビニとか行かれましたか?」

タツは心配そうに立っていた。

「タツ、ありがとう。もう、良いよ」

「思い出して貰えませんか?」 

「……あっ、スピード違反でカメラが光った」

「スピード違反?カメラ?」

と、川崎が言うと、

「オービスですね。後で交通課で確かめます。ありがとうございました。朝食まで頂いて」


3人は店を出た。

「やっぱり、怪しいね」

「交通課に連絡を取って、調べましょう」

3人は喫煙所で、食後の一服をした。


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