殺意の鉄人

羽弦トリス

第1話犯行

「たった1刃の包丁で、料理界の全てを塗り変えた3人の鉄人達。中華の亀山卓郎、フレンチの武田有、和の半沢友也。今、3人の鉄人が揃い組しました」


司会者が、ゲスト挑戦者の山下ひかるに、尋ねた。

「さぁ、山下さん。誰と戦う?」

「半沢友也!」


「おっと面白い対決になりそうです。フレンチ界のジャンヌ・ダルクは、和食の半沢を指名しました」


「今回は、フレンチと和食の戦い。食材に考えて考えて、私は口を閉じてしまいました。閉じると言ったらあの食材を思い付きました。今日テーマはこれです。今日の食材は、ホタテ!」


番組のラスト。


「今回は、初の女性挑戦者の技に惚れ惚れしました。そして、勝負に関係なく貴女にお礼を言います。ありがとうございます。それでは発表します」


「初の女性との対決に戸惑いを隠せなかった鉄人・半沢。生き生きと若く斬新なメニューを完成させた挑戦者。最後に笑うのは、鉄人かはたまた、フレンチの勇者か?」


「鉄人・半沢友也」


「おっと、勝ったのは鉄人であります。これで鉄人13連勝!山下は何度も鉄人に頭を下げています」 


控え室。

「半沢さん。13連勝おめでとうございます」 

と、言ったのはプロデューサーの井口大和。

「今月分は、これだ」

半沢は井口に茶封筒を渡した。300万円入っていた。

「半沢さん。店繁盛してるでしょ?また、店舗増やすみたいですね。そうなれば、あとこの2倍は私も潤いますね」

審査員に金品を渡して、鉄人が勝つように暗躍する井口。


時が経つに連れて、金額も大きくなる。

そして、最近は半沢の従業員の数人をヘッドハンティングして、別料理店に斡旋し始めた。斡旋料を貰っていたのだ。


半沢は危機感が湧いて来た。

このままでは行けないと。何度も番組を降板を井口プロデューサーに言うと、八百長をマスコミにリークすると脅された。

半沢はある日、半沢の豪華なマンションでワインを飲んでいた。

松坂牛のステーキとサラダ、旬の魚の刺し身を半沢は作った。

他の鉄人もこのマンションで飲んだ事がある。

2人で食事をしながら高級ワインのシャンベルタンを飲んでいた。

井口がトイレに入った。

その好きにワイグラスの中に三酸化ヒ素を混入させた。


トイレから戻ると、

井口はワインを飲みながら、ステーキを食べ始めた。

半沢はワインを一口飲んだ。


突然、井口は苦しみ始めた。

「……ガッフッ!お、お前毒盛ったな?」

「あぁ、アンタが一生オレから金を奪うと思うと生かせては置けないからだよ」

井口は泡を吹いて、死亡した。


半沢は自殺に見せかけるために、自分の分の料理、ステーキは完食して、グラス、皿は洗っておいた。

ワインボトルは布で拭き、死んだ井口の指紋をベタベタと付けた。

偽装工作は出来た。


防犯カメラには映っているだろうから、ただ話しをしただけと警察には話せば良いと考えた。

カギは閉めた。スペアキーを持たされていたからだ。

エントラスとエレベーターには監視カメラが作動している。


事件は3日後に判明した。

心配した、テレビ局の人間と管理人、警察と一緒に部屋に入ると、井口は息絶えていたのだ。


それから、現場周辺はざわめいた。

しばらくすると、黒井川警部が現れた。

「状況証拠で言えば、自殺ですね」 

と、若い刑事の川崎が言った。

「自殺ねえ。ワイン、ステーキ、サラダに刺し身。随分、食ったんだね」

「はい。最期の晩餐だったのかもしれません」

「ま、ワトソン君の検査結果を聞こうか?どうせ、ワインから毒物出るだろうから」

キッチンのレンジの中を黒井川警部は開いた。

「茶碗蒸しが2つか」

「どう言う事でしょうか?」

「3日前、誰かと食事したね」

「防犯カメラにも、エントラスとエレベーターに2人で行動した録画がありました」 

「誰だろうね?」

「テレビ関係者だと思いますが……」


ま、とりあえず鑑識と司法解剖の結果を待たなきゃ。


黒井川警部は、部屋を後にして、タバコに火をつけた。

溜め息と同時に煙を吐いた。

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殺意の鉄人 羽弦トリス @September-0919

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