第38話 赤の呪いー1

 翌日。


 俺とソンは王都へ繰り出した。

 朝からアナスタシアの様子がおかしかったが一体何かあったんだろうか。

 顔も見せてくれなかった。

 それにどこか王都が騒がしい気がする……一体どうしたのだろうか。


「体調が悪いと言っていたので、何か性の付くものでも買って帰りましょうか」

「精がつくな。あれ以上盛ったらどうなるんだよ」

「んん! たま……」

「脱ぐなよ」

「御意」


 するとお土産屋さんだろうか、エルフの男性が店をやっていた。


「よってらっしゃい! エルフェンオーブ特性のアクセサリーだよ」

「おぉ、中々だな」


 民族的というのだろうか。木を加工して作ったアクセサリーが多く並んでいた。

 幾何学的な模様の首飾りや、指輪、腕輪なんかもあるな。

 

「セカイ様。ここはひとつ、レイナ様にお土産などどうでしょうか」

「あいつはこんなのいらないだろ。また不要なものを……はぁ~って糞デカため息つかれるぞ」

「いえいえ、必ず喜ばれると思いますよ。私が保証しましょう」

「ふむ……む?」


 そこには、水晶を組み合わせた小さいながらも美しい木の腕輪があった。

 これぐらいなら日常でつけても問題なさそうな質素さとそれでいて上品さを感じた。

 それに水晶……クリスタルはレイナにぴったりだ。


「じゃあ、これをもらおうか」

「毎度!」

「素晴らしい選択かと。レイナ様が喜ぶ姿が目に浮かびますね」

「俺にはあの堅物が喜ぶ姿なんて想像もできないけどな」

「ふふ、私はセカイ様といられるレイナ様は、いつも大変嬉しそうに見えますがね」

「生粋のドSだから俺を虐めて楽しんでるんだろ」

「ははは! それはそうですな! 仲睦まじく大変喜ばしいことです」


 ソンが嬉しそうに笑う。

 俺にはレイナがこんなので喜ぶ姿が微塵も想像できないんだがなぁ。

 それは置いといて、俺は店主にこの街の様子を聞いてみた。


「店主、今日はどこか街中が騒がしい気がする。何かあったのか?」

「あぁ噂ですね。たまーに出るんですがね、赤の呪いがまた出たって噂が。まぁすぐに収まると思いますよ。ちょっと湿疹が出ただけでこの国じゃあ大騒ぎですからね」

「赤の呪いか」

「ふむ……昨日アナスタシア殿が話していたあれですな。呪い……魔法の類でしょうか」

「可能性は高いが……そんな魔法があるのか?」

「魔法には大きく分けて5つあります。火、土、風、水、そしてそれ以外。基本は四元素魔法が主で全体の99%を締めますが、明らかにそれとは異なる魔法――セカイ様の生命の魔法のようなものをユニーク魔法とも言います」

「そうか」


 この世界には、魔法がある。

 ならば、呪いのように人を殺す魔法だってあるかもしれない。

 そのときだった。


「キャァァァ!!」


 悲鳴が聞こえ、俺とソンはそちらを見た。

 女性エルフが倒れており、俺達はすぐにかけよった。

 そのエルフは、心臓を抑え、そして苦しそうに暴れたと思ったらすぐに動かなくなってしまった。

 そして赤い湿疹が顔にいくつもできていた。


「これは……」


「どいてどいて!!」


 人だかりを分けて憲兵団が走ってくる。

 またか……と険しい表情でその女性を布に包んで連れて行ってしまった。

 

「きな臭くなってきましたな。まさか……本当に」

「今の症状は…………」


 周りのエルフたちは震えて、顔を青ざめていた。

 すると我に返ったエルフたちは、蜘蛛の子を散らしたように、その場を離れて走っていく。


「セカイ様……万が一ということもあります。我々も、しばらくこの国を出た方が良いでしょう」


 胸がざわつく。

 街がざわつく。

 もしもあれが俺が思う呪いだというのなら確かに呪いだろう。

 だとしたら、この国はまた抗おうことなどできずに、亡びるのかもしれない。


「…………いくぞ、ソン」


 俺が何もしなければ。




 俺達は急ぎ、アナスタシアの家に帰った。

 だが、家に帰ると玄関で俺達の荷物とフィーナが立っていた。


「どうした。フィーナ」

「帰ってください」

「は?」


 いきなりの拒絶だった。


「ちょっと助けたぐらいで、いつまで居つくつもりですか。そろそろ迷惑なので帰ってくださいと言っています」

「フィーナ殿、それはあまりにも!!」

「ソン、落ち着け…………フィーナ。お前たちの人柄はこの一週間ほどで知っているつもりだ。何かを隠しているな」

「………………すみませんが。帰ってください。お願いします!! お願いします!!」


 そこには暗い顔で、それでも俺を拒絶するフィーナがいた。

 今朝から様子が変だったが、その様子は間違いなく何かがあったことを示していた。

 そして俺には察しがついた。


「アナスタシアは」

「お姉ちゃんは、会いたくないそうです。体調も悪いので」

「…………」


 俺はフィーナを無視して、玄関をまっすぐと進む。


「あ、ちょっと! だめ! セカイさん!!」

「このままわかりましたと帰るほどに、俺は物分かりは良くない」


 そしてアナスタシアの部屋に到着して、扉を開けようとした。

 しかし鍵がかかっているのか、開かなかった。


「アナスタシア、入るぞ」

「――!? セカイ様………だ、ダメです!! 申し訳ありませんが帰っていただけますか!」

「理由は」

「もういい加減うっとおしいのです! 一週間以上も泊めてあげたのに、一向に抱いてくれませんし! はやくこの国から出て行ってください!! 正直迷惑です」


 アナスタシアには強い拒絶の言葉。

 そして、俺を引きはがそうとフィーナが引っ張る。

 だが、それは理由があると言っているようなものだった。


「それがお前の本心か? 嘘偽りないお前の心か」

「そうです! その通りです。もうセカイ様なんて嫌いです!!」

「そうか…………なら」


 俺は扉に触れた。そして植物操作でその木造の木を消失させる。

 その先には。


「その涙はなんだ。アナスタシア」


 ベッドの上で、泣きじゃくるアナスタシアがいた。

 赤い湿疹とともに。




 そのときだった。


 ドンドンドン!!

 家の扉を叩く音がした。

 後ろを向くと、そこには多くのエルフが立っていた。

 服装を見るに、門番と同じでこの国の憲兵団の制服だ。


「アナスタシアァァァ!! どこにいる!!!」


 その先頭で、民族的だが、それでいて豪華な服を着ている男エルフがいた。

 ぼんやりしてるエルフの男性にしては、きりっとした目で、眉間に皺が寄っている。

 まるで王族のようにも見えるが、あれは。


「オルド首相……数百年。このエルフェンオーブ共和国の首相を務める代表ですな」

「あれが……」


 オルド首相――つまりはこの国のトップだった。


「お、お父さん!!」

「フィーナか」


 するとフィーナが急いで降りていく。

 お父さん? とオルド首相に駆け寄るが、すぐさま間に門番が挟む。

 どうやらアナスタシアとフィーナが若干濁していた父とは、オルド首相のことだったようだ。


「ど、どうしてここに」

「赤の呪いが、今国中で次々と発生している。緊急事態だ」

「そんな……国中で」

「拡大を広げる前に…………呪われた者と接触した者を調査、隔離しなければならない。アナスタシアもその一人だ。この子も隔離施設に」

「はっ!」

「ま、待って! お父さん、待って!!」


 その様子を見て、何かを察したであろうオルドはフィーナの声を無視して家に入る。

 そして俺と目が合った。


「君は?」

「セカイ・ヴァン・ノクターン。ファルムス王国リベルティア領の領主だ。観光でこの街に来ていたが、アナスタシアには世話になった」

「…………ファルムスの。そうか、それは失礼した。だが、もしもアナスタシアと接触していたのなら呪われている可能性がある。この国の国民ではないのなら、私から何か強制することはできないが……親しき人には接触しないことを進める」


 そういって、オルドは俺に一瞥し、アナスタシアの部屋に入ろうとした。

 だが、俺は割って入るように間に入って、その道を塞いだ。

 それを見て、オルドはこちらを見る


「なんだ?」

「…………関係を持った者は隔離するようだが、もし呪われていた者はどうするんだ」

「…………赤の呪いに、呪われた者は必ず死ぬ。そしてこの呪いは周囲の者も呪っていく……後は、わかるだろ」

「殺すのか。実の娘でも」

「実の娘だからだ。ここで私が身内を特別扱いをしては国が亡びる」


 そして門番に目で合図し、扉の前に立つ俺をどけようとする。

 だから。


「な!? なんだこれは!!」

「わ、わぁぁ! 木がぁぁ!」


 植物操作で扉を閉ざし、俺は憲兵団たちを退けた。

 オルドは静かに、そして俺をまっすぐと見つめて言った。


「これはこの国の問題だ。他国の貴族に、遊び半分で介入はされたくはない」

「これは貴族としての行動ではないし、遊んでいるつもりもない」


 俺は深緑色の魔導書を手に持ち、オルドの前に立った。

 オルドは、土色の魔導書を召喚し、俺を見た。


「ならばなんのために!」

「仲間のために」

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