第36話 貞操逆転世界ー4

「どうですか、セカイ様。お湯加減は」

「あぁ、悪くない」


 アナスタシアの家のお風呂に入らせてもらった。

 火はアナスタシアが用意し、水はフィーナがいつも用意しているらしい。

 お風呂といっても我がリベルティア領の大浴場のように自動化されたわけではなく、部屋の中においてある大きな壺にお湯をためるだけではある。

 それでも十分気持ちが良い……こういうのなんていうんだっけ、五右衛門ぶろ?


「エルフはとても綺麗好きですからお風呂にはこだわってるんです」

「なら一度うちの領地の大浴場にこい。きっと気に入るだろう。俺がこだわった」

「わぁ! 素敵ですね。ぜひご一緒したいです。あ、ご一緒してもいいですか?」

「あぁ」


 俺は適当に返事をした。

 何も考えてなかった。


「では失礼致します」

「はぁ?」


 白い布だけで体を隠したアナスタシアが入ってきた。

 俺は思わず、ぎょっとした目で凝視してしまった。

 絹のよな白い肌に、磨かれたスタイル。金髪の髪が腰まで伸びて、にこっと微笑んで俺を見る。

 ご一緒ってそういうこと?


 すると遠慮なく壺の中に入ってきた。

 水が溢れてざぶーんとこぼれる。俺はフリーズしてしまった。


「ふぅ……ふふ、さすがに二人だとちょっとだけ狭いですね」

「…………ちょ! な、なんで」

「助けていただいた方のお背中ぐらいお流しするのが流儀です。我が家の家訓は倍返しだ! ですから」

「土下座しますから許してください」

「あら、もしかしてセカイ様って…………ふふ、初めてですか? 可愛い。じゃあ」


 こちらを向いて、首に手を回す。

 すべてが見えている。あのアナスタシアさん、すべてが見えています。


「お姉さんが全部優しく教えてあげますね。いただきま……」

「ちょっとお姉ちゃん! 抜け駆け!!」

「はぁ……邪魔者がきてしまいました」


 助かった…………。


「じゃあ三人でしましょうか」


 助からなかったわ。


「いいよ! セカイさん、ドロドロにしちゃお!」

「ダメだよ! 何ドロドロって!」


 俺は思わず立ち上がった。

 そして逃げるように、風呂場をあとにした。

 あと一歩で食われる寸前だった。


「気を抜けば、一瞬で食われますぞ!!」


 ソンの言っていた言葉を思い出す。

 だめだ、あいつら少し気を許したらすぐに直結しようとしやがる。なんてドエロ種族なんだ。

 これならセシリアのほうがまだ分別がついていたぞ。貞操逆転世界とはいうが、女から見た男ってこんな感じなのか? 

 そりゃ、俺の知り合いのプレイボーイのイケメン同期は女と見ればやれるかどうかでしか判断してなかったが!


「お疲れ様です。セカイ様」

「本当に疲れた。今日は休む」

「鍵はかけることをお勧めしますぞ」

「…………はぁ、寝る!」

「おやすみなさいませ」


 そして俺はアナスタシア達に借りた部屋で眠ることにした。

 鍵はかけたが、不安だったので植物操作で鍵穴を塞いでおいた。

 夜中に部屋の扉がガチャガチャとなったが、お化けってことにしておこう。



 そんな日々が三日ほど経過した。

 俺は何とか貞操を守り続けている。ガードが堅い男、それが俺だ。何十年この城を守り続けてきたと思っている。

 まだ20そこらの小娘に突破されるほどやわではないわ。もう城門ボロボロだけど。


 そして早朝。

 俺はアナスタシアと麹菌が出来ているかなと確認しにいった。

 

「できているといいですね」

「本当にな。こればっかりは運だ」


 10個設置した蒸米は9つとも腐っているだけだった。

 だが最後の一つを半ばあきらめかけて確認したときだった。


「白い…………」


 淡いクリーム色の……菌糸ができているじゃないか。ふわふわでにおいをかぐと若干甘い。

 これは……。


「成功だ!! 麹菌がついてる」

「よかったです! これで日本酒? ができるんですよね?」

「あぁ! だがこれはほんとに運がよかっただけだからな! これをすぐ使ってはもったいない!」

「培養……ということですね」

「そうだ!」


 俺はテンションが上がった。

 麹菌……まぁ菌と名の付く通りこれは増える。

 そして麹菌が付いた米は、製麹という過程を経て米麹と呼ばれる。

 この米麹を使ったお酒ができたりするが、米麹を使って米麹を増やすこともできるのだ。


 方法は簡単。

 麹菌を手に入れたときと同じ蒸米に、この米麹をかけるだけだ。するとどんどん増えてくれる。

 現代ならすぐに種麹と言われるこの麹菌は手に入るのだが、この世界にはそんなものはないので俺のこの手にあるこれだけだ。

 だから大切に育てないと。


 俺はその白い麹菌を大切に持って帰り、アナスタシアに場所を借りて急遽小屋を建てた。

 湿度を60%ほどに保ち、温度も30度ほどに保ち、そして蒸米に麹菌をかけて、湿度を保つために布で撒く。

 あとは、大きく育てよと願いを込める。


 アナスタシアの工房には、湿度や温度を高める魔道具があったので、頼み込んで貸してもらった。


「一度失ったら次があるかわからないからな。大切に育てないと。ありがとな、アナスタシア。礼は必ずする」

「なら体でいいですよ」

「懲りないな」

「わたくし、セカイ様と性交がしたいです。とりあえずキスだけでもしませんか?」

「しません」

「ふぅ……中々ガードが堅いですね。だからこそ燃えてきますわ」


 この三日、逃げ続けたら遂に吹っ切れやがった。

 最初は御淑やかで、ちょっとエッチなお姉さんだったのに今はもうガツガツ肉食系お嬢様になってしまった。


「俺は初めては愛した女と決めている」

「素敵! そんなセカイ様の決意が、快楽に流されて悔しそうに果てるところがみたい!」

「やめてぇ! その眼怖いから!」


 それと結構な変態具合である。目がハートになりながら、ヤンデレっぽいんだよ。

 それでも姉妹の攻撃をかわし、ソンが毎日満足した顔で帰ってきて羨ましいので蹴りをいれたりとまた三日がたった。


「増えていてくれ!」

「大丈夫です。愛情込めて育てれば生命は答えてくださいますから」


 俺は祈るように木箱を入れた蒸米を取り出す。

 すると。


「…………やった」


 米麹の完成である。

 木箱に広げた蒸米が米麹になって、甘い匂いを放ちながらぱりぱりになっている。







あとがき


毎日12時2分に更新を予定していますので、ぜひ作品をフォローしていってくだされば嬉しいです。今後も毎日更新を続けていくので、続きが読みたいと思われた方はどうか下部にある★から評価を頂けると、執筆の励みになります。よろしくお願いいたします。


KAZU

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