第35話 貞操逆転世界ー3
「ここがチーズ工房です。職人たちが日夜作業してくれています」
「そうなんですよ! 昔からの職人たちが頑張ってくれてるんです! 私は何もしてないですけど」
「あなたは遊んでばかりだものね」
「うっ……」
「……なるほど。ブルーチーズもあるのか」
「はい、青カビをつかってます」
「カビの概念もあると……これは思ったよりも宝庫だな」
棚一杯に丸いチーズが熟成されている。
チーズを作るにはカビを使うし、ブルーチーズは青カビを使う。だから青いんだが。
そのあとも俺は乳製品を作っている乳牛の牧場や工房。さらに作物を作っている農場もみせてもらった。
「リンゴか……これは使えるな」
「何にお使いになるんですか?」
「酢酸菌……まぁ酢を作ったりと和食には欠かせない菌がこういった果実の皮には生息している。あぁ……和食っていうのは、俺の故郷の料理のことだ」
「まぁ! 素敵ですね。一体どんなものになるのでしょうか! わたくし、とても興味がありますわ」
「見てみるか? お前たちにも勉強になると思う」
「ぜひ、勉強させていただきたいです、セカイ様! 二人で、ゆっくりと……語りましょう」
「もうお姉ちゃんばっかりずるいよ!」
そういって俺の胸に優しく手を添えフェザータッチでさわさわするアナスタシアと、逆に力強く俺の腕をそのふくよかな胸で挟み込む妹。
甲乙つけがたいな。やれやれ、とりあえず一か月はここにいよう。やれやれ。
~
「では、ここをお使いください。特に使ってない場所で、条件である湿度も高く風通しも良いかと」
「ここ古くなって使わなくなった工房です!」
「あぁ、でも条件としては完璧だな」
そのあと、アナスタシアに案内されたのは少し茂った森の中にある今は使われてない工房だった。
ここもアナスタシア達の土地らしく、本当に広大な土地を持っているらしい。
相当な金持ちなんじゃないか? 湿度も完璧で、ここなら空気中に麹菌がいることも期待できるぞ。
「じゃあ、まずは米を蒸す」
「米……見たことがない作物ですね」
「真っ白だぁ」
「あぁ、稲という植物から手に入れられる。気に入ればやるよ。完成品を見てから決めればいい」
「お礼のつもりが、わたくしの方が頂いてしまってますね。しっかり返させていただきたいのですが……ねぇ、セカイ様」
「私も……だよ? セカイさん。ねぇ何が欲しい?」
さわさわとむぎゅーやめて。集中できないから。
頭を振り払いながら、俺はソンからもらった米を蒸すことにした。
「植物操作」
一瞬で周囲の木を加工して、簡易的な蒸し器を作る。
「先ほども見ましたが……セカイ様の魔法は一体……」
「あぁ、植物全般を操作できる」
「すご!!」
「――!? それは……とても素晴らしいお力です。自然を愛するエルフにとってまるで神にも等しいような」
「大げさだな」
妹のフォーナはとてもキラキラした目で見てくる。
だがさっきからアナスタシアが俺を見る目が、怖いんだが。
なんかこう……闇が深い感じ。もしかしてクール系お姉さんキャラに、ヤンデレ属性追加したほうがいい?
「火……あぁ、持ってくるの忘れたな」
「それでしたらわたくしが」
「水は私が出しますよ!」
そういってアナスタシアは赤い魔導書を召喚する。
どうやら彼女は炎系統の魔法を使えるそうだ。それで周囲の木を使って焚火を行った。
フィーナのほうは、青い魔導書で水系統のようだ。なので水を用意してもらった。
蒸すだけなので、水は魔法でつくったやつで構わない。
「まずは米を蒸す」
「ふむふむ」
「そして蒸した米をこの木箱に広げる」
「ふむふむ」
「その蒸した米に木灰を混ぜる。木灰を混ぜると、俺が求めている菌以外がつかない。つまり麹菌にとって住みよい環境ということだ。湿度が保てる場所なのでこのままでいい」
「ふむふむ」
ふむふむと言いながらアナスタシアが俺のふとももをずっと撫でてるんだけど、つっこんだら負けかな?
めっちゃ真面目な顔してるし、たぶんそういうことじゃないだろう。たぶんな。
「これで完成だ。あとはこれを放置して3日ほど。運の勝負なので10個ほどおいておこう。運がよければ麹菌が手に入る」
「楽しみですね。他にお手伝いできることはありませんか?」
「いや、これができるかどうかにかかっているから少し待ちだな。今日はもう暗くなってきたし、終わりか」
「そうですね。では、我が家に案内させていただきます」
「いいのか、泊まって」
「もちろんですよ」
「そうです! 泊っていってください! セカイさん!」
そして案内されたのは、木造建築の温かいログハウスのような家だった。
結構大きめで、十分家としての機能を備えている。なんか大規模なキャンプ場に来たみたいだな。
学生の頃にいった林間合宿を思い出す。
すると中ですでにソンがソファに座ってゆっくりしていった。
「おい、護衛。どこにいってた」
「いえ、私がいないほうがお楽しみいただけるかと」
「…………で、なんで水浴びしてきてるんだ?」
「……………………ふっ」
なにがふっ。だ。こいつ護衛の任務を忘れて楽しんでやがったな。
「ご心配なく。この周囲にはセカイ様を脅かす存在はいません。それは確認しましたから」
「本当だろうな」
「セカイ様は自分の強さをご理解できていませんね。おそらく今の私では、セカイ様に場合によっては敗北します」
「そうなのか?」
ほとんど戦闘したことはないが、ソンが言うならそうなのか?
確かに木さえあれば、結構なんでもできる気がするが。
「ですが過信はしないでください。あなたは我々に必要ですから万が一でもあれば」
「そうだな。わかっている」
俺が死ねば、リベルティア領は終わる。
俺以外の誰かが来て、レオンもファナもソンも……全員奴隷として生涯を終えることになるだろう。
もう俺は俺だけの命じゃない。
「セカイ様ってお貴族様なのですか?」
「一応は領主だ。リベルティア領という不毛の大地を開拓した領地を管理している」
「領主様だったんですか!! すごーーい!」
「あの草木も生えない大地を……開拓? まさかそのお力で?」
「あぁ、セカイ様はその魔法であの大地に緑を与えてくださった。リベルティア領はデカくなるぞ」
アナスタシアとフィーナが俺を見る。
獲物を見る目だった。
「あ、そうですわ! セカイ様……お風呂。入られますよね??」
「うちのお風呂は綺麗ですよ! ぜひゆっくりと旅の疲れを癒してください! セカイさん!」
なんだろう、身の危険を感じる。
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