第34話 貞操逆転世界ー2

「ここでは我々は食べる側ではなく、食べられる側!!」


 振り向くと、ソンが女エルフに囲まれていた。

 

「きゃーすごい筋肉!」

「触っていいですか! かったーい!」

「ねぇねぇ、この後暇ですか? 一発どうですか?」


「お気を付けください、セカイ様! 気を抜けば、一瞬で食われますぞ!! 一瞬で!! んん! もうたまらん!!」


 ソンが服を脱ぎ棄てた。

 そんな状態できりっとした顔するな。

 一瞬で食われかけ寸前じゃねーか。

 

「はっ! いつのまに服が!」

「自分でたまらん! って脱いだだろうが」

「すみません、興奮すると脱ぐ癖がありまして」

「興奮してるじゃねーか。もう突っ込むのも疲れたわ」


 なんだこいつ。

 妙に今回やる気があるなと思ったらそういうことか。

 エルフェンオーブに遊びに来たかったんだな。糞ドエロ騎士め。


「いくぞ、ソン」

「くっ! 致し方ありません」

「くっ! じゃねーんだよ。お前は護衛だろうが」


 泣く泣くソンが女性達を振り払った。

 何を今生の別れみたいな顔してんだ。お前だけリベルティア領に返すぞ。


「さて、拠点をどこかに作りたいんだが」

「そうですな。宿が空いてればいいのですが一年先まで埋まってることが多いですからな」

「まじかよ。どうするんだ」

「選択肢は二つあります。一つは野宿、セカイ様の力なら一瞬で小屋ぐらい作れるでしょう」

「もう一つは?」

「良い感じの女性エルフの家に転がり込むです。この国のことも知れるし、色々と得しかありませんな。色々と」


 俺達は顔を見合わせる。


 俺はソンという男を勘違いしていたのかもしれない。

 騎士道を持ち合わせ、清廉潔白、ただ剣を振るだけの武人。

 だが今のソンはどうだろうか。数分おきにたまらん! っと服を脱ぎだし、エロいことしか考えていない。


 まったく……お前は。


「よし、その案でいこう」


 だが、嫌いじゃない。


「さすがはセカイ様。話が早くて助かります」


 俺達はがっちりと手を握り合った。

 決して下心があるわけではない。

 これは必要なことなんだ。決して邪な心はない。あわよくば事故が起きてしまうなんてそんなことは微塵も思っていない。

 ほんとだよ?




 そのときだった。

 

「や、やめてください」

「えへへ、いいじゃんよ。お前ら男大好きなんだろ?」

「い、いやです! 誰でもいいわけじゃありません。申し訳ありませんが、好みじゃありません!」

「あなた達、乱暴すぎ!! 他のエルフだって嫌がるわよ!」


 女性エルフの二人が冒険者らしき粗暴な男二人組に言い寄られている。

 二人とも無理やり後ろから抱きしめられて、今にも襲われそうだった。


「好みじゃないだぁ!? てめぇらは黙って股だけ開けばいいんだよ!!」

「そうだぜ、ドエロ種族がぁぁぁ!」

「きゃぁぁぁ!」


「――植物操作」

「ぐえぇ!?」「あべぇ!?」


 俺はその辺に生えていた木を操作して、その男二人の頭を叩いた。

 二人とも意識を失って地面に倒れたので、木の枝でぐるぐる巻きにして、パンツ一枚にして磔にしておいた。

 まったく変態が。

 例えエルフの性欲が強くても、個体差ぐらいあるだろうし、たとえ貞操逆転世界だとしても望まない場合だってある。


「お見事! しかし、ああいう輩は困りますな。ここは紳士の社交場だというのに、節度を持っていただきたいものです」

「節度を持って服を着ろ、紳士なら」

「くっ! いつの間に……御意」


 するとその二人のエルフがこちらに走ってくる。 

 金髪ロングと金髪ショートのおそらく姉妹エルフだ。

 エルフの中でも飛びっきりの美人エルフ姉妹だな。正直、お近づきになりたい。


「あ、あの! 助かりました!」

「とてもお強いのですね。本当にありがとうございます」

「気にするな。あいつらが不快だっただけだ」

「ええ、憲兵にいっておきましょう。エルフェンオーブには一生出禁ですな」


 これも実は仕込みでナンパだったらどうしよう。

 だいぶ疑心暗鬼になってきたな。

 するとクール系お上品お嬢様属性の姉と、金髪ショートの元気っ子属性の妹が俺に話しかけてきた。

 完全に主観であるが、見た目と属性とは一致するものだ。


「あ、あの……お二人はご旅行でございますか?」

「ご旅行ですか!!」

「いや、俺はこの国に欲しいものがあってな。まぁ旅行といえばそうだが」

「欲しいもの? 何かわたくし共でお手伝いできることはありませんか? お礼をさせていただければと!」


 御淑やかな美人姉が、手伝ってくれるという。

 ふむ、とりあえず聞くだけ聞いてみるか。


「…………この国で……そうだな、農場や牧場をやっている場所を知らないか? 発酵なんかをやっているとさらに嬉しい」


 すると二人は顔を見合わせる。


「それなら、わたしたちの家に来てください!」

「それなら、わたくしたちの家にお越しください!」

「ん?」

 



 

「ほう……これは立派な牧場と田んぼですな。広大な大地、肥沃な土壌、環境も最高ですな。羨ましい限りです」

「さすが自然と共に生きる国……畜産も進んでいるか。これなら麹菌も期待できる」

「はい! わたくしたちは農業から畜産まで食に関する物を中心に営んでいるんです! といっても経営者は母でしたが、おそらくはエルフェンオーブで最も規模が大きく歴史も古いかと!」

「その母親はどこだ。挨拶したい」

「…………母は亡くなりました」


 そういう二人は悲しそうに、でも我慢するように笑顔で微笑んだ。

 

「失礼した」

「だ、大丈夫ですよ!」

「ええ……それに500年も前の話ですから」

「そうか……」


 これ以上触るべきではないな。俺は話題を変えることにした。

 さらっと流れたが500年前? どう見ても20歳ぐらいにしか見えない二人って一体何歳?


「そういえば発酵食品はあるか?」

「はい、パンを作るためのイーストは、ここで培養しております。ドライイーストとして、世界各国に輸出させてもらっています。他にもチーズやヨーグルトなどの乳製品も」

「乳酸菌もあるか……酵母という概念はあるんだな」

「発酵に欠かせない微生物。だという認識はしております」

「博識だな、では、それを……」

「ご案内します。こちらへ……試食もできますよ。ぜひ、見て回ってください!」

「話が早くて助かる」


「なんか、お姉ちゃんだけ楽しそう」

「あなたは勉強さぼってるからでしょ? それにセカイ様との会話はとても楽しいです。あんなにお強いのに博識なのですね。とても……素敵です」


 そういって、俺の腕に優しく手を振れて徐々にエロく絡ませてくる姉。

 

「お姉ちゃんばっかりずるい! セカイさん! 私お姉ちゃんほど知識はないですけど、そっちの知識はお姉ちゃんよりありますから! 経験豊富ですから!」

 

 逆側の手を引っ張る妹エルフ。

 そっちの知識ってどっち? とりあえず案内してもらっていい?


「もうフィーナったら……あ、ふふ。わたくしったら……自己紹介がまだでしたわ。私はアナスタシアと申します。年は……500……少し飛ん23歳です。上から90、58、85です」

「妹のフィーナです! 年は……500……少し飛んで18歳!! 上から89、62、88!」


 なんで自己紹介でスリーサイズ言った?

 あと少し飛んでってなに?

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