第33話 貞操逆転世界ー1

 セシリアが行商のために、定期船でやってきた。

 魔綿を受け取り、そして石鹸も追加で渡した。


 そして俺はエルフェンオーブ共和国に向かうため、船に乗り込んだ。


「私も行きます」

「お前にはレオンやファナの面倒を見て、米の量産体制を何とかしてほしい。それにお前がいないとこの領地を誰が指揮する」

「しかし……」

「大丈夫です。レイナ様、命を懸けてセカイ様をお守りいたします」


 するとまたじとーっとした目でソンを見る。

 汗がだらだらのソンは逃げるように服を脱いで筋トレをしだした。


「はぁ……わかりました。ですが、あまり遅いと迎えにいきますからね」

「はは、心配性だな。わかった」


 俺はレイナの頭を撫でた。

 

「セカイ・ヴァン・ノクターンが命じる。しばらくはお前が領主だ。俺が帰ってくるまでに見違えるような領地にしろ」

「イエス、マイマスター」


 そして俺はセシリアとソンと共に、リベルティア領を後にした。

 

「あ、セカイ様!」


 船の上、セシリアが一瞬で俺の腕に腕を絡めてきた。 

 レイナがいないからいくらでも絡めていいぞ。ぐふふ。


「石鹸!! めちゃくちゃ売れてます! もう半年先まで予約でいっぱいです! いくら作っても売れる状態ですよ! どんどん作っちゃってください!」

「そんなにか。レオン達にボーナスやらなきゃな」

「はい! イストリアを領地にしてらっしゃるレオナルド公爵様に献上したところ、奥方が大層気に入ってくださり、他の貴族様にも宣伝。気づけばファルムス王国で大ブームです!」

「それはよかったな。衛生的にも」

「はい! この前なんて、ドラゴニア商会が石鹸の販売権利を買いたいってきましたからね! もちろん、お断りしましたよ!」

「いくらでだ?」

「1億ゴールドですね!」

「…………売るか」

「だ、ダメダメ! セカイ様! ダメですよ! 独占! 約束しましたよね! ね! 私に独占させてくれるって!」

 

 胸をめちゃくちゃこすりつけて、涙目で訴えてくるセシリア。愛い奴愛い奴。

 まぁそういう約束だし、俺は金で信用を裏切らない男だ。セシリアのイロアス商会には大変世話になったしな。


「冗談だ。期待している。セシリア」

「もちろんです! 魔綿の衣服生産工場もほぼ準備完了ですし、どんどん売っていきますよ! だから、また面白い商品を見つけたら教えてくださいね。そしたら……」


 そういって、耳元に近づき俺に囁いた。


「私、すごく頑張っちゃいます。すっごいの……してあげますよ」

「すっごいのってどんなの!」

「それは、そのときのお楽しみです」


 早くガチャを回したい。

 はやくすっごい植物を手に入れて、すっごいのをしてほしい。

 

「ふふ、レイナさんがいないと話が早くて助かります」

「俺もそう思う。あいつは過保護なところがあるからな」

「じゃあ……このまま私の家にきますか? お泊りで」

「大変魅了的だが、俺はエルフェンオーブにいかないといけないからな」

「エルフェンオーブ…………理由をきいても?」

「あぁ、酒を造るためにな」

「なるほど、確かにあそこは自然と共に生きてきた場所ですからね。お酒に必要なものは揃っているでしょう…………ではお気を付けください。セカイ様なら大丈夫かと思いますが……あの国はとても危険なので」


 危険? ソンは喜んでいたけどな。

 俺は首をかしげる。

 若干不機嫌なセシリアを見て、エルフェンオーブってどんな国だよと想いを馳せた。




「では、ここからは馬車で移動します」

「はぁ…………絶対、蒸気機関完成させる」


 俺は馬車が嫌いだ。

 おそい、乗り心地が悪い、腰が痛い。乗るだけで苦痛である。

 エルフェンオーブはここから馬車で三日かかるという。

 この世界の移動手段の無さはどうにかならんものか。ちょっと他国にいくにしてもこれでは、旅行に行く気も失せる。

 さすがに俺の知識で飛行機は無理でも蒸気機関を完成させて、帆で移動する船や馬車を高速に変えるぐらいはできる。


 そのためにも、製鉄技術に詳しく、物作りが得意なドワーフ族を仲間にしたいのだ。

 それがこの日本酒造りにかかっている。

 ソンに持たせている10キロほどの米を見ながらそう思った。



 特に何もなく三日後。


「やっと着きましたな。セカイ様」

「帰りもこれだと思うと憂鬱だな。だが…………これは圧巻だ」


 大自然、深い森に透き通るような湖。

 その中心には巨大な城を中心とした、しかしそれでいて自然と調和している幻想的な国。

 木造が主流だからだろうか、しっかり整備された街なのにまるで森の中にいるみたいだ。


 道中、ソンに聞いたがエルフェンオーブは人口100万人ほどの小さな国らしい。

 日本で言うなら大阪で800万人ぐらいなので一国としては相当小規模だし、国といっても街はこの王都しかなく、多くは森の中で暮らしているらしい。


「でも別の国にそんなに簡単に入れるのか?」

「ええ、エルフェンオーブは入れます。他国からの入国を制限してないオープンな国ですから。ですが例えばドワーフ族が住むドワンゴ王国などは身分証明できる者が同行しなければ入れませんね。セカイ様なら侯爵家ですから問題ないでしょう」

「追放されてるけどな」

「ははは、それでも身分は確かですから」


 それもそうか。

 他にも冒険者ギルドや商人ギルドに所属し、身分証明をギルドにしてもらうなど方法はある。

 そういったギルドは国を跨いで、活動しているので確かな証明になる。セシリアなんかならドワンゴ王国に入国できそうだな。


 俺とソンは、馬車降りて、そのまま王都の門へと向かった。

 門番がいる。


「ん?」

 

 ……耳が長い。

 そして、ブロンドの髪がサラサラと肩よりも長い男が立っている。

 めちゃくちゃに美形だ。え、まさか。


「エルフ」

「ん? ご存じではなかったのですか? エルフェンオーブはエルフ族の国ですよ?」

「まじかよ」


 ドワーフ族がいるんだから、エルフ族もいるだろうとなんとなく思っていたが、まさか本当にいたなんて。


「む? 入国か?」

「はい。私と、こちらのセカイ様が本日から入国させていただきたいと。観光ですな」

「ふむ、わかった。ではここに名前を記載して検査をさせてもらう。血を一滴もらうぞ」

「はい。ありがとうございます」


 俺とソンは言われるがままに、指に針を刺して、血を魔道具に垂らした。

 まるで水晶玉のような魔道具だが、一体なんの魔法が込められているんだろうか。

 するとその魔道具光り輝く。


「入国履歴はなし。そちらの男性は過去に入国履歴があるが1年以上たっているから問題ないな。では、今日からひと月だ。必ずだぞ。でなければこちらから捜索して逮捕しなければならないからな」

「わかってます」

「一月? なんで俺達からじゃなく、そちらから指定なんだ?」

「セカイ様、エルフェンオーブは他国からの男性の一月以上の入国は禁止されています。そのあとは一年以上は入国できないようになっています」

「なぜ一月なんだ? しかも男性だけ?」

「でなければ、帰れなくなってしまうからです。さぁ、百閒は一見にしかずですぞ! さぁいきましょう! 今すぐ行きましょう! ん! たまらん!」

「なぜ服を脱いだ。早く着ろ」


「では、よき旅を」


 そして俺達は、エルフェンオーブ共和国の王都に入国した。

 

「おぉぉぉ」

「変わりませんな。ここは……」


 見渡す限りのエルフ、エルフ、エルフ。

 男エルフは美形だなと思ったが、女性のエルフは別格だった。

 レイナやセシリアレベルの美少女がゴロゴロと。それに……全員モデルみたいなスタイルしている。見ているだけで目の保養になるな。

 しかも女性の服は、薄着でとてもボディラインが出ている。えっろ。なんだこのドスケベ種族は。


 バチン!


「いてっ!?」

「良い尻してるじゃん、兄ちゃん!」


 俺はまるでセクハラおやじが若い女の部下にするかのように、尻を叩かれた。

 振り向くとそこには絶世の美女エルフがいた。は? なんで?

 意味が分からないままその美女エルフはいってしまった。なんで俺は尻叩かれた?


 困惑していると俺の隣を別のエルフが通り過ぎた。

 すると、目の前にハンカチが落ちたので俺は拾って呼び止めた。


「ん? おい、これ落としたぞ」

「あ、す、すみません!」


 おっぱいをぶるんぶるん揺らしながら、また美少女が俺に向かってきた。

 俺の目の前にきて、俺の手を握りしめる。


「ありがとうございます。これすごく大事なものなんです!! あ、そうだ。お礼にお食事なんかどうですか?」


 上目遣いででっかい谷間を見せつけながら、唇をエロく舐める。えっろ。


「わ、悪い。予定があるんだ」

「そうですか……残念です」


 すると、あっさりと引き下がった。

 まるで慣れているかのように……ん? またハンカチを落としてそれを俺達と同じような旅人が拾ったぞ?

 しかもそのまま二人で腕を組んでどこかに消えてしまった。

 なんだ? なんか変だぞ。この国。


「ねぇねぇ、かっこいいお兄さん!」

「ん?」


 振り向くと、やっぱりこれまた美少女が俺を見ていた。小学生ぐらいだろうか。将来は必ず美人になることが確定している。

 その子が口にあけて、まるで俺を挑発するように舌をレロレロと動かしている。


「テクニックには自信あるんだけど…………どう? しない?」

「どうって…………なにをだ?」

「そりゃ決まってるじゃん……セック――」

「それ以上はその見た目ではいけない」


 いろんな団体に怒られる前に、不適切発言を止めた。

 しかし一体なんなんだこれは。困惑していると俺の両脇に女性エルフがきて胸を押し付ける。


「お兄さん、旅行? 遊ぼうよ!」

「私たちと遊んでいかない? ワンナイト! ワンナイト!」


 俺はソンを見る。 


「おい、ソン。俺の知ってるエルフは排他的で閉鎖的な種族のはずだが。なぜ俺は、今にも襲われそうなんだ?」

「さて? 私が知っているエルフは、女性は年中発情し、男と見れば誰彼構わずとりあえず一発! と交尾するドエロい種族ですが」

「…………なるほど、つまりはここは」


 俺はあたりを見渡す。

 そして気づいた。

 周りの女エルフがほぼ全員、俺を間違いなく性的な目で見ていることに。


「――貞操逆転世界ってことか」


 どうやら、ここは男にとって天国でそして蟻地獄でもあるようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る