第32話 日本人の魂ー3
そんな行程を繰り返し、7キロほどの白米ができた。
あとはレオンにどうすれば米をたくさん作れるかを考えろとぶん投げた。
頭が良くて素直な子がいれば楽だね。レイナは忙しいっていって手伝ってくれないし。
今のところネックなのは30度の土か。
あれはちょっと自動化ってところは難しいかもしれないな。
ちょうどいい魔道具があればいいが……。
「よし、とりあえず炊くか」
「炊く?」
「あぁ、そうだ。米は水と一緒に熱して炊く。まぁ見ていろ」
焼酎を作ってもいいが、まずは白米を堪能しよう。
幸いレイナが持ってきた調理器具のフライパンがあるので、それを使えば炊けるだろう。
俺は食堂に向かった。
「セカイ様、なににしますか!」
食堂にはおばちゃんがたくさんいる。
大体村人のおばちゃんはここで働いている。性別差別ではない。
ただおばちゃん達が食堂で働きたがるのだ。それだけである。
「すこし台所を借りるぞ」
「ええ、もちろんです」
俺は台所に入った。
まずは米を研ぎます。
うん、白いとぎ汁が出てきた。
何度か繰り返しある程度汚れが取れたなら、フライパンに水と米を入れます。
強火で加熱して蓋をします。沸騰したら中火にして10分ほど。
すると…………。
「できた!!」
白米の香りだ。
前世の炊飯器ほどの出来栄えとはいかないが、十分フライパンでも美味しく炊けた。
いずれは竈とかで炊きたいものだな。
「良い匂いですね」
「あぁ、いずれ食堂にメニューとして用意するから頼むぞ。塩はどこだ?」
「はい、こちらに」
俺は塩をもらって、塩むすびを作った。
あっつ! でも……この熱さ、懐かしいな。
俺は熱さにちょっと涙目になりながら塩むすびを作った。
「食べてみるか、レオン」
「はい、喜んで!」
そして俺とレオンは塩むすびをたべた。
「「うま!!」」
めちゃくちゃうまい。
そりゃ、前世の米に比べたらちょっとまだまだだが、十分にうまい。
ガイヤモスとかの肉食べてた時ずっと米食べたかったんだよな。あぁ、米よ。あぁ、米。
思わず涙がこぼれた。
日本人のソウルフード、米。
俺はついにここまで到達したか。
「泣いてるんですか、セカイ様」
「あぁ……うまいな。毎日食べたいぐらいだ」
「…………俺、頑張ります! セカイ様がたくさん食べれるように」
俺はレオンの頭を撫でた。
まじで頑張ってくれ。
そのあと、いまだに穴を掘っているであろうソンとファナに食べさせにいってやった。
ファナは足りないだろうから、他にもたくさん食料をもっていってやろう。
「順調か? レイナ」
「えぇ、若干引いてます。ほとんど不眠不休ですよ、あの二人」
ため池セカンド予定地を見ると、もうほとんど穴は掘り切っている。
あとはしっかり叩いて、俺が湧水草を出せば完了だろうか。
「おーい、二人とも!!」
「む? ファナ、セカイ様だぞ」
「あるじ?」
二人が作業を終えて戻ってきた。
こうしてみると、親子みたいだな。
「昼飯にしよう」
「おぉ、もうそんな時間ですか」
「ぐぎゅるるるる!!!」
爆音が聞こえた。
俺は笑いながら、持ってきた塩むすびを二人に渡す。
「試食してみてくれ」
「白い……ですな。それに温かい」
「パン? でも……もちもち」
そして二人は食べた。
「これは…………うまい。塩加減が絶妙ですな。なんというか肉が食いたくなります」
「あるじ、おかわり」
「それは米という。腹持ちもよくて、たくさん収穫できる。お前たちが今作っているため池はこの米のためのものだ」
「いっぱい食べれる?」
「あぁ、ファナが頑張ったからたくさん食べれるぞ」
嬉しそうにするファナの頭を優しく撫でた。嬉しそうに目を閉じる。
こうしてみると猫? いや、犬っぽいな。忠犬って感じだ。
「じゃあ、レイナ。米の生産は任せていいか。レオンに作り方は全て教えた。効率化含めて面倒をみてやってくれ」
「わかりました」
「俺はちょっとやることがある」
俺は家に戻る。
さて、ここからは酒造りだ。
これはそう簡単には行かないから大仕事だな。俺も作り方は知識で知っているがやったことはないため手探りだ。
というか勝手にやったら密造酒になってしまう。
まぁこの世界ではそんな法律ないし、16歳で成人なので合法である。
だが俺の知っている知識でいえば、はっきりいうと運ゲーである。
なぜなら発酵という過程には、麹菌という……まぁつまりは微生物が必要だ。
そして俺達が食べてきたほぼすべての日本食には、この麹菌というものが関係している。
正確には麹菌によって生み出された米麹だな。
では、米麹がどうやってできるか。
順を追って思い出しながら羊皮紙に書いてみよう。
「まずは……白米を水につけて蒸すと」
白米は手に入れた。これを蒸す必要がある。
蒸すのは簡単で、俺は植物操作を使って、蒸し器……つまりセイロを作った。
あの中華まんとかができる木でできた蒸し器だ。
これを使って米を蒸していくが、そのまえに一時間ほど水につけておく。
このとき白米は炊いたものではなく炊く前の硬い米を水に浸しておけばOKだ。
さて次は。
「木灰……木灰っと」
蒸した米に、灰をぶっかけて混ぜる。
なぜかというと麹菌は、木灰に強いが他の菌は木灰に弱いのである。
なので、麹菌が住みやすい環境を作ってやればこの木灰で混ぜた蒸米に麹菌がきてくれる。
「よし、あとは湿度を保てるようにっと」
俺は植物操作で小さな小屋を組み立てた。これは発酵室というものだ。
発酵には、湿度が重要なので、水を沸騰させておき、湿度を体感だが60%ぐらいまで上昇させる。
そして発酵室に、木箱を置いてその中に先ほどの木灰を混ぜた米を広げる。
以上、終了。
「あとは願うだけだな」
麹菌がこの地域に……つまり空気中にいてくれればこの木灰の蒸米を見て、めっちゃええとこあるやんとすみついてくれる。
すべてはここからである。
麴菌……種麹ともよばれるものだが、これさえ手に入れば発酵食品に手が伸びる。
そして三日後。
「あかんやん」
俺は忘れていた。
ここは不毛の大地、草木一本生えない場所だ。
ならば当たり前のように菌も生息できるわけがない。
「くそ……こればっかりは運げーなんだよな」
前世なら麹菌を手に入れるためには、市販の麹菌を使って米に振りかけて増やす方法があった。
しかしそれはそもそも最初の麹菌を手に入れた後の話だ。0からの話ではない。
俺はレイナに聞いてみた。
「農業が豊かで、草木も多く、湿度が高い国を教えてくれ」
「何か用事ですか?」
「あぁ、必要なものがある。発酵のための菌だ」
「パンを作るときのイースト菌のようなものですね」
「あぁ、そうか……」
この世界の主食はパンである。
ならパンを作るためのイースト菌、つまり菌が発酵を手助けするという概念はあるのは当然か。
イースト菌……つまり酵母があるなら色々助かるな。
「それはどこで作ってる」
「それなら…………いえ、知りません」
「いや、絶対知ってるだろ」
レイナが言うのを渋っている。
すると湖建造計画の作業がひと段落したソンが汗をぬぐいながら戻ってきた。
「ははは、察してくだされ。セカイ様。その条件ならエルフェンオーブ共和国が完全に当てはまりますな」
「はぁ~そうです。あの国は農作業も、自然も豊か。イースト菌を発見し、パンを主食にしたのもあの国です」
「おぉ! まさしくそんな国を求めてた! 酒造りに必要なんだ」
魔草のおかげで随分土壌も改善し、魔素もなくなったのでトマトや麦なんかの作物も植えたいと思ってたんだ。
そんな都合の良い国があるなら行ってみたいぞ。そこなら空気中に麹菌も絶対いるだろ。
「では、私がご案内しましょう。セカイ様」
「ソンがか?」
「えぇ、領主様の付き添いならばこの地をしばし離れても問題ありますまい。それにその国には何度かいったことがありますから案内もできます」
するとレイナがじとっとした目でソンを見ている。
ソンは何かに気づかれまいと汗を流しながら絶対に目を合わせない。
何かを隠している。
が、まぁいいか。
「よし、じゃあソン。俺の護衛として一緒にこい」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!」
めちゃくちゃ喜んでいる。
なんなんだよ、エルフェンオーブって。
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