第29話 デモルフ族ー4

「本日をもってお前はウジ虫を卒業する! 今日から貴様は誇り高き戦士である!  戦士は死ぬ、我々は主君のために死ぬために存在する! その血の一滴まで、セカイ様に捧げ、立派な戦士となれ!! 卒業おめでとう!!」

「ありがとうございましたぁぁぁぁ!!」

「よくぞやりきったぁぁぁ!! ファナ!!!」

「ししょぉぉぉ!!」


 美しき師弟愛だ。

 暑苦しいな。


「セカイ様。ファナに騎士の基本は全て叩きこみました。十分戦えます。しかしファナは天才……という奴ですな。デモルフ族という点を除いてもです」

「ぶっ殺せます!」

「お、おう……」

「ファナちゃん……どうして」


 随分と元気になって……まぁ、いいか。

 元気が一番だからな! 子供はこれぐらい元気でいい!


「ファナには、俺の護衛として傍にいてもらう。俺を守ることがお前の任務だ」

「ぶっ殺せます!」


 前言撤回。おい、ソン。説教だ。なんだこの悲しき殺戮マシーンは。

 守れって言ってるのに、ぶっ殺すことしか考えてないぞ。

 レイナも悲しい顔をしている。妹のように可愛がろうとしてたファナがこんな殺戮者に変えられてしまったからな。


「ファナ! バーサーカーモードオフ!」

「…………はい。護衛、がんばります。あるじのために」


 するときりっとした目が元の優しい目になった。

 便利すぎるだろ、なんだバーサーカーモードって。

 

「戦闘民族――デモルフ族は、本来優しい種族です。家族愛が強く、温厚です。ですがこと戦闘しなければならなくなったとき、このように一時的に性格が変わるのです」

「お前の仕込みじゃないのか」

「ははは、私はきっかけをつくっただけですよ」

「ふむ、まぁいいか。では、今からD級の魔物の討伐にいくんだが」

「十分勝てると思いますが、私もついていきましょう。戦い方は教えましたが、技術はまだまだですからな。今後も訓練は続けていく予定です」

「あぁ、頼む。頑張れるか、ファナ」

「ぶっ殺せます。あるじ」

「やっぱり性格変わってるやんけ」



 そして俺達は、レイナに付き添ってD級の魔物の群生地へ向かう。

 すると、そこにはガイヤモスをさらにデカくしたい奴がいた。もはや豚というより象だろ。

 それに皮膚が灰色でとても堅そうだ。

 魔綿畑を作っていたときに見かけたが、あれD級だったのか。

 

「グラビモスです」

「カプコンに、怒られるぞ」

「よくわかりませんが、群れの中で特殊な進化をしたものです。特徴は群れではなく個体で生活することですね」


 確かに強そうだ。

 魔樹で頑張れば倒せると思うが、今日はファナのお披露目会だしな。

 

「いけるか。ファナ」

「ぶっ殺せます」


 よし! いけそうだな!

 

「いけ、ファナ! でんこうせっかだ!」

「でんこうせっか?」

「…………と、とりあえず全力でぶん殴れ!」

「コクッ」


 そしてファナは膝に力を入れた。


 ドン!!


 まるで何かが爆発したような加速。

 地面にファナの足跡がめり込み、後方に炸裂弾のように石が飛び散る。


 そして。


『ガァァァァ』


 グラビモスの堅そうな皮膚が、まるでポテチのように砕け散った。

 皮膚が波打って、衝撃派が突き抜ける。グラビモスは地を吐き出して一撃で力尽きた。

 

「まじかよ」


 降り注ぐ血の雨に濡れた黄金の毛と黄金の目、そして褐色の肌の少女。


「あるじ! ぶっ殺しました!」


 血しぶきの中で笑うその姿は確かに悪魔のようにも見えた。





「宴だぁぁぁ!!」


 夜。


 俺達はファナが倒したグラビモスの肉を食べるために祭りを開いた。 

 一頭で、2トンはあるので村人100人でも十分な量だ。

 と思ったが、ファナがアホほど食うのを忘れてたので、もう一頭見つけて倒してきた。


 保存ができればいいんだが、冷蔵庫なんてないしな。

 年がら年中ちょっと熱い不毛の大地では、肉なんてすぐに腐ってしまう。


「しかし驚きましたな。ファナの強さには」

「あぁ。若干引いた」


 俺は隣で肉をもさぼり食っているファナの頭を撫でる。

 

「おそらく現時点でB級下位。鍛えればA級にも太刀打ちできるでしょう。覚醒すればさらに上を」

「覚醒?」

「はい、デモルフ族は稀に覚醒するんです。そのときは髪が逆立ちます。感情の高ぶりがきっかけとも聞きますね」

「集英社に怒られるぞ」


 どうやらファナの強さにはさらに上があるらしい。

 というかあの強さでもB級下位なのか。魔物もすごい強いんだな。


「ちなみにお前が魔導書を使えたらどれぐらいだ?」

「そうですな。A級……S級下位なら戦える……といったところですか。S級達はほとんど伝説の獣たちですから」

「お前もたいがい化け物だな」

「これでもロギア王国に剣聖ありと言われたこともありますからな。最後は、ファルムスの兵1000人は打ち取って死ぬつもりでした。王に止められましたが」

「いずれお前の奴隷紋を外してやろう」

「…………ありがとうございます。ですが……」


 ソンはキャンプファイヤーを取り囲む村人たちを見る。


「十分幸せですよ。私は」

「そうか」

「あとはそうですね。エールでもあれば何も言わないんですがね!!」

「エール? あぁビールか。この世界には酒はエールしかないのか?」

「いえ、エールと蜂蜜酒、あとはワインですか」

「蒸留酒はないんだな」

「蒸留酒? よくわかりませんが、聞いたことはないですな」


 どうやらこの世界に蒸留酒はないらしい。

 アルコールが好きなドワーフあたりが開発してると思ったんだが。


「とりあえずガチャ回すか」

「ガチャ?」

「お前なら話してもいいか。俺の魔法は魔石を使う。そして新たな植物を生み出すんだ」

「なるほど……そのような力が」


 俺はソンの前で生命の魔導書をだす。

 そして裏表紙の穴にD級の魔石を放り込んだ。 10個集めて10連を回したいが、とりあえず一回回してみよう。


 すると真っ白に輝く。

 残念ながらレアではないか。

 URは虹色、SRは黄金、Rは銀色、Nは銅色、UCは灰色、Cは白色の反応を示すようだ。


「さぁ、何がでるかな」


 そして現れた植物を見て俺はこぶしを握って立ち上がった。


「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!」

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