第28話 デモルフ族ー3
「では、また来週向かわせていただきます」
「あぁ、頼む」
定期的に、セシリアが行商として不毛の大地を訪れるようにしてもらった。
これでわざわざこっちに買い出しにこなくていいし、セシリアは石鹸や魔綿をそのタイミングで引き取れる。
あとは、定期的に俺の状況を知りたいそうだ。
一週間もあれば、何をしでかすかわからないですからね。
だそうで、まるで俺がなにかやっちゃいました系主人公みたいじゃないか。
そして半日かけて、夕方に到着。
「おかえりなさいませ、セカイ様」
「「おかえりなさいませ!!」」
また村人たちが俺を出迎えてくれた。
毎回やるのか、これ?
「――!? デモルフ族……」
するとソンがファナに気づいた。
デモルフ族は、大陸中で知られている最強種だから当然ソンも知っているか。
ちょうどいいと俺はソンを呼んだ。
「新入りだ。ソン。こいつを鍛えてくれ」
「私がでしょうか」
「お前以上に適任はいない。それとな」
俺はセシリアに頼んで買ってきたものをソンに渡す。
「――!? この剣は……」
「この剣をお前にやる。大した剣ではないが、いずれ名剣を作ってやろう。この剣と共に、お前をリベルティア領の防衛大臣する」
「まさか……また剣を振れる日がくるとは思いませんでした」
ソンは嬉しそうに、剣を振る。
風圧で俺の髪がめくれた。すごいな。
「まったくあなたという人は簡単に常識を変えてくる。奴隷が大臣など……ふふ、ははは! わかりました! 奴隷の身なれど、このソン・ギルフォード、今一度剣を取りましょう。防衛大臣の任、拝命いたしました」
俺がきてから村長という立場が微妙になってしまったので、俺はソンを防衛大臣に任命した。
魔導書が使えなくても、その卓越した技術でソンならある程度戦えるだろう。それに村人は全員ソンが好きだしな。
というか、魔導書がなくてもこいつ、C級ぐらいの魔物ならなんとか倒せるって言ってたし、魔導書があったらどんだけ強いんだよ。
「初めまして。私はソン・ギルフォードだ。ファナ……といったな」
「…………コクッ」
「セカイ様はとてもお優しい方だ。きっとここに来てよかったと思える」
「…………コクッ」
「ソン……こっちへ」
俺はほとんどしゃべらず元気のないファナを不思議そうに見るソンを呼んだ。
そして、ファナの境遇を伝えた。
静かにそして少し怒っている様子のソンはやはり優しい騎士なのだろう。
「我々と一緒……ということですな」
「頼めるか」
「御意」
ソンの目はメラメラと燃えていた。
あいつも元村長だけあって、面倒見が良いからな。
それにおっさんだし、安心感がある。一人はいて欲しい優しいおっさん。
するとレイナが来た。
「セカイ様、今後の予定ですが」
「あぁ、まずは魔力1万に乗せようか」
「はい、それがよろしいかと。それにD級の魔物も確認しました。ソンさんとファナちゃんを連れて、討伐作戦を実行しては?」
「そうだな。魔綿畑を作成して……それからだな」
「はい。それがよろしいかと」
翌日。
ソンにファナを預けた。
俺は30人ほどの村人を連れていく。
「では、今から種子を配る! ひたすらに植えていけ! そして三日後。すべて回収し、別の地域に移す! そして追加で種まきだ」
「はい!」
東京ドーム三つ分の広さがある魔綿畑予定地をとりあえず人力で種まきだ。
三日で育つので、魔草はやはり優秀だし土壌ができる。
セシリアと相談して、ここ全てをいずれは魔綿畑にすることになった。
といっても焦っても生産体制も何もないので綿が無駄になってしまうから、おいおいだ。
大体二メートル平方ぐらいの間隔で植えるので6万本になるかな。
俺の7000の魔力全てで魔草7000のタネを生み出した。
あんなに小さかった種なのに7000ともなると、すごい量だ。
これを村人のマンパワーで植えていく。
大変だが、頑張ってくれ。俺は領主だからな。みてるだけだぞ。マ・ナナうまいわ。
俺は村人が頑張っている姿をマ・ナナを植えながら眺めていた。
魔力が回復するたびに、種を生み出す。
なんて優雅。民に働かせ、自分はその利益を甘受する。これぞ悪逆貴族よ!
そんな作業が深夜まで続いた。
大体5時間ほどだったな。レイナにはツリーを多めに深夜手当含めてあげてくれと頼んだ。
こんなブラックなのに、村人たちは喜んでやるのだから不思議なものだな。
高度経済成長期ってこんな感じだったんだろうか。全員がやる気に満ち溢れ、イケイケドンドンって感じ。
翌日からも同じような作業が続いた。
その翌日もだ。そして初日から三日が立ち、一気に開花。
10000本近く植えたので、いきなり魔力が17000にまで膨れ上がる。すごいぞ、魔草。
「おぉ! Tier3が開放されている。D級の魔石があればガチャができるぞ!」
「では、ファナちゃんを呼んできましょうか。三日連続でソンさんと訓練中と聞きましたから」
「そうだな」
俺はファナとソンが訓練している場所に向かった。
村の外れで、決して近づかないでくださいって言ってたけどどんな訓練をしているんだろうか。
「ソン、首尾はどう…………」
「お前は蛆虫だ!! セカイ様のために、少しはまともな蛆虫になりたいかぁぁ!!」
「イエッサーー!」
「声が小さい!! 返事もまともにできんやつが、親の仇をとれるかぁぁぁ!」
「サー!! イエッサー!!!」
「よーーし!! 正拳突き一万回はじめ!! 一秒でも休んだら、初めからだぁぁ! 死んだ両親の顔を思い出し、憎き相手の顔に全力で拳を打ち込めぇぇぇぇ!!」
「サー!! イエッサー!!」
「掛け声、はじめぇぇぇ! いくぞぉぉぉ!! 1!!」
「ぶっ殺す!」
「2!」
「ぶっ殺す!」
「3!」
「皇帝、ぶっ殺す!!」
ハートマン軍曹かよ……。
そこには、しっかりと訓練され、目つきがやけに鋭くなった幼女と上裸でムキムキ教官がいた。
俺はゆっくりと後ずさった。
ファナの人格形成に、致命的な何がおきそうだが、元気ならまぁいっか!
俺はみなかったことにして食堂で飯でも食いに行った。
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