第27話 デモルフ族ー2





「ありがとうございましたーーー!! またのお越しをお待ちしておりまーーーす!!」


 濃いキャラだった仮面の男――ソソカの奴隷商館を後にした。

 俺達は、ファナを連れてリベルティア領に戻ろうとしている。


「申し訳ありませんでした」

「黙ってみてられないかったんだろう。気にするな」

「…………はい」


 レイナは謝罪し、そしてファナと手を繋ぐ。


「ファナちゃん。何か食べたいものはある? なんでもいいよ」

 

 レイナはまるで姉のように、ファナを甘やかせようとしている。

 母性的な何かが爆発しているのかもしれない。いつもの100倍優しそうだ。

 俺にもあんな感じで接してほしい、バブみがすごい。


「…………ぐぅぅぅ」


 大きな腹の音がファナから聞こえた。

 そういえばデモルフ族ってめっちゃ食べるんじゃなかったっけ?

 

「セカイ様、ごはんを食べましょう」

「っていってももう夜遅いからな。店はやってないだろ」

「あ、なら私の家にどうぞ! 今日は泊ってください!」

「助かる。じゃあそうしようか」


 セシリアの家に向かった。

 豪邸……というわけではなく一般的な大きなの一軒家だ。

 が、イストリアでは比較的大きな家だろう。さすが商会のマスター。金は結構あるな。


 中は、中々のもので綺麗に整頓され、家具も上級のものばかり。

 貴族の家とまではいかないが、リベルティア領にある俺の家に比べたら雲泥の差だな。

 

「やっぱり職人系が欲しいな。家具とか家とかヒャッハー三兄弟じゃそこまでカバーできない」

「職人でしたらファルムス王国から北、ドワーフ族が住むドワンゴ王国でスカウトされては?」

「いるのドワーフ? あのちっこくて力持ちの一族が?」

「若干イメージに差異がある気がしますが、赤い髭の比較平均的身長が低い種族ではありますね」


 この世界にもドワーフがいた。

 俺の想像するドワーフとは少し違う気がするが。

 スカウトしに行きたい。とても行きたい。


「彼らはお酒に目がありませんからね。上等なお酒を用意できたら不毛の大地だろうが来てくれると思いますよ」

「酒……かぁ、考えておくか」

「じゃあ私は料理しますね」

「私も手伝います」

「ありがとうございます、レイナさん。では、セカイ様とファナさんはお待ちください」

「うむ」


 俺は椅子に座って待った。

 ファナもちょこんと椅子に座って大人しく待っている。あれから感情が爆発しながらも、でも望みができたことでファナは感情を取り戻した。

 いつか親の仇をとる。そして同胞を救い出す。それがファナの目的になった。


 今は大人しく俺達についてきてくれるようだ。

 しかし、小さくて可愛い少女だ。これで一秒あれば俺を殺せるというのか。すごいな、デモルフ族。

 よし、ちょっと試してみよう。


「ファナ、腕相撲って知ってるか?」

「…………コクッ」

「よし、ちょっとやってみようか」

「?」

「俺は自分の目で見た者しか信じないからな。さぁ、こい! いつでもいいぞ!」


 そして俺とファナは手を組んだ。

 本当に細い腕だ。たくさん食べて太らせてあげたい。

 これでは力もでないだろうな、可哀そうに、ここは大人の余裕で優しく……。

 

 ドン!!


「ふんぎゃ!?」


 腕がもげたかと思った。

 気づけば俺の手は、机に叩きつけられて、机ごと粉砕されていた。

 ていうかいってぇぇ!! 折れてない? これ、折れてない? 


「どうしました!! すごい音が!」


 セシリアとレイナが走ってくる。


「いや、ちょっとファナの力を試してみようと……」

「――!? 見せて下さい。あぁ……これは骨にひびが入ってますね」

「おっふ」


 デモルフ族こわぁ。

 これで力抑えられてるの? 万全だったら俺の腕もげてるけど。

 これからはファナの扱いは気を付けよう。


 するとセシリアがガラス瓶に入った青い液体の何かをもってくる。


「回復ポーション・中級です。骨折ならこれで治るかと」

「でた、異世界不思議ポーション」

「異世界?」

「いや、こっちの話」


 知識ではあったが、やはり治癒ポーションもあった。

 魔力回復ポーションと治癒ポーション、どちらもとても高価だが効果は確かだ。

 血が滲んでいた俺の腕がみるみる治っていく。


「ちなみに100万ゴールドしますから、請求書につけておきますね」

「…………あい」


 くっそたけぇ。

 1000万? まぁ骨折が一瞬で治るならそれぐらいの力はあるか。

 余計な出費をしてしまった。


「ポーションの相場もあがりましたからねぇ。はぁやだやだ、ポーション独占してるドラゴニア商会が儲かる儲かる」

「そうなのか?」

「ポーションに必要な薬草を独占してますから。ドラゴニア商会が最強の商会である理由でもありますね。今は戦時下、需要はいくらでもあります」

「ふむ」


 ポーションか。

 Tier3の植物ででてこねぇかな。


「…………ごめんなさい」

「ん?」


 すると、ファナが泣きそうな顔をして謝っていた。

 ミスった。先にフォローいれるべきだった。


「気にするな。これぐらい痛くもなんともない」

「でも、ふんぎゃ!?って……」

「力を入れるときの掛け声だ。ふんぎゃぁぁ!! ほらな」

「その言い訳は苦しいです、セカイ様」

「ふふ、セカイ様って面白いし、優しいですね」


 セシリアとレイナに笑われた。

 ファナは不思議そうな顔をしているがとりあえず悪くないぞと頭を撫でてやった。

 

 そのあとたくさん料理がでてきた。

 化学調味料はないが、素材の味がしっかりとうまい料理だ。

 牛乳はあるから牛の畜産には成功しているのだろう、焼いた牛肉は塩だけでうまい。


「どうした、ファナ」

「…………食べていいですか?」

「もちろんだ。次からは俺の許可はいらない。いくらでも食べろ」


 目を輝かせるファナ、こう見ると年相応だな。

 たくさん食べて大きく育てよ。

 おっさんになると、若者がたくさん食べる姿を見ているだけで楽しいというがその気持ちもわかる。

 何と気持ちよい食いっぷりだろうか、一瞬で全てがなくなって……ほんとになくなっていくんだが!?


「セシリア! レイナ!」

「はい、すぐに!」


 二人は追加で料理を作りに行った。

 ファナがそれはもう食べる食べる。その小さな体のどこに消えた? これも悪魔の一族のなせる業か。

 まるで大猿になる戦闘民族のように、大量に食べる。


「結構……備蓄してたのに、全部消えました。これも請求書につけておきますね」

「あぁ……それにしてもすごいな」

「うっぷ…………」


 はちきれそうな腹でファナは満足そうに眼を閉じている。


「ファナちゃん、すごいですね」

「デモルフ族は、大量にエネルギーを消費しますからね。それでもこの量は信じられないです、食べる量は才能でもありますから……ファナさんは、デモルフ族の中でも特異個体なのかもしれません。それにしてもすごい」

「食費が……まぁ子供にたくさん食べさせるのは親の役目か」

「たくさん稼がないとダメですね、パパ」

「童貞のまま、パパになってしまった」


 俺とレイナはファナを見る。


「お腹いっぱい……むにゃむにゃ」

 

 どうやらお腹いっぱいで眠ってしまったようだ。

 守りたいその笑顔。守りたい俺の財布。

 

「ママ……パパ……会いたいよ」


 それでもまだこの子の傷は深いところを抉っている。


 俺はファナの頭を撫でた。

 するとファナが俺の手を引っ張りぎゅっと抱きしめた。

 寂しんだろうな。俺は微笑みながらその頭を撫でた。……そして涙目でレイナを見る。


「セカイ様大丈夫ですか? ミシって言ってますけど」

「泣くほど痛い」

「あぁ、これは折れましたね。ポーションかけますよ。追加で100万ゴールドです」


 ファナには絶対稼いでもらおうと心に決めた。

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