第25話 リベルティアー3
「セシリア、とりあえず魔綿製衣服の販売権はお前に独占させてやる。ただし、お前の売り方に問題ありと感じた場合はその限りではない。俺は利益だけを重視しないからな」
「心得ています。セカイ様の在り方には私も共感しておりますので」
「ふっ、ならばいい。ではそれにあたって、衣服生産の作業員がいる」
「了解しました。そちらに関しては私の方で伝手がありますので紹介できます。製造するための機織り機なども」
「有能だな」
「ありがとうございます…………ですが、一点だけ問題があります」
「なんだ?」
「正直に申し上げます。この地に移住したい……という方を見つけるのが難しいかと」
「ふむ」
セシリアの言うことは当たり前のことだった。
ここは不毛の大地、いるだけで健康被害を受けるような最果ての地だ。
今はこの開拓村にあたっては、レイナの調査で魔素濃度は、ファルムス王国と大差ないという結果はでたのでその点はクリアしている。
だがそれよりも問題は、船で半日近くかけてここにくるしかなく、娯楽も何もないということだ。
大浴場だけは自慢だが、それだけだ。ここに移住したい。そう思える場所でなければ、人財を確保するのは難しいだろう。
「大変失礼を申し上げました」
「いや、構わない。その通りだ」
俺は海を見る。
目の先にはすでにファルムス王国があるが、海域が危険なため船で移動する場合は大きく迂回しなければならない。
距離にして5キロもないだろう。
「もしもここに橋がかかったらどうする」
まっすぐ進めれば、きっとすべてが変わる。
「――!? ここに橋……ですか。この距離……あまりに常識外れですが……もし橋ができれば徒歩でも移動できる距離です。馬車なら30分ほどの距離でしょう。ですがそのような巨大建造物……あまりに……難しいです」
「そうだな……前世だとしても大規模な工事だ。俺だけでは難しいな…………まだ」
「まだ?」
「いや、なんでもない。なら少し契約内容を変更してくれ。本来なら衣服を卸したいが、それができない。ならお前とリベルティア領の共同事業にしないか?」
「共同事業……なるほど。セカイ様からは素材の提供、こちらは衣服の製造と販売ということですね!」
「あぁ、お前としては利益は落ちるだろうが」
「問題ありません。十分に涎が出る量の利益が見込めます。それに……共同事業であればセカイ様のお力を今後もお借りできるということ。イロアス商会として願ってもない話です。今後もリベルティア領とのお付き合いはより強固にしていきたいので」
「そうか。なら利益は折半。俺からは魔綿の提供、お前は衣服類の製造と販売だな」
「素晴らしいご提案です! わくわくします! イストリアに至急量産体制を整えますね!」
あの街イストリアっていうんだ。初めて知ったな。
とりあえず、今はまだこの村を発展させることが必要だとわかった。
本当なら、全部うちでやって衣服から降ろしたかったが、それは今回は諦めよう。
橋は……そうだな。一つの目標だな。
この大地とあの大地に橋を架ける。
そしていずれは、このリベルティア領に移住したいと思えるような場所にしよう。
たくさんの人がこの領地で暮らしたい。
そう思えるような立派な領地に。
ん? その思考に至った時思った。
俺はなんでそんなことを思っているんだ? 俺はスローライフが出来ればそれでいいと思っていた。
楽をして、領民を働かせて、楽しくのんびり暮らせればそれでよかったのに、俺は今この領地を良くしたいと思っている。
なんでかを考えてみても、明確な答えはでなかった。
強いていれば一つだけ。
「――楽しんだな。俺は」
俺は少し笑った。
そうだ、自分の領地が発展していく様が楽しいのだ。
みんなに感謝され、喜ばれ、そしてみんなと飯を食いながら笑うのが楽しいんだ。
それを理解した瞬間、ふっと何かが腑に落ちた。
よし、俺は決めた。
もっともっとこの地を発展させてやる。
俺は一人、心の中で決意していた。
そのあとセシリアと色々契約内容を決めた。
しばらくは、輸送船は週に一回来てもらうようにして、定期的に情報交換も行う。
こちらからは石鹸と魔綿。セシリアからは生活必需品や食料など。
まだ自給自足できるほどではないからな。
「D級以上の魔石はどうだ」
「10万ゴールドが相場ですが」
「まじかよ」
D級からは冒険者ですら死者も出る可能性が高い魔物が相手になる。
そりゃ10万ぐらいするわ。
うーん、仕入れるより自分で手に入れた方がよさそうか。
「魔石は大丈夫だ。それより一つお願いがあるんだが」
「なんでしょう」
「有能な奴隷商を紹介してくれ」
「性奴隷ですね、了解しました」
「違うわ」
ナチュラルに俺が性奴隷を欲している勘違いはしないでほしい。
俺は愛し合っている者同士でしたい、なんなら床上手なお姉さんにリードして欲しい悲しき童貞モンスターだぞ。無理やりなんて怖くてできないわ。
「労働力が欲しい。それに戦闘力もな」
「奴隷は魔導書を使えませんから労働力としてはいいですが、戦闘力には難しいですね。いえ……例外的にあの種族がいますか」
「ん?」
「見ていただいた方が早いかと。帰りの便でこのまま向かわれますか? 奴隷商なら紹介できます」
「あぁ、レイナもくるか」
「もちろんです。二人っきりにはさせません。その女は、危険です」
「何がだ? 俺の戦闘力はみただろう。さすがにセシリアには負けないぞ」
ポケットには常に魔樹のタネを持っている。
いつだって樹木降臨ができる。
「はぁ~。にぶ」
「糞デカため息やめて」
「ふふ、ではいきましょう。奴隷商のところへ!」
そんな遠足気分で俺達三人は、リベルティア領を後にして、奴隷商のところへ向かった。
夜。
移動するだけで半日近くかかり、夜になってしまうのだから、やはり橋が欲しいな。
「ここか」
「はい、イストリアで最も有名な奴隷商の店です。私の両親が懇意にしていたらしく」
「そうか」
洋風の館に案内された。
ここは、高級奴隷が売られている。
「お客様ですかな?」
するとピエロみたいな仮面をつけた燕尾服の男が現れた。
怪しすぎる。なんだこいつ。と思ったらいきなり俺の目に前にぐいっと現れた。
「申し遅れました!! わたくし、当奴隷商館を営んでおります、ソソカと申します!」
「お、おう……」
「お久しぶりです。ソソカさん」
「ん? おぉ! セシリア嬢! これはこれは、随分と懐かしい。麗しき乙女に成長なされて」
「ソソカさんは相変わらずですね。こちらのセカイ様が奴隷を購入されたいとのことですので案内していただけますか」
「セカイ様……パチン! ノクターン家の! なるほど!! おまかせあれ!!」
指を鳴らして、にやっと笑ったソソカ。
そして商館の扉は開かれ、個室に案内された。
中に入ると……巨大なガラスで区切られた部屋に通された。
ソファに座ると目の前にガラスで、まるでショーウィンドウだなと思ったが、一体何が始まるんだ。
「イッツ・ア・ショータイム!」
と思ったら、目の前のガラスにエッチな女性が次々と現れた。
それはもうエロいを通り越して、裸よりもエロい。
前世ならアイドルだろと思うよな黒髪美少女、ロリ巨乳、ハーフ美女がより取り見取りにセクシーダンス。
「おぉぉ!」
「ノクターン家といえば寝ても覚めても性奴隷! さぁ、気に入った子がいればすぐにでも! レッツ・セックス!! エブリディ・セックス!」
「全部もらおう!」
「お買い上げ!! ありがとうございまーーーす!」
「ふざけるな、アホマスター」
「ふんぎぃ!?」
俺はレイナに目潰しされた。
ちょっと冗談いっただけじゃんか。失明するぞ。
「ソソカさん! 違います。今日はそういう用途ではありません! はやく女性達を戻してください!」
「む? さようですか、セシリア嬢。これは早計でした。失敬失敬」
すると女性達が帰って行ってしまった。
残念、もっと見たかったのに。と言おうと思ったがまた目潰しされそうなのでやめておこう。くそいてぇ。
「では、どういった御用で?」
俺の前にソソカが椅子を持ってきて座る。
「労働奴隷、そして戦力になる奴隷を買いにきた」
「ほう……労働奴隷でしたら、戦争奴隷がおすすめですね。失礼ですが、セカイ様。どの程度、奴隷についてご存じで?」
「わからないから全て説明しろ」
「了解いたしました! まず奴隷には三種類います。戦争奴隷、そして借金奴隷と犯罪奴隷です」
戦争奴隷……戦争で負けた国民たち。本人たちは何も悪いことはしていないのに、ただ国が負けたというだけで奴隷にされた者。レイナもそうだった。所有者は国であり、購入してもあくまで借りているという扱いになるとのこと。有事の際には、回収される。
借金奴隷……金がないから奴隷になったもの。自業自得のものもいれば、親から売られた可哀そうな子もいる。
犯罪奴隷……殺人などの重罪を犯した犯罪者がなる。一番ひどい扱いを受けるし、死刑と同じ扱いであり、人権はなく殺しても誰も文句は言わない。
「犯罪奴隷はいらない。戦争奴隷、それと借金奴隷なら自らが借金したわけではない事情の奴隷なら欲しい」
「ふむふむ、なるほどなるほど。そういう思想ですね。了解しました!」
犯罪者は論外だ。借金奴隷も自らが撒いた種なら自業自得だ。
だがそれ以外は、本人たちに何も問題はない。
なら俺は自由に生きる権利があると思う。
別にこの世界で正しいことだとは思わないが、これが日本で育った記憶のある俺の価値観と倫理だ。
「しかし、ご存じでしょうが奴隷には紋章が刻まれます。魔導書が使えない状態で戦闘力は期待できませんな」
「外せないのか?」
「所有者ならば外せますが……たとえば各地で働いている戦争奴隷の所有者は国ですから王の許可がいります。この国でしたらファルムス王ですね。借金奴隷の方は奴隷商が所有者なので、外せますが」
「ふむ……」
戦争奴隷の奴隷紋は外せない。
外す場合は、所有者に設定された者であるファルムス王の許可が必要だからだ。
ソンをはじめとする不毛の大地にいる村人は、戦争奴隷なので俺では外せない。
一度つけられたものは、魔導書を封じられ、従属の魔法により命すらも所有者に自由にされる。
「レイナのときとは事情が違うか……」
実はレイナを購入したときまだ奴隷紋を付けられる前だった。
当時はロギア王国からの戦争奴隷が大量に入ってきて、奴隷紋を刻むのも後回しになっていたからだ。
あとでつけれることになったが、俺はそれを拒否した。
そして商人に金を渡して、レイナを奴隷であることを隠し、ファストレス王国民として偽装した。
理由単純で、奴隷としてではなく、有能な才女で、自分の秘書として育てたかったからだ。
奴隷ならば格が落ちるし、奴隷を秘書にしている貴族と後ろ指を指されるからな。
当時の俺の思考はそんなものだろう。
だが事実、奴隷であればレイナは学園にも通えなかったし、もっとひどい扱いを受けていただろう。
だからレイナにもその過去は隠させている。
「戦争奴隷としての労働力ならば、相場は成人の男で10万ゴールドですね。若い女は少し根が張ります。他にも料金の目安はこちらに。奴隷商は繋がっていますので、必要とあればいくらでも用意できますよ」
羊皮紙に書かれた一覧表のようなものを見る。
年齢や、能力によって奴隷の値段は変わるようだ。
「わかった。そちらは検討しておく」
「了解でございます。戦力の方が優先ということですな?」
労働力は欲しいが、今はそれほど余裕があるわけではない。
それよりも戦闘力が欲しい。不毛の大地で魔物狩りをしたいからな。
しかし、ソソカという奴。心を見透かしてくる。有能なのだろうが、やりづらい。
「ソソカ、お前の持っている中で最強をだせ」
「それでしたら最高の奴隷がいますよ。超希少種であり、最強種。悪魔と呼ばれたデモルフ族がたった一体だけ」
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