第23話 リベルティアー1

「あ、ツリーという通貨を導入するにあたって一つお願いがあります」

「なんだ?」

「食堂を作りたいんです。今、毎日私と村の女性達で交代制で三食作ってますが専門化したほうが効率が良いので」

「ツリーの使い道含めてってことだな」

「その通りです。今ツリーで購入できるものはありません。いずれはイロアス商会の支店を出してもらえればと思いますが、今はまだ無理でしょう」

「だから食堂か」


 レイナの考えでは、ツリーという通貨を導入し、食堂で使えるようにしたいらしい。

 今はまだこの村でツリーで買えるものを用意できないので、それが良いと思う。

 

「わかった。すぐに建設しろ」

「はい、ではそのように」


 そしてレイナ主導のもと、ヒャッハー三兄弟達や村人でその食堂は作られた。

 三日ぐらいかかったかな? 

 元々調理器具は全てもってきていたので、比較的大きな建物に机といすを並べるだけだ。

 これも全部俺が植物操作で作ったものだがな。社畜である。我領主なんだけど。


 するとソンが俺の隣に来た。


「食堂……これは良いですな。今は食事は決まった時間に配給という形ですが本来好みは千差万別、食事の時間も量も異なりますから」

「あぁ、メニュー含めそれは全て任せる。それとだな、全員集めてくれるか?」

「わかりました。すぐに」


 集まった領民達に俺はさきほど作ったツリーの通貨を手渡した。

 不思議そうにそれを見つめる。大体500円玉と同じぐらいの大きさだ。


「それはツリーという通貨だ。この大地のみで使えるし、この大地での売り買いは全てそれを使ってもらう。その第一歩がこの食堂だ。好きな時間に好きなようにそのツリーを使って飯を食え。ツリーは労働の対価として与えるが、個人間で好きなようにやり取りすればいい」

「おぉぉ……」


 領民達の反応は悪くない。

 まぁ別に新しいことを導入したわけではない。

 お金という普通のことを普通に導入しただけだ。使い方なんて教える必要はない。


「ということで、経済大臣に任命する。以降、ツリーの扱いなどは俺に許可を取らずにレイナの一存で行動してくれ」

「拝命いたしました」


 ということで、レイナにぶん投げた。


「セカイ様! 一つとても大事なことがあります!」

「なんだ、ソン」

「この村は便宜上、開拓村と呼んでまいりました。しかし、それではあまりに粗末。通貨もできたことですし、ここいらで正式な名を考えてはどうでしょう。セカイ様の領地ですし」

「ふむ、確かに」


 確かに開拓村というのは、名前というより概念だ。

 ならばここに名前を付けるべきだな、今後外と取引するときも開拓村って言うのも変だし。

 さて……何がいいか。


「セカイ様……名とは願いです。こうなってほしい。そういう願いを込めてみてはいかがでしょうか」

「願い…………か」


 俺はこの村にどうなってほしいのだろうか。

 俺はこの村で何をしたいのだろうか。


 俺は、自由に生きたい。

 そして楽しく暮らしたい。

 そんな単純で、大事で根源的な願い…………自由と喜びを求める場所。


 そういえばそんな単語があったな、たしか……。


「リベルティア」

「…………素晴らしき名かと」


 自由と喜びを意味する言葉、リベルティア。

 俺はこの領地にその名をつけた。


 うん、悪くない。

 俺は大きな声で宣言する。


「今日から俺の領地は、開拓村改めて、リベルティア領と呼ぶ! その言葉の意味を胸に刻み、今後も一層励むように!」

「「はっ!!」」


 領民達が膝をついて、俺に忠誠を誓った。

 これがリベルティア領の最初に一歩だった。


 そして、一月後。

 セシリアがリベルティア領にやってきた。


「よくきたな、我がリベルティア領に」

「リベルティア領? あ! 名前をつけたんですね! 良い名前です!」


 セシリアを港で出迎えた俺は、村を案内した。

 

「レイナ、ついてこなくていいぞ。俺一人で案内する」

「いやです」

「大丈夫ですよ、レイナさん。セカイ様に案内してもらいますから」


 そういって俺の腕に腕を絡めてくるセシリア。

 これがあててんのよ、か。興奮してきたな。

 と思ったらレイナが間に入ってきた。


「あらぬ噂が立ちますから距離感はしっかりと保ってください」

「私は、噂たっても大丈夫ですよ。ねぇ、セカイ様」

「噂、立てちゃうか……いてて!?」


 レイナに脛を蹴られた。我、マイマスターぞ?


「まずは石鹸ですね。こちらに用意してます」

「まずは?」


 そして俺はレオンを呼んだ。

 石鹸担当大臣である。あれから沢山の比率を試して遂に最高効率で一番固くなる比率をレオンは見つけた。

 それを量産して、見事一万個の石鹸の作成に成功したのだ。

 さらに香油も購入した分を混ぜて、いくつか匂いの種類もある。


「…………これが完成形ですか。事前に頂いたサンプルも素晴らしかったですが……これはさらに完成度が高いですね」

「はい! いくつか匂いの種類もあるので、試してみてください! こちらサンプルです!」


 レオンは、今日セシリアが来ることを知っていたので確認できるようにサンプルまで用意していた。

 本当にできる子である。


「ありがとう。その年ですごいね…………うーん、いい匂い。これはラベンダーね。こっちは……バラの匂い。すごいですよ、セカイ様。これは絶対に売れます」


 水で手洗いをして、殺菌効果も確かめたセシリアは大満足だった。

 商談は無事成功、そして次回もまた一万個の発注を依頼された。

 まだ流通していないが、流通すればさらに生産量も増やしてもらいたいとのこと。


「やったな、レオン。お前がリベルティア領の稼ぎ頭だ。よくやった」

「はい。あ、あれ? なんで……悲しくないのに」


 俺がレオンの頭をなでると、レオンは泣いていた。

 子供ながらに1000万円の契約だ。プレッシャーもあっただろう。

 成功した安堵と、嬉しさでぽろぽろと泣いていた。


「その気持ちは忘れるな」

「は゛い゛、よ゛ろ゛こ゛ん゛で」


 これで石鹸の契約は完了だ。

 そして次は魔綿である。

 レオンが頑張ってくれたのだから、俺も頑張らなくてはない。

 

「なんですか? セカイ様。もしかしてまた面白いものを開発したんですか?」

「開発とは違うな。これに関しては、お前と共同で開発したいと思っている」

「それは楽しみですね。ですが私は厳しいですよ、こと商いに関しては甘くありませんし、気を遣わずにバンバンいいますからね。たとえセカイ様の紹介でも、生半可な商品では、契約などしません!!」

「望むところだ」





「するする! 契約しますぅ!!」


 やっぱり即落ち二コマだった。

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