第22話 バナナ? いいえ、マ・ナナですー2

「お、お、おぉぉぉ!? 体に力が漲りますぞ!」


 ソンが意味もなく服を脱いで腕立て伏せをしだした。

 脳みそまで筋肉か、こいつ。しかしムキムキだ。こんな村でよくそんな筋肉維持できたな。

 

「すごいです。セカイ様! めちゃくちゃ早く走れます!」


 レオンが意味もなく走り出した。元気か、こいつ。


「どうやら……身体能力が向上しているようです。私も今ならセカイ様の首をへし折れそうです」

「なんでそんな怖いこと言うの?」

「それに……魔力回復量が」

「無視かよ」


 俺はわなわなと手を震わせるレイナに若干、身の危険を感じながら、魔導書を開く。

 そこには、マ・ナナの効能が書かれていた。


===========================

マ・ナナの効果:残り23:59

・毎分最大魔力の0.1%回復

・身体能力強化

===========================


「魔力が1分で6回復するようになっている」


 今までは1分で1魔力しか回復しなかったのだが、マ・ナナを食べることで追加で最大魔力の0.1%回復するようだ。

 俺の魔力は今、5650なので、0.1%とは5となる。切り上げか切り捨てかは知らないが毎分5の魔力が追加で回復するようだ。

 最大魔力の比率で上がるというのなら、つまりは、10分あれば1%、1000分……つまり16時間ほどあれば100%、つまり全回復するようになっている。たとえどんなに魔力が増えてもだ。

 

 すごいぞ、マ・ナナ。いや、ほんとにすごいな、マ・ナナ。

 そんなマ・ナナ!


「回復量がネックになってましたが、これで……解決ですね」

「あぁ、一日で回復できるようになった。ウルトラレアにふさわしい能力だ」

「しかも身体能力強化ですな。付与の魔導書が扱う魔法の中でも最も使われ、最も強力と言われる魔法です。それを食べるだけでとは……これは……恐ろしい。国が……いや、世界が揺れますぞ」

「はい。後ろ盾がない今。この作物を輸出するのは大変に危険ですね」


 マ・ナナはレイナとソンの評価が滅茶苦茶に高い。

 レイナは言わずもがなだが、ソンのような一戦で戦っていた武人が言うのだからこれは相当なのだろう。

 

 とりあえずマ・ナナは俺達だけの秘密ということにして、大量生産は一端抑えることにする。

 俺に庭だけで栽培して、毎朝食べるようにしようかな。

 そしてその日は解散した。



 それから三日後。


「黄色いマ・ナナができました」

「熟成……というやつですか」

「これは見事なものですな。腐る……ではなく、熟成というのですね」

「…………甘い匂いがします! セカイ様!」


 手伝ってくれたお礼にレオンとソンを招いてマ・ナナの実食会を行った。

 収穫してから三日、しっかりと熟成して黄色くなったマ・ナナは前世で見たバナナと瓜二つだった。

 

「では」

「「いただきます」」


 もぐもぐもぐ……うん、バナナだ。朝飯としてちょうどいい。

 

「美味しい……」

「甘いです! 甘いですよ、セカイ様!」

「これは驚きましたな。これほど甘い果実があるとは……それに力が漲ってくる感覚!! あーーーもうたまらん! ふん!」


 だからなんでいきなり、脱いで筋トレするんだよ。

 ふんふん、うるさいな。


「しかし、チョコバナナが食べたくなるな」

「チョコバナナ?」

「あぁ、チョコってないんだっけ? 甘味ってなにがある?」

「甘味ですか…………ハチミツなどですかね」

「あれ、砂糖ってないんだっけ?」

「サトウ? よくわかりませんが……」

「まじか」


 なんとこの世界、砂糖がないのである。

 そういえば、レイナが買ってきた食材はほとんど調味料がなかったな。

 素材の味を生かした料理はおいしいが、焼き肉のタレとか味噌とか醤油とか。そういうのも食べたい。

 

「とりあえずしばらくは魔綿だな」

「そうですね。では魔樹の量産と壁の建築をお願いします」

「…………はぁ」


 人手が欲しいが、今は仕方ないか。

 俺はマ・ナナを食べて、今日もレイナが予定している東京ドーム三つ分ぐらいのエリアの安全を確保するため高さ10メートルぐらいの魔樹を使った壁を建設している。これがあればいきなり襲われて命を落とすということはないだろう。見張りも必要になってくるが、この壁ができれば村から街へレベルアップできそうだ


 夜。


「セカイ様、相談があるんですが」

「なんだ?」

「経済……つまりお金を導入しようかと」

「ふむ、理由は?」

「はい。今、領民達は無償ですが、とても高いモチベーションで仕事をしてくれています」

「あぁ、よくやってくれている」

「ですが、人が今後増えればさぼる者もあらわれますし、モチベーションも永遠には続きません。今のうちに導入し、労働には対価を……と思っています」

「…………ふむ」


 確かに毎日働いているが、無償だからな。

 今後村を街、そしてさらにその上に発展させていくなら金の導入は必須だろう。

 人それぞれ欲しいものもある。なのに今はその自由が一切ない。


「わかった。許可する。レイナの好きなようにしろ」

「わかりました。ではこれを作ってください。出来るだけ多く」

「なにこれ」


 レイナに羊皮紙を渡された。

 それを見ると、木で作った金貨のようなものが描かれている。

 装飾が結構凝ってるな、レイナは絵がうまい。それに金貨には……数字がかかれていた。

 1,10,100、1000、10000の五種類だ。


「1ツリーという通貨です。セカイ様の魔法でしか作れないような構造をしています。利便性のため1,10、100、1000、一万ツリー硬貨の5種類を用意していただきたいです」

「確かに植物操作がなければこれは無理だろうが……新しい通貨いるのか?」

「そもそも私たちに配れるほどのゴールドがありません。ですがセカイ様がこの通貨を作れば信頼に当たりますし、この不毛の大地だけで使えれば問題ないかと。手形……と呼んでもいいかもしれないですね」


 確かに今、領民達に払えるゴールドはない。 

 なら、いくらでも俺が生産できる通貨を使えばいい。

 なるほど、こうやって国ができるのか。というか勝手に作っていいのかな。

 まぁこの大地って手つかずでどの国のものでもないし……一応俺の領地だし。だがうちの家がなんていうか。


「私はセカイ様がこの大地の王になればいいと思っています」

「いきなり爆弾発言するな」

「私だけではないです。あなたに王になってほしい人は多いでしょう。そして…………虐げられているすべての者たちの安住の地を築いてほしい。…………すみません、出過ぎた話でした」


 俺は考える。

 そんな大それたことは考えていなかった。

 しかし、俺は侯爵家から処刑される可能性すらある身。

 今は領地改革にいそしんでいるが、いずれ侯爵家とは戦うことになる気がする。


 なぜなら俺を殺せば改革した領地は全て俺の父の物だからだ。


 だが黙ってやられるわけにはいかない。

 そのときは戦わなければならないし、戦う戦力がいる。俺はそれを集めなければならない。


 そして俺が負けたなら…………。


 俺は外に出て、領民達を見る。

 今笑顔でいる彼らはどうなる。奴隷として虐げられている者たちはどうなる。

 そしてなにより、こんな俺に付き従ってこんな辺境の地まできてくれたレイナはどうなる。


 そんなものは火を見るよりも明らかだ。

 凌辱され、屈辱を受け、一生人としての自由はないだろう。

 それは……許せないし、許さない。


 なら答えは一つだ。


「ならばなってみせようか」

「本気ですか?」

「そのための計画はあるんだろ? 優秀な秘書」


 するとレイナがにこっと笑う。


「もちろんです、マイマスター」


 俺はそれを見て、ふっと笑った。

 どうやら俺はこの運命から逃れられないらしい。

 悪逆貴族から悪逆王族になってしまう日も近いだろうか。

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