第21話 バナナ? いいえ、マ・ナナですー1

 開かれたページ、そこに虹色の文字で描かれたのは。


「バナナだ」


 完全にバナナである。

 バナナ……バナナかぁ。うん、バナナだな。


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名称:マ・ナナ

Tier:4

レア度:★★★★★★(ウルトラレア)

成長速度:300日

種子作成:10魔力


説明:魔素濃度が1~2パーセントの範囲。

さらに肥沃な土壌と栄養価の高い水がなければ、育たない。

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 マ・ナナだったわ。

 なんだ、マ・ナナって。バナナでいいだろ。


「緑色……の作物のようですね」

「バナナって知ってる?」

「いえ、聞いたこともないです」


 どうやらこの世界には、バナナはないらしい。

 バナナはまぁうまいからあたりか。

 うん、なんか期待してたのはもっと魔王草! とか、神樹! とかだったんだけどバナナか。


「当たったんでしょうか」

「あぁ、レオン! お前のおかげだ。よくやったぞ、褒美としてマ・ナナを最初に食べさせてやる」

「はい、喜んで!」


 褒美、兼毒見である。

 まぁ毒ってことはないだろうが。


 俺は裏手の庭にいって、バナナの種子を作成する。

 植えてみて、成長促進を発動してみた。


 バチッ!


 弾かれた。

 ……水をかけてみる。

 また弾かれた。


「肥沃な土壌……それに魔素濃度か」

「ここの庭は土壌は少し、浅いですからね」

「よし、ヒャッハー三兄弟を呼んで来い、レオン。残業だ」

「はい、喜んで!」


 少し待ったら、なぜかソンが来た。


「力仕事が必要だと聞きましてな。さっそくセカイ様のお役に立てると、変わってもらいました」

「まじめだな。では、改善された土壌を深さと広さにわけて検証する。まずは一メートル深く掘ってみるか」

「了解しました!」


 それからソンとレオンで、深く掘ったり、広く掘ったりして改善された土壌の土を入れ替えてを繰り返してみる。

 だが一向に成功しない。

 考えられるとしたら……。


「魔素濃度か」

「ここは、魔素濃度が低いとはいえ、十分濃い場所ですからね。2パーセント以下となると……中々」

「よし、なら魔草の生えている場所に移動しよう」


 俺達は、魔樹や魔草を植えている場所に移動する。

 この二つの植物は、魔素を吸い取って成長しているのでこの周辺は魔素濃度が薄いはずだ。

 魔素濃度を測る魔道具でもあればいいんだが。


「魔素濃度を測る魔道具はありますよ」

「あるのかよ」

「まぁ今はもっていませんが、ドワンゴ王国では魔素濃度を測定する魔道具を作成しています。が、正確でなくてよいならロウソクの火で代用できます。魔素は空気中に含まれる物質ですが、燃えたりしません。なのでろうそくに火をともすと、魔素濃度の高い空気では炎が小さくなります。なのでろうそくが消える時間などで大体図ることができますね」


 なるほどな。

 おそらくこの世界に、酸素や二酸化炭素という知識はない。

 しかし、経験から魔素を多く含む空気では、炎が燃えるために必要な酸素の量が少ないことはわかるのだろう。


 あぁだから、体調が悪くなるやつもいるし、作物も育たないのか。

 二酸化炭素の量とかそもそも空気の中に含まれる成分が異なるからそりゃ体調が悪くなる。

 簡単にいえば空気が汚いんだ。


 それを魔草や魔樹は魔素を吸い取って、酸素を生み出し正常に戻しているのか。

 この地で草木が一本も生えない理由もわかったわ。


「ろうそくって家にあるか?」

「はい、あります。非常用に100本ほどしかありませんが」

「よし!」


 そして実験を開始した。

 チャッカマン(火をつける魔道具)で、家の庭のろうそくに火をともす。

 そのまま使うと長すぎるので、均等な長さになるように切って使った。


「どれぐらいで消える?」

「この長さなら、20分ほどですね」

「わかった」


 とりあえず、庭と魔樹が置いてある場所に設置して測定。

 すると確かに炎のサイズが違う気がする。結果でいえば1分ほど消える時間が変わった。


「確かに魔素濃度が違いますな。しかしレイナ様は博識でいらっしゃる」

「セカイ様が学園で学ぶ機会を与えてくださいましたから」

「それでも…………ご立派でございます、とても。……本当によく頑張られました」

「あ、ありがとうございます?」


 ちょっとレイナが照れている、珍しい。

 ソンはまるで親のような温かい目だな。


 検証は終わったので、今後は魔素濃度はこのろうそくで図ることにしよう。

 というか体の健康を害するなら村の中で魔素濃度が高い場所を減らす必要がある。

 やはり魔草さんと魔樹さんを置きまくるしかないか。魔素濃度の調査もやらせないとな。


「レイナ、居住区間の魔素濃度は常に測定するように」

「わかりました。すぐに濃度が濃いエリアの調査に入ります」

「あぁ、頼む」

「素晴らしいご判断です。魔素濃度で病気になるものも多いですから……感謝します」

「ありがとうございます」


 レオンとソンが頭を下げた。

 多くの人が病気で死んでいったのは、魔素が大部分の原因だろう。

 

「領主として領民の健康を保証するのは、当然だ」

「それを当然のようにいえることこそが、セカイ様が皆に慕われる理由です」

「慕われているのか?」

「この村で、セカイ様を悪く言うものなどいません。全員が最高の領主がきてくれたと喜んでおりますよ。我らの目線で話してくれて、時には友人のように心を開き笑ってくれると。私も例にもれず、セカイ様が大好きです」

「男に好かれてもな……」

「ふふ、女性達もあわよくばお手つきされたいと話題だそうで」

「ふっ…………まじで? 後で詳しく聞かせて」

「ダ、ダメですよ! そんなことすれば……村で不和が広がります。それに病気もありますし、避妊具だって! と、とにかくダメです!」

「たくさんダメな理由があるみたいだ、ソン」

「ふふ、さようで。しかし、たくさん…………ではないようですがね」


 なんかソンが俺とレイナを交互に見てにやっと笑っているが、何を企んでいるのか。

 ところで俺、悪徳領主だし領民を手籠めにしてもいいよな?

 しかし、前世含めて童貞なので初めては愛し合う者同士がいいという悲しき童貞モンスターなので、結局できないのである。



 では、話が逸れたがマ・ナナを植えてみよう。

 土壌は十分、水も用意した。魔素濃度もだいぶ低そうだが……はたして…………。



 にょきにょき!


「おぉぉぉ!! できた!!」


 バナナの木が生えた。やはり魔素濃度が原因か。この辺は1~2%ほどらしい。基準は全く分からないが。

 高さは魔樹よりも少し小さいぐらいで、緑色の俺が知っている黄色いバナナではない。

 収穫時は緑色で、3日ほど放置すれば黄色のいつものバナナになって甘い味になるのだ。


 俺は一つとって、食べてみた。

 うん、青臭くて甘くない。熟してないとあんまりうまくないな。

 俺はみんなに食べさせた。


「芋……に近いですかな?」

「個性的な味ですね」

「嫌いではないですけど……ちょっと苦いですね」


 みんなの感想もおおむね同じようだ。

 

「ふふ、三日後また食べさせてやる。そのとき同じ感想が言えるかな?」

「それは楽しみですな……ん?」


 そしてそれはやってきた。

 体中から力が漲る。全能感……とでもいうのだろうか、今なら50メートル走4秒台が出せる気がする。一体なんだこれ。


 俺は魔導書を見る。

 するとマ・ナナのページに実を食べたときの効能が追記されていた。

 それを見て、目を見開く。

 なぜならそこに書かれていることは、まさしくURにふさわしいチート級の効果だったからだ。


「そんなマ・ナナ」

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