第18話 スーパーレアー1

 綿。

 現代日本でもめちゃくちゃに使われる素材である。

 その用途は幅広く、衣服はもちろん。寝具、ろ過装置、マスクなどなど。なんでも利用されている。


「綿……ですか。なんですかそれ」

「え? 知らないの? 服の素材なんかに使うだろ、これとかそうじゃないのか?」

「いいえ。貴族用の服は羊毛……ウールです。庶民の服は、品質の悪いコースウールやリネンと呼ばれる亜麻布ですね」

「もしかしてこの世界、綿がないのか……前から思ってたがなんか結構絶滅してるよな」


 俺は家を出て、村の住民の服を触ってみた。

 うわ、すごいざらざらしてる。見た目からはあんまり気づかなかったが、基本的には亜麻という植物を利用して作る。

 それに確か結構な生産コストだった記憶がある。なのに固いし。


 あぁ、だからこの世界の住人は衣服がほとんどなくて毎日同じ服ばっかり来てるのか。

 着心地悪そうだったんだよな。タオルはあるがあれは羊毛だったのか。


 しかし綿がないなんて……我、貴族だったから知らなかった。

 確かに畜産が現代日本ほど進んでいないこの世界で、羊毛なんて高級素材を庶民が使えるわけないしな。

 現代ですら羊毛は高い分類だ。


 俺は魔綿のページを見る。


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名称:魔綿

Tier:4

レア度:★★★★★☆(スーパーレア)

成長速度:150日

種子作成:5魔力


説明:魔素が濃い土地でも育つ丈夫な種。

とても柔らかくそれでいてしなやかな吸水性にすぐれた魔力の込められた綿を生み出す。

土壌と水がなければ、育たない。

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 ふむ。

 とりあえず、レオンを呼ぼうと思ったがあいつは石鹸製造に忙しい。

 レイナは……やめとこ、忙しいって怒られそうだし


「手伝いますよ」

「あ、そうなの?」

「これでも私、あなたの秘書ですが」

「それでもお前、俺の秘書だったのか」

「…………ギロ」

「よし! 魔綿を作ろう! 一緒に作ろう!」


 睨まれたので、俺はさっさと種子作成を行った。

 生み出された種を家の裏の庭に、埋めてみる。

 土壌はできている。水も川の隣に建ててくれたので、すぐに取りに行けた。


「さて……」


 そして俺は成長促進を発動する。

 芽が出て、にょきにょきと育っていく。俺の身長を超えたあたりで、つぼみができて、ゆっくりと開いた。

 その中には。


「綿だな」


 真っ白な綿ができていた。ってかデカいな……さすが魔綿。綿の木とは違う。

 俺はそれを触ってみる。ふわふわしている。

 触感は完全に綿だが、普通の綿よりもしっかりしているのかもしれない。


「すごいですね。ふわふわで……柔らかい」

「これで服や寝具ができるぞ」

「――!? 確かに……羊毛に近い。またとんでもない植物を生み出しましたね。これ一本で羊一頭分はありますよ」


 通常の綿の木よりも、ずっと実が多いし、大きい。

 しかも羊と違って世話もいらないし、水だけでいいとはなんという便利植物。


 そうだ、Tシャツ作ろう。貴族の服とかいらないわ。

 後は、枕とか布団もふわっふわなの作ろう。

 いまだに床で寝てるから腰が痛い。社畜時代を思い出すからちゃんとした布団で寝たい。


「これ売れるかな」

「めちゃくちゃ売れます。石鹸よりも圧倒的に」

「世界変わっちゃわない?」

「羊毛の既得権益は無くなるかもしれませんが、大多数の平民の着る服の質が向上するのはとても良いことです。それに……」


 にやっとレイナが笑った。


「ドラゴニア商会の牙城を崩す一点になるかもしれません」

「お前も結構、根に持ってるんだな」

「可能であれば、土下座している頭を踏みつけてつばを吐きたいぐらいです」

「それはご褒美かもしれない」

「セカイ様が望むならいつでもしてあげますよ。『変態が』って言いながら頭を踏んでつばを吐いてあげます」


 はい、喜んで! とは言いません。

 ちょっとゾクッと来たのは内緒だが、さすがに男のプライドがギリギリのところで踏みとどまった。


「一月後までに、ある程度量産できますか? 糸にする方法は、羊毛と同じだと思うので私に任せてくれれば手の空いている女性にやってもらおうと思うので、教育しておきます」

「そうだな。重労働よりそっちの方が向いてるだろうな」


 決して男女差別ではない。

 農業は重労働なのだ。ならば糸を作る方が女性の方が向いているだろう。家でできるし。

 適材適所という奴だ。この世界にLGBTの考えがあるのかは全く知らないが。


「ちなみに羊毛ってどれぐらいするんだ?」

「大体、10キロで30万ゴールドぐらいが相場ですね。一般労働者の一年分に匹敵します」


 たっか。

 10キロで300万円ってこと?

 ってかこの世界の一般階級の平均年収300万なんだ。

 日本よりちょっと少ないぐらいか。物価とか違うから単純計算とはいかないだろうが。


「この魔綿は150日で出来るんですよね?」

「あぁ、そうみたいだな。一年で二回収穫できるぐらいか」

「一本で大体……500グラムぐらいは収穫できそうですね。随分と大きいですし。ということは二本で1キロ」

「20本植えたら、10キロか。いくらで売るか。羊毛と同じ値段だと意味がないし」

「これは……正直難しいですね。セカイ様の裁量次第ですし、価格破壊が起きかねません」


 正直作成に必要な魔力は種子作成含めてたったの160しかない。

 俺の魔力は最大値は5000、まぁ一日の回復量は1400ほど。

 それでも毎日9本近くは植えられる。

 一月もあれば、300本ぐらいの魔綿畑ができるだろうし、一本の魔綿の木から種は数えきれないほど生まれる。


 選択肢は二つ。

 羊毛と戦えるように少しだけ安くして利益重視で売る。

 それとも、めちゃくちゃ安くして製造コストから計算して安さ重視で売る。

 どちらがいいか。


 そんなの決まっている。


「安く売って広めよう。いずれは不毛の大地の名産品になる」


 正解は安く売って、広く売って、莫大な利益を得る。だ。

 着やすくて安い服の大量生産、そして大量販売、俺は異世界のユニ〇ロになる。

 販売ルートとか考えるのは面倒なので、セシリアに一任しよう。喜んでやるだろ。


「私もそれが良いと思います。ドラゴニア商会が牛耳り、独占している衣服関係に風穴が空くでしょう」

「じゃあどこに植える? 土地だけは有り余ってるんだろ?」


 不毛の大地の土地は、バカ広い。

 それこそファルムス王国なんか比ではない。

 帝国よりも若干デカいぐらい、それが不毛の大地。ただし人が生きていける環境ではなく、魔物も強いが。


「それがですね……実は」

「ん?」


 俺はレイナに案内されて、赴く。

 今俺達は、海に面した漁村のような開拓村で、周囲を少しせり立った山に囲まれている。

 山といっても視界が悪いだけで、数十メートルほどの緩やかな坂なのですぐに昇れる。


 そして登った先には。


「魔物か」


 豚みたいな魔物が群れで生活していた。

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