第17話 商会と取引ー4

 翌日。


「では、子供たちをお願いします。一月後に私も向かいますので」

「あぁ」


 俺は30人ほどの子供たちを船にのせて、物資と共に不毛の大地へと帰った。

 たった三日ぐらいだったが随分と長く感じたな。

 

 また船に乗られて半日近く。

 しかしこれもどうにかしないとな。距離は近いのに、あまりに遠い。

 港につくと。

 

「おかえりなさい!! セカイ様!!」

「おかえりなせぇ! セカイ様!!」

「待ってやしたぜ! アニキ!」

「こいつ、セカイ様が帰ってこなかったらどうしよってずっと心配してたんすよ!」

「ちょ、やめろ! 嘘ですよ、セカイ様! 信用してましたからね!」


 村人全員が笑顔で俺を出迎えていた。

 別にそんなことを指示していたわけではないのに、心の底から俺を歓迎している。

 するとヒャッハー三兄弟、長男のイチロウが前に出てきた。


「アニキ! きてくだせぇ! きてくだせぇ! 見せたいものがあるんでさぁ!」

「ん? なんだ」

 

 ジロウとサブマリンも俺の腕を引っ張る。

 他の村人たちも嬉しそうに俺の背中を押す。一体なんなのか。

 すると、連れていかれた場所には。


「…………これ」


 立派……とまでは言えないが、十分に綺麗な家が建っていた。

 前の吹きさらしのほぼお化け屋敷とは雲泥の差だ。

 しかも庭までついている。


「さすがに領主様にあんな家に住まわせ続けるわけにはいかねぇって、村人みんなでこの三日で建てたんでさぁ!」

「気に入っていただけやしたか、アニキ!」

「ちなみにレイナ様の部屋も用意してやすぜ。ぐへへ、同じ屋根の下ですね」


 俺は中に入ってみる。

 綺麗だ。大浴場と同じように、魔樹の木材で建てたのだろう。

 木の良い匂いが広がる新築だった。


「今はこれが精いっぱいですがね、いずれ大貴族にも負けない家を作りやすんで!」

「今だけこれで許してくだせぇ! アニキ!」

「…………ふっ」


 俺は思わず笑ってしまった。


「ちゃんと名領主になってますね、セカイ様」

「…………予定とは違うがな」


 俺は今度こそ、悪人になろうと思った。

 自分のために行動し、自分がやりたいように行動する。他人を尊ぶことはなく、自己中心的に世界を回したかった。

 ……そういう生活を送ろうと思ったのに。


「……悪人になるのも難しいな」


 ままならないものだな。

 そして俺は新築を手に入れた。まだまだ小さいが、六畳一間のあの部屋よりはずっと大きい。







 そのあとレイナと俺は荷物を卸した。

 これで美少女秘書と夢の同棲生活である。間違いの一つもおきるというものだ。


「では、この部屋を私の部屋にします。絶対に入らないでください。入ったら凍らせます」

「うっす……」


 前言撤回、たぶん何も起きない。

 するとレオンが俺を手伝おうとやってきたので、タイミングが良いと俺は石鹸のことを話すことにした。


「石鹸はどうだ?」

「はい! セカイ様に言われた通りに作ってみたんですが、うまくいきました! 誰にも作り方は教えてませんし、イチロウさんたちにも油の用途は秘密にしてます!」

「良い判断だ。今後、石鹸を売り出していく。お前には、色々試行錯誤してより品質をあげてもらいたい」

「はい、喜んで!! 比率は覚えながら、色々試してるところです!」

 

 レオンは地頭がいい。

 話していても1を聞いて10とまではいかなくてみ3や4は理解してくれる。

 

「一月後に一万作る必要がある。必要なものは全部、揃えるから遠慮なく言え」

「はい、喜んで! ……でも僕一人で、一万はちょっと難しいかもしれないです」

「あぁ、それだがな」


 俺は連れてきた子供たちを集めて、レオンを紹介した。

 子供たちは基本的に村長のソンに任せ、まだ空いている空き家を紹介した。

 子供たちには、しばらくは石鹸製造をお願いしようと思う。

 元々農業もやってもらいたかったが、今は石鹸が最優先だ。


 それに石鹸の作成作業は、重労働ではないからな。

 子供でも片手間でできる。

 朝から晩まで働かせるつもりはない。しっかり遊び、しっかり働き、たくさん食べてたくさん寝れるように。


「今日からこのレオンがお前たちのリーダーだ。レオン、ここにいる全員と石鹸を作れ」

「いいんですか?」

「各工程ごとに担当グループをわけて、全容を把握できないようにしろ。そして最後の仕上げはお前ひとりでやれ。もしばれたら監督不行き届きで処罰する」

「…………わかりました! 頑張ります!」


 子供に責任を負わせるのは心苦しいが、これもまた成長だ。

 それに処罰するといったが、そんな大層なことをするつもりもないし、ばれても他の商品を作ればいいだけだ。

 石鹸だけで終わるつもりはない。


 まだまだ作りたいものはあるし、金になる知識はある。


 そして俺はレオンに作業を依頼して、家に戻る。

 

「ガチャですか?」

「あぁ、今後のことがこれで決まってくるからな」

「…………そうですね。素晴らしい植物を期待しています。金の生る木とか」

「プレッシャーだな」


 俺は魔導書を開く。

 ここでガチャについての注意事項をもう一度読んでみよう。


 ガチャにはTierがある。

 それは1~4で、Tier4のガチャを回すにはランクE、Fの魔石が必要だ。

 それ以上のTierならおそらくそれ以上のランクの魔石が必要なのだろう。


「ランクE……ランクF、まったく結果が同じなら絶対Fの方が安上がりだが」


 魔導書の裏表紙にはこう書かれていた。

 


 ガチャ確率表(下位)

 ・SR(スーパーレア)……0.1%

 ・R(レア)……1%

 ・N(ノーマル)……10%

 ・UC(アンコモン)……30%

 ・C(コモン)……59%



 ガチャ確率表(上位)

 ・UR(ウルトラレア)……0.1%

 ・SR(スーパーレア)……1%

 ・R(レア)……10%

 ・N(ノーマル)……30%

 ・UC(アンコモン)……59%

 

 おそらく解放される植物のレア度とガチャの確率だとは思うが上位と下位で内容が違う。

 上位とは、Eランクの魔石。下位とはFランクの魔石の事だと思う。

 ということはFランクの魔石をいくら回してもウルトラレアは出てこないということだろう。

 その代わり、Eランクの魔石ならコモンが出ない代わりに、レアが出る確率が大分上がっているようだ。


「ふぅ……Fランクの魔石が10個。Eランクの魔石が30個か」


 これだけで300万近い。

 さすがに廃課金ユーザでもこの額を一度に回すことはないだろう。ないよな?

 

「負ければ誰かの養分! 勝たなきゃクズだぁ!!」


 俺はFランクの魔石を10個いれた。

 頼む!


『コモン! 魔草!』『コモン! 魔草!』『コモン! 魔草!』

『コモン! 魔草!』『コモン! 魔草!』『コモン! 魔草!』

『コモン! 魔草!』『コモン! 魔草!』『コモン! 魔草!』

『レア! 魔樹!』

 

 ま、まだまだぁ!! 

 俺はEランクの魔石を20個入れた。

 10連ガチャ二連続だ!!


「ぬあぁぁぁぁぁ!! 倍プッシュだぁぁ!!」


『アンコモン! 魔豆!』『アンコモン! 魔豆!』『アンコモン! 魔豆!』

『アンコモン! 魔豆!』『アンコモン! 魔豆!』『アンコモン! 魔豆!』

『アンコモン! 魔豆!』『アンコモン! 魔豆!』『アンコモン! 魔豆!』

『レア! 魔樹!』

『アンコモン! 魔豆!』『アンコモン! 魔豆!』『アンコモン! 魔豆!』

『アンコモン! 魔豆!』『アンコモン! 魔豆!』『アンコモン! 魔豆!』

『アンコモン! 魔豆!』『アンコモン! 魔豆!』『アンコモン! 魔豆!』

『レア! 魔樹!』


「ふんぎぃぃぃ!!!」

「さっきからうるさいんですが、静かにしてください」


 これが黙ってられるか。

 無事、爆死しました。200万円きえました。

 現実なら飛び降りてるわ。なんだこの糞ガチャは。

 

 しかし、落ち着け。

 確率は1%。10連ガチャといえど、R確定なだけでこれぐらい普通だ。

 

「う、うぅぅ……」


 しかし、これで何も出なかったら泣いちゃう。

 

「えい」

「ふぁぁぁ!?」


 レイナが魔石を全部放り込んだ。

 

「な、なにするんだ!」

「結果は変わらないんですから、早くしてください」


 その通りである。

 そのときだった。


 キラキラっと俺の魔導書が黄金色に輝く。

 これはきた! 間違いなく来た! 確定演出きたぁぁぁぁ!!


『アンコモン! 魔豆!』『ノーマル! 湧水草!』『アンコモン! 魔豆!』

『アンコモン! 魔豆!』『アンコモン! 魔豆!』『アンコモン! 魔豆!』

『アンコモン! 魔豆!』『ノーマル! 湧水草!』『アンコモン! 魔豆!』


 そしてページがめくれ、白紙のページが開かれる。 

 黄金色の輝きとともに、それは俺の生命の魔導書に刻まれた。


『スーパーレア! 魔綿!』


 …………綿?

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