第16話 商会と取引ー3
「勘違いです! すみませんでした!」
俺達は今、セシリアのギルド――イロアス商会の応接室にいる。
そこで、セシリアは頭を下げた。
どうやら俺達を人さらいや、奴隷商人の類だと思っていたらしい。
まぁノクターン家はそんな家だから否定はできないのだが。
レイナが追放されたことや農業の人手がいることなどの事情を説明して、納得してくれたようだ。
「じゃあ、あの子達の働き口を?」
「そのつもりだ」
「…………よかった。私の商会は、まだ小さくて助ける余裕はなかったんです」
「でも衣服や食事を用意していたんだろ?」
「あれは商会のお金ではないです。私の私財です……ただの偽善です」
「偽善でもやらない善よりはずっとましだ。なんでそんなことをするんだ?」
「親がいないで物乞いをしなければならない……私も同じような境遇で育ちましたから、同情ですね」
「ドラゴニア商会にたてつく理由と関係あるのか。話したくなければいい」
するとセシリアは、お茶を飲みながらゆっくり目を閉じた。
「……大して面白くない話です。私の両親は、昔商会のマスターでした。ですが、ドラゴニア商会の現会長に乗っ取られる形で商会は消えました。父と母は、その心労で一家心中。私だけ運よく生き残ってしまった。それだけです」
淡々と話すセシリア。
しかし、それは想像を絶する人生だったのだろう。
「それでドラゴニア商会よりも大きな商会をって?」
「はい。途方もない夢ですが、まぁ……敵討ちのようなものですね。……ですがそのかいあってか、従業員も20人近くまで増え、たくさんの商品も扱えるようになりました。しかし……」
「しかし?」
「商品の仕入れ先のほとんどを抑えられ、資本力の暴力で独占する。正直……努力でひっくり返せるような状況ではなく、大商会の力を実感する毎日です…………あ、すみません、愚痴みたいなことを」
「なら、俺と契約しないか」
「契約?」
「俺は商会が見つからなくて困っている。お前は仕入れ先がなくて困っている。WINWINの関係になると思うが?」
「…………甘く見ないでください。私はこれでも商人という仕事に誇りを持っています。追い詰められているとはいえ、生半可な商品では、契約などしませんよ」
「するする! 契約しますぅ!!」
即落ち二コマだった。
レイナが持ってきた石鹸を渡して、一度使ってみなければと水浴びにいったセシリア。
良い香りをしながら帰ってきたと思ったらこれである。
キャラ変わった?
「セカイさん!」
俺の手をぎゅっと握るセシリア。
めちゃくちゃ上機嫌だ。石鹸の良い匂いが……しかしよく見ればレイナに負けず劣らずの美少女だな。
「これは世界が変わりますよ! これで殺菌作用があるなんてもう夢のような商品です!」
「そんなにか?」
「商品としてバカ売れ間違いなし!! しかも、真似できないのがいい! これならドラゴニア商会に取られません!」
レイナと同じことを言ってるな。
まぁ石鹸を見て、製造方法がわかる奴はいないと思う。
実は、すごい単純だけどな。
「あぁ~やっと私にも運が回ってきた! セカイさん。絶対に成功させましょう!」
「しかし、本当に一つ100ゴールドで買い取るのか? 高すぎないか?」
「十分安いですよ! 販売価格は120ゴールド。庶民にも手が届くような価格設定です!」
日本円にして1200円。
うーん、どうかなぁ。高すぎる気がするけどなぁ。
「ねぇ、セカイ様~」
「ん?」
するとセシリアが猫なで声で俺の隣に座った。
なぜ俺の膝をさわさわするんだ? ぞくぞくするだろ。
「90ゴールドにまけて欲しいな~」
「十分利益はでるからいいぞ」
「ほんとですか!! 嬉しい! かっこいい! セカイ様!」
そういって俺の腕に抱き着くセシリア。
柔らかい胸の感覚が俺のIQを2ぐらいに下げた。今なら何言われてもOKしそう。
「ははは、憂い奴憂い奴。まるでキャバクラだな」
「ちょっと待ってください。セカイ様」
するとレイナが俺の隣に座って俺の腕を引っ張る。
おっと? レイナの慎ましやかな感覚が。セシリアに比べたら攻撃力は足りないが、それがまたよし!
「一度100ゴールドで話がついたはずです。まさか色仕掛けで金額を変えるなんてことはないですよね?」
「え、別に90ゴールドでもいいけど」
「そうですよ、レイナさん。本人が良いと言ってるんです! ねぇ~セカイ様!」
「ねぇ~!」
この甘え上手め。
これが女一人で商会のマスターまでなった実力か。くっ、あざといけど可愛い。
「アイスニードル」
「いて!?」
刺された。
さすがに主人の頭を氷のとげで刺すのは問題ありでは?
「もう知りません! 勝手に契約してください! …………さっきは俺の隣にいろだなんて言ってたくせに」
「そんな怒るなって……仕方ないな。セシリアすまないが」
「じゃあ、こうしましょう! 独占契約です! イロアス商会以外には石鹸を売らない! その契約で一つ100ゴールドで納品していただきます!」
「乗った」
「よし!」
ガッツポーズをするセシリア、なんかこの流れに乗せられた気もするがまぁいいか。
どうせ独占しようが、他の商会は取り合ってくれないし。
「あぁ、それからもし他にも売れる商品があったら持ってくるから頼む」
「セカイさんならいつでもいいですよ! 石鹸は、いつ納品できますか? そのときに、開拓村も見せてください!」
「あぁ、ひと月もあればさらに発展するだろう。それで? いくつ必要だ、万単位で用意できるぞ」
「ほんとですか! ならまず一月後に、一万。そのあとは、ルートも確定していくと思うので相談させてください!」
「わかった。それで相談なんだが…………料金の一部でもいいから前払いできないか」
「…………では、今持ってきている石鹸をサンプルとしていただけますか? それでしたら……信頼と今後の関係を期待して全額お支払いします」
「もちろん構わない」
セシリアは話がわかる。
俺達が今すぐにでもお金が必要なことを見抜いている。
なのに足元を見ないで、ちゃんと融通してくれる当たり本気で信頼関係を築こうとしてくれているのだろう。
商売は信頼だ。
それは、一時の利益よりもずっと優先される。
するとセシリアが俺の耳に近づく。
そして俺の手に、指を絡めながらまるで恋人が囁くような声で言った。
「仲良くしましょうね、セカイ様。公私ともに」
「おっふ」
思わず声が漏れた。
なんだこのセシリアという子は、ふざけるな、エッチすぎるだろ! 反省しろ。
レイナと勝負できるほどの美少女にこんなことされて財布のひもがほどけない男はいない。
とりあえず魔草の種子でもいる?
ゾクッ! 寒気がした。
「セカイ様?」
「…………おっふ」
今まで聞いた中で一番低い声でレイナに呼ばれた。
笑ってるけど、笑ってない。なにその顔、怖い。やめて。あとなんか寒いんだけど。
「ふふ、今日のところはこれぐらいで許してあげます。怖いボディガードもいますから、次は二人きりで会いましょうね」
「ぜひお願いしま……ごほん! 舐めるなよ、小娘。この俺を誰だと思っている!」
「今更取り繕っても遅いと思います。セカイ様」
「ふふ、それで、必要なものがあるんですよね? うちは総合商会なので色々取り揃えてますよ」
「あぁ、それはレイナがリストアップしてる」
そういって、レイナがリストアップした羊皮紙を手渡した。
それをセシリアは一瞬で読み解き、目を閉じながら頭で計算していた。
「全部で80万ゴールドといったところですね。全て問題ありません。必需品ばかりなので、明日までには用意できますよ」
「どうだ、レイナ」
「…………どうやら能力は確かなようです。ちっ」
舌打ちした?
セシリアとレイナがなぜか笑いあう。怖いんだけど。
「それと魔石が欲しい」
「魔石……ですか。魔道具でも作るんですか?」
「企業秘密だ」
「わかりました。イロアス商会、マスター。セシリア、顧客の情報は死んでも漏らしません。それで魔石ですね……そうですね。あれは基本的にドワンゴ王国に輸出されますからねぇ。定期的に仕入れるようなものではないですから……うーん、E級、F級程度ならいくつか在庫がありますが……」
「それで構わない」
するとセシリアが部下に確認をとった。
「E級が29個、F級が10個あるようです」
「全部もらおう」
「相場通りであればE級が一万ゴールド、F級が1000ゴールドなので30万ゴールドです」
たりへんやんけ。かっこわる。
石鹸が100万で買い取ってくれて、諸々が80万、魔石が30万なら10万ゴールドオーバーだ。
ってか魔石高くね? E級で一万ゴールドって10万円だぞ。
「悪いが」
「ここは負けておきましょう」
「…………いいのか?」
「投資というやつです。セカイ様は……何かとんでもないことをやりそうなので、貸しにしておきますね」
「いいだろう、俺は借りは返す男だ」
そして俺は前金をそのまま全て払い食料や衣服などの物資を購入した。
魔石も手に入れたし、これでやっとガチャが回せるな。
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