第15話 商会と取引ー2
するとノストラが本音を漏らして俺をあざ笑いだした。
「クロノス様、あなたのお父上は先日おっしゃいましたよ! あなたは、もう侯爵家の人間ではないとね! 不毛の大地で死ぬ予定だとも!」
「いいや、俺はあの大地を開拓する」
「ふふふ、一体どれほどの国があの大地を開拓しようとして結局投げ出したと? まぁいいでしょう、ですがここに来られたということは物資の融通でしょう? そりゃ草木も何も生えない場所ですからね。明日食べる物にも困っているのでは?」
「何が言いたい」
「ドラゴニア商会は、あなたには何も売りません。何も用意いたしません。そのまま不毛の大地で死ねばいい。あ、御父上は、不毛の大地から逃げるようだったら、王命で必ず殺すとまでいってましたよ。いやー八方ふさがりですね! セカイ!」
「伝わってないようだな、お前は何が目的だと言っている」
わざわざこんなことをするメリットがない。
脅して俺から何かを手に入れたいのか知らないが俺には何もない。
あるとすれば…………あぁそうか。
「レイナか」
「ご明察!」
パチンと指を叩くノストラ。
テンション高いな、このデブ。
だがこいつの狙いはわかった。国一番の才女、そして国一番といってもいい美少女のレイナが欲しいのだろう。
「もしもレイナ嬢を、私にくれるのでしたら物資は提供しましょう。それとも餓死でもしますか? ははは!」
俺はレイナを見る。
「あぁ言ってるぞ」
「もし、セカイ様が私を手放すおつもりならセカイ様の舌を噛み切って殺します」
「そこは舌を噛み切って死ぬだろう……なんで俺の舌なの?」
俺達は立ち上がった。
どうやら話にならないようだ。
「他の商会に行っても無駄ですよ。ドラゴニア商会に建てつくような商会はありません」
「…………俺にたてついたこと後悔するぞ」
「ふふふ、いいですよ。次来たときは全力で土下座してくださいね。あ、レイナ嬢は裸で土下座してください。もし主人を助けたければ抱いてくださいと嘆願するんです! ははは、実に楽しみだ! その汚れなき顔をぐちゃぐちゃにするのがぁ!」
「…………ゲスが」
「そのゲスに抱いてくださいと嘆願することになるのですよ、レイナ嬢! まぁ今はその暴言もスパイスとでも思っておきましょうか!」
テンションがおかしなデブを無視して、俺達はドラゴニア商会を出た。
最悪な気分だ。
「他にも商会はある。行くぞ」
「…………はい」
レイナの気持ちは沈んでいた。
あんなことを言われたら、そりゃ気持ち悪くて吐きそうにもなる。
レイナがあのデブに抱かれるのを想像しただけで、殺したくなってきた。
そのあと、俺達は夜中まで、そして翌日もファルムス王国にある商会すべてを回った。
どこか一つぐらい……そう思ったのだが、俺の認識は甘かった。
誰一人、何一つ、俺達には売らなかった。
レイナの表情は曇っている。
自分のせいだとでも思っているのかもしれない。
商会から購入できなければ、今の俺達は豆ぐらいした食べるものがない。
まぁ生きていく分にはなんとかなるだろうが、これ以上の発展は相当難しくなるだろう。
「セカイ様……例えばです。例えば……一度だけ抱かれるなら」
「二度とそんなことを口にするな」
「ですが、おそらく旦那様――クロノス様の力で商会を作ることもできません。せっかく素晴らしいものを作っていただいたのに……売ることもできない」
商会がなければ売買はできない。そう法律で決まっている。
もちろん自分達で商会を作ることもできるが、商会ギルドの承認がいる。
間違いなく圧力がかかっていて、作れないだろうがな。
それだけではない。
商会ギルドを敵に回すということは、ありとあらゆるギルドを敵に回すということだ。
冒険者ギルドも建築ギルドも、ほぼすべてのギルドが俺達に手を貸してはくれないだろう。
それほどまでにドラゴニア商会の力は強い。
それがわかっているからこそ、レイナは珍しく弱っていて、泣きそうになっている。
「私の身一つで、みんなが助かるなら……どんな辱めだって……私……頑張りますから」
だから俺はその頭を撫でた。
「セカイ様……」
「セカイ・ヴァン・ノクターンが命じる。安心して、俺の隣にいろ。レイナ」
「で、でも」
「俺の命令に対する答えはいつも一つだ」
「…………イエス、マイマスター」
俺はもう一度レイナの頭を撫でる。
「心配するな。なんとかなる。それにレイナがあのデブに抱かれたら、俺の脳は破壊されて死ぬ」
「?」
「気にするな…………とりあえず……帰ろう、俺達の家に」
「はい……」
残念ながら商会の力は借りれなさそうなので、ゆっくりと不毛の大地を発展させていこう。
きっと他の植物が開放されればなんとかなるだろう。
そしたらあのデブ、ぶん殴ろう。なめっぱなしは許さないし、レイナに手を出そうとしたアホは許さん。
そして俺達は、その日は宿に泊まり翌日、港に向かった。
子供たちを回収して、開拓村に向かおうと思ったときだった。
「あなた達が、この子達を連れていくといっていた人ですか。一体どういうわけか詳しく話を聞かせてください」
子供たちが集まっている前に、一人の女性が立っていた。
年は俺と同じぐらいだろうか。
茶色の髪、目力は強いが美人というより可愛いという感じ。
「俺はセカイ・ヴァン・ノクターン。お前は?」
「私は、セシリア・ゴッドバルト。イロアス商会のマスターです」
「イロアス商会?」
「まだ小さく……できて一年たっていない商会です。それが何か」
俺とレイナは目を合わせる。
まさかな……。
「…………ちなみにドラゴニア商会からノクターン家について何か言われてる?」
「ドラゴニア商会? ええ、確かに言われましたがドラゴニア商会はいずれ倒す相手です。聞く必要などありません。それが何か」
「とりあえず、お茶しない?」
「はぁ?」
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