第14話 商会と取引ー1


「量産?」


 俺は、お風呂上りのレイナにぼろ家で言われた。

 

「はい、あの石鹸。量産できますか?」

「まぁ材料は簡単だからいくらでも作れるが」

「わかりました。ひと月でいくら作れますか?」

「え? うーん、欲しいっていうなら正直、万単位で作れるけど」

「わかりました。明日事前に予約しておいた定期船がきますので、一度商談に行きましょう」

「商談?」

「はい、この石鹸を売りに行きます。そのお金で、魔石や魔力回復ポーションを購入しましょう。それに調味料などもです」

「売れるのか? これが」

「間違いなく」

「まぁ……レイナがそういうなら」

「では、そういうことで」


 そういうとレイナは隣のぼろ家に行こうとする。

 同棲してると思った? 残念お隣さんでした。


「あ、レイナ」

「なんでしょうか」

「すごく綺麗だぞ(髪が)」

「――――ふぇ!!??」


 元々綺麗だった銀色の髪が、さらに光沢をもってサラサラになっている。 

 石鹸の効果は中々のようだ。

 それに香油も、よりさわやかに香る気がする。柑橘系の良い匂いだ。


「し、失礼します!」


 なんか最近、あんな感じになるな。

 怒ってるんだろうか。



 翌日。


「では、いってくる。三日ぐらいで帰ってくる」

「「いってらっしゃいませ!!」」


 俺は村人たちに惜しまれながらも、定期船に乗り込んだ。

 レオンなんかは、絶対に帰ってきてくださいと泣きついてくる始末だ。

 

「レオン、石鹸の作り方はお前しかしらない。色々試行錯誤して、より固形になる比率を探すんだぞ」

「わかりました! 頑張ります!!」


 食料も水も石鹸まで揃っているので、問題ないだろう。

 そして俺とレイナは不毛の大地を後にした。



 船に揺られて数時間。

 

「そういえば、まっすぐ進まないんだな」

「あの海域は、強い魔物が出ると聞いたことがあります。船では難しいのでしょう」

「だから距離的には近いのにこんなに時間がかかるのか」


 水棲モンスターはやっかいだからな。

 だが、いずれは魔物討伐も行わなければならない。

 俺の魔力はあれから毎日少しずつ増えて、今は5000となっている。


 俺は生命の魔導書を久しぶりに開いた。

 裏表紙には、ガチャの項目があり、そこにはどのTierのガチャを回すかが選べる。

 今はTier4しか回せないが、魔力が一万を超えたならTier3のガチャを回せるようになる。


 きっと便利な植物がたくさん解放されるだろう。

 それに……。


「Tier4もスーパーレアとウルトラレアはまだ未開放なんだよな」

 

 レア度は各ティアごとに、コモンから始まり、ウルトラレアまで存在するようだ。

 つまり今はレアの湧水草しかないが、その上に二つあるということ。

 きっと村の発展に貢献してくれる植物のはずだ。


 そんな考察をしていると船は到着した。

 久しぶりのファルムス王国の大地。


「では、三日後にまた船をお願いします」

「わかりました」


 レイナが船長に渡航費を渡している。

 まだ金残ってたんだ。しっかりしてるなぁ。


「正真正銘、次の渡航費で最後です。なので必ず取引を成功させなければなりません」

「で、どの商会と取引するんだ?」

「ドラゴニア商会です」

「――!? バカでかいあの商会か……」


 ドラゴニア商会――ファルムス王ですら手出しできない超巨大商会だ

 というのも、本部を隣の大帝国――ワールドガルズ帝国に持ち、皇帝のお墨付きまでもらった商会だからだ。

 ちなみに大帝国とファルムス王国は国土は10倍、兵力は100倍とまで言われる。


「はい、そのファルムス王国支部の支部長に会いに行きます」

「わかった」


 一筋縄ではいかない相手だろう。

 だが、これで商談が成立すれば大きな前進だ。

 しかし隙を見せれば呑み込まれる。なんせ相手はドラゴンの素材すら揃えるという意味のドラゴニア商会だからな。


「しかし……こんなに、この国は……ひどかったか?」


 俺は周りを見る。

 ホームレスや、孤児が物乞いをしている。

 そりゃ前世のように社会保障もなくて、生活保護などのセーフネットもないこの世界だが……。

 こんなにも貧富の差が激しかっただろうか。


「帝国からの徴収もありますから……戦死した人も多いでしょうし、兵站含め多くが帝国の戦争のために半ば強制で提供していますし」

「あぁ……あの戦争終わってないのか」

「終わらないでしょう。あちらも種の存続をかけてますから。もちろんこちらも……負けた方がこの世界から消える闘いです」

「そうか……」


 今、この世界では大戦争が起きている。

 ファルムス王国は、戦線から最も遠い国なのにこの始末か。

 


 俺は目の前で、施しを受けるための小皿を抱えてうずくまっている子供達を見る。

 このまま死を待つだけなら。


「…………くるか?」

「え?」

「働く権利をやる。ただで助けてやるほど俺はお人よしじゃないが……その手に持つ皿に、死にたくないという意思が乗っているなら……お前たちが自分で未来を勝ち取れる場所に連れて言ってやる」


 まぁ、まだ豆しか食うもんないけどな。

 子供たちは困惑している。

 するとレイナが腰を低くして目線を合わせた。


「この人、見た目は怪しいけど悪い人じゃないの。だからね、もしここじゃないどこかに……お腹いっぱいご飯が食べたいのなら……働く場所を教えてあげる」

「おい、大分優しかったと思うが」

「雰囲気がすでに威圧してます」

「ぐっ……」


 すると子供たちが、頷いた。


「じゃあ三日後ね。ここに、集まってくれる? そしたら連れて行けるから……だから三日間はこれで何か食べてね」


 そういって、金貨1枚を渡すレイナ。

 それで10万円なんですけど、こいつ実はまだへそくりたくさん持ってるな?


「あ。ありがとう。お姉ちゃん!! その…………他にも30人ぐらいいるんだけど……連れて行ってくれる?」

「えぇ、もちろん。安心して」


 にこっとレイナが笑い、その笑顔に子供たちも心を開こうとしていた。

 相変わらず子供には優しいんだよな、こいつ。その優しさ、俺にも少し分けて欲しい。


「ん?」


 すると彼らの服を見ると、剣の紋章がついていた。

 これは商会のマークだな。

 こんな生活をしているにしては……悪くない服を着ているようだ。


「剣の紋章……そんな商会あったか?」

「私の記憶にはありません」

「これはね、セシリア姉ちゃんがくれたんだよ! よく俺達みたいな孤児にパンとか服もくれるんだよ」

「セシリア?」 

「うん!」


 奇特な奴もいたもんだな。

 どっかの金持ちの道楽かな。


 そう思いながら、俺達はストリートチルドレンたちと約束し、港を後にした。

 向かうは、ドラゴニア商会のファルムス王国支部。

 王都の中央広場にあるそれは、この国一番の商会をあっという間に呑み込んで、この国一番の商会になった。


 馬車に乗られて数時間。

 しかし、腰が痛いな。車とかないもんかね。いつか蒸気機関作ってやろう。

 そんな悪態をついているとドラゴニア商会ファルムス王国支部に到着した。


 立派な門構えで、ドラゴンの紋章を掲げた商会。

 入ると、受付嬢がまた美人だった。


「支部長のノストラ様にお会いできますか。私、レイナ・クリスティア。ノクターン侯爵家のものです」

「はい、お待ちください」


 するとすぐに通してもらえた。

 奥の応接間で、支部長のノストラと対面する。

 でっぷりと太ったデブだ。完全に悪代官である。


「いやぁ! お待ちしておりましたよ。お久しぶりですね、セカイ様……昨年以来ですか? それにぐふふ、レイナ嬢も相変わらず美しい」


 にちゃっと笑ったその顔は、ウシガエルみたいで、ぶん殴ってやりたくなるような顔をしていた。

 それだけなら嫌悪感だけですんだんだが、ノストラは俺のレイナの生足を下から嘗め回し舌なめずりまでしやがった。

 丁寧に対応しようと思っていたが。


「レイナを下卑た目で見るな、気持ちが悪い」


 悪逆貴族の悪いところがでてしまった。

 俺を睨むノストラ。

 俺はしっかりと見つめ返し、一歩も引かなかった。

 レイナはなんか嬉しそうにしている。いや、ほんとになんで?


「そんな態度でいいのですか? セカイ様?……いや、セカイ!」

「さっきからお前、俺に喧嘩を売っているのか?」


 仮にも一国の侯爵家、ドラゴニア商会の支部長といえど逆らえるような関係ではない。

 しかし、さきほどからノストラの態度は間違いなく俺に喧嘩を売っている。


「ふふふ、ははは! 喧嘩……そう、喧嘩ですよ! セカイ!! いまだに侯爵家のつもりか知らないが、お前は追放されて、何の力も持ってない一般人だろうが! 私を誰だと思っている! 世界最大ドラゴニア商会の支部長だぞ! 敬語を使え、敬語を!」

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