第13話 石鹸製造計画ー2

 夕方。

 

 俺は、ソンにいって村人69名を集めた。

 大浴場のルールや細かい部分が完成したのでお披露目会である。


 ざわざわとみんな大浴場に興味津々である。

 

「では、発表する。村人なら全員入れる大浴場だ!」


 ざわざわ。 

 大浴場と言われてもよくわからないだろう。

 なので俺は男を、レイナが女性を中に案内した。


「す、すごい……」

「まさかここでお風呂に入れるなんて……」

「でけぇ!! でけぇ湯舟だ! こんなきれいな風呂、みたことねぇ!」


 反応は絶賛だ。

 全員俺に、泣きながら感謝してくれた。

 管理は村人の交代制、入れる時間は自由にしたが混雑時は待ってもらう必要もある。

 一度に入れるのは、20人ぐらいといったところか。


「これはまだ始まりだ。今後この村はどんどん発展して、さらに住みよい街にする。だからみんなも頑張るように!」

「「はい、領主様!!」」

「では、あとは好きにしろ」

「いやっふぅー!!」


 誰が入るか、ジャンケンをしている。

 負けただけで絶望し、泣いているものまでいるんだが、ちょっと待てば入れるからな?


 だが、女のほうはどうだろう。


「レイナ様、感謝します」

「ありがとうございます。ありがとうございます」

「この御恩は忘れません」

「私ではなく、セカイ様にお願いします。今後も忠誠を誓ってください」


 すると女性たちが、俺の目の前で膝をついて祈りだした。

 領主から神にまで昇格したのかもしれない。男性陣の喜びようもすごかったが、こっちはもはや命を助けたような崇め方だ。

 やはり女性はお風呂が好きなのだな。


「レオン、油はどうだ」

「はい、大分とれました! セカイ様から預かった木のバケツに半分ぐらいです!」

「そうか。全部絞れたらうちにもってこい」

「はい! 明日の昼にはできそうです」


 進捗は悪くないようだ。

 


 翌日、昼。

 油をバケツ一杯に抱えたレオンがうちにきた。

 大豆油の良い匂いがする。ペロッと舐めると完全に油だった。

 料理にも使える良い油だな。

 

「これをどうするんですか?」

「あぁ、みてろ」


 俺は昨日のうちに作った木灰を溶かしたアルカリ水を用意する。

 それをタオルに通して灰をろ過する。

 タオルは、元々王国からくるときに持ってきていたが、布系の量産体制も作らないとな。

 もしくは輸入できるように、考えないと。


 服がいつも同じなのである。

 しかも石鹸がないから、水洗い。そりゃこの時代の人が臭くなるわけだ。

 

「これでアルカリ水ができた」

「アルカリ水?」

「あぁ、作り方は覚えておけ。いずれお前にも作ってもらう。木灰……木を燃やした灰を一晩つけたものがさっきのやつだ」

「なるほど……」

「量が十分かどうかを図るには卵が浮くかどうかで判別できる。今は卵がないから感覚でやるしかない。何度か試行錯誤してちょうどいいのを見つける必要がある」

「なるほど……」

「とりあえずこのアルカリ水を、持ってきた油と混ぜ合わせて……」


 俺は小さな木の器に、両方を入れて木のスプーンでゆっくり混ぜ合わせた。

 すると液体が乳化していく。


「白くなってきました!!」

「あぁ、乳化が始まったな。ほら、混ぜてみろ」

「うわ、なんだか重たくなってきました」

「あぁ、それが石鹸になる」


 配分を間違えると固まらなかったり、泡立たなかったりする。

 なので、そこはもう試行錯誤して経験則でいくしかない。

 とりあえず、今回の分量は運よく中々悪くなかったようでしっかりと粘性がでた。


「あとはこれを……型にいれて……」


 木で作った型に流し込む。

 あとは風遠しの良い場所で一月ほど乾燥させれば完成だ。

 

「香油を入れたバージョンもつくってと……うん、とりあえず一日置いてみよう。明日には固くはなくとも使えるぐらいにはなってるだろう」

「それでこれはなんなんですか?」

「石鹸っていってな。汚れや細菌を倒してくれるものだ。大浴場でみんなに使ってもらおうと思う」

「それがあれば病気にならないんですか?」

「ならないわけじゃないが、なりづらいな…………ん、どうした?」

「いえ……俺の父と母は病気で亡くなりましたから。これがあればな……って」

「そうか」


 俺があと少し早く来ていれば……そんなことを言っても仕方ない。

 

「過去は不変だ。その代わり未来はお前次第だ。もう誰も死なさないようにできることをやれ」

「…………はい!!」


 慰めにもなっていない言葉だが、レオンの中では何かが腑に落ちたようだ。


 

 翌日。

 石鹸を見てみると、若干固まっていた。

 まだ固形というレベルではないが、ちょっと泡立つかやってみる。

 おぉ! ぬるぬるする! 御世辞にも前世の石鹸には勝てはしないが、確かに石鹸が出来た。

 

「レイナ、これ今日のお風呂で使ってみてくれ。髪を洗ったり、体を洗ったり」

「…………これで髪が痛んだら一生許しませんよ」

「そのときは責任とるよ」

「どうやってとるんですか。結婚でもしてくれるんですか」

「それもありだな」

「――!? す、すこし早いけどお風呂にいってきます!!」


 レイナはなんか怒りながら大浴場にいってしまった。

 冗談のつもりだったんだがな……。



◇レイナ



「なんなんですか!」


 私は怒りながら、大浴場に入った。

 いつも自分がセカイをからかう立場なのに、最近は心をかき乱されてばかりだ。


「はぁ……」

 

 ため息を吐きながら浴場にいくと、村の女性に囲まれた。

 最近ここの人たちが心を開いて話しかけてくれる。

 それに主な話題はセカイ様だ。


「セカイ様ってどんな女性が好みなんですか! レイナさん!」

「年上はどう?」

「お近づきになりたい! でもお貴族様だし……」

「お貴族様でもお手付きしてもらえれば側室ぐらいにはなれるかも!」


 セカイ様は人気がある。

 腹立たしいことに、顔は良い。

 さすがは貴族だけはあって、セカイ様の母上はとても美しい方だった。托卵……したというのなら夫もおそらくは顔が良い分類なのだろう。

 そんな遺伝子を継いでいるのでセカイ様は顔が良い。


 顔だけは良い。

 中身はクズでひきこもり……そうだったのに、ここにきてから性格までよくなってしまった。

 私だけがそれを知っていたのに。


 最近は女性に囲まれて、デレデレするときもある。

 そのたびに少しムカつく。


「さてと……石鹸か……匂いは……うん。香油の良い匂い……それに……ぬるぬるする」


 少し怖いが、そのぬるぬるで体を洗ってみる。

 ん? なんかすごく…………。


「すべすべだ……」


 感じたことがないほどにすべすべになっている。

 髪も洗ってみる。するとごわついていた髪がサラサラしている。

 

「すご……これ」


 これは売れる。

 間違いなく女性はこれにお金を出す。

 貴族にでも売ればひと財産ができる代物だ。

 特に、製造方法がわからないのがすごい。これを見ただけでは一体何から作るのか全く分からないから真似もできない。


「…………よし」


 私は立ち上がる。

 どうしてもお金がないことが今、この村の発展のネックになっていた。

 セカイ様の魔法がカギだが、魔石が必要。

 それの購入費用もなかったし、衣服などの消耗品も足りなくなっていた。


 食糧事情は魔豆で解決しそうだが、それでも豆だけでは人は生きていけない。


「頑張ろう、セカイ様のために」

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