第11話 大浴場を作ろうー3

まえがき

タイトル迷走中なので、気にしないでください。




 水を上にあげることには成功した。

 次は、この水をためる貯水槽を作る。


 これは簡単だ。

 植物操作で、木材を四角形にするだけなのだから。

 そしてこの四角形の箱に水をためる。溢れた分は、川に返すように作った。


「あとはいい感じのお湯にするだけだな」


 俺は貯めた水をさらに二つに分けるように貯水槽を作った。

 その片方に、この魔道具をいれて、もう片方はそのまま。

 貯水槽に穴をあけて水の出る量を調整できるように蓋を作る。


「よし、完成。しかし便利すぎるだろ、植物操作。こんなの手でやってたらどれだけかかったか……」


 そして蓋をとって、熱した水と冷たい水を混ぜ合わせる。

 調整が少し難しかったが、ちょうどいいお湯の温度になった。


「レオン触ってみろ」

「はい……うわ……なんですかこれ。温かいです」


 あとは不要な水を川に戻すように、木で水道管のようなものを作った。

 気づけば夜になっていたのでその日の作業は打ち切り。


 翌日も朝から晩まで俺も手伝って頑張った。

 そして三日後、ついに。


「……完成だ。完璧すぎる」


 大浴場が完成した。

 お湯は自動で、流し込まれ続けて、排水も汚い水なので川ではなく海に流すように大浴場から海直結の川を作った。

 脱衣所もあり、屋根もある。露天風呂まで作ってしまったが、基本的に全て魔樹なので自然を感じる素晴らしい出来だ。


 前世と比較しても、まるで温泉宿のような出来栄えに感動してしまった。 

 これは村人の憩いの場になってしまうな。まだ全員ボロ家なのに大浴場だけ立派になって……。


「感動で、泣きそうです。セカイ様。俺達……こんなもの作ったんですね」

「本国でもこのレベルの浴場はなかったです。ほんとにすげぇ」

「入りましょう! 俺達が頑張ったんです! 真っ先に入りましょう!!」


 レオンと三兄弟が泣いている。

 それは俺も同意見だ。こんなに立派なものを作ったのは、本当に誇らしい気持ちにすらなる。

 

「よし! お前ら、着替えをもってこい! 入るぞ!」

「へい!!」


 そして俺はウキウキ気分で家に戻って、着替えを取りに行った。

 よし、いくぞ。

 

 ガシッ。


 肩を掴まれた。


「もしかしてできたんですか? なんで私に真っ先に伝えないんですか?」

「ひゃい」


 レイナさんをお招きした。

 まぁ、女湯も確かめてもらわないといけないしな!

 


 そして俺達は大浴場に向かった。

 

「え? すご……なにこれ」


 驚くレイナに、俺達は鼻を高くして、ふんぞり返った。

 どうだ、この出来栄えは。


「すごい……すごいです、セカイ様! 初めて見直しました! すごく時間がかかってるからさぼってるな、あいつ。そろそろ締めるかって思ってたのに!」

「初めてがなければ素直に喜んだし、まぁ不敬だけど、完成して気分が良いからよし!」

「入りましょう! 早速入りましょ! わぁ嬉しいなぁ。おっふろだ! おっふろ! おっふろ!」


 氷姫がとてもうれしそうにしている。

 その笑顔、守りたい。というかずっと笑顔でいて欲しい。無表情は怖いから。


「じゃあ、入るか」

「おぉぉ!!」


 衣服を脱ぎ棄て、俺達は風呂に入ろうとした。

 突撃しようとする三兄弟とレオン。


「バカモノ!l」


 俺はすっぽんぽん共に活を入れた。

 

「まずは体を洗え! 風呂場には風呂場のルールがある!」

「「了解っす!!」」


 まったく、その辺のルールもしっかり教えておかなくてな。

 タオルがないからタオルは湯舟につけてはいけないなど、風呂にはうるさいぞ俺は。日本人の記憶があるからな。

 

 魔樹で作った風呂桶で全員がお湯を体に流す。

 いずれシャワーも作ってやろう。

 そして体をザバンとお湯で流す。うわ、きたな。なにこれ。


 ドロドロの何かが排水の穴に流れていく。

 そりゃ臭いわ。さてと体をあら…………石鹸がない。


 石鹸がないのである。


 俺は記憶をたどってみる。

 あれ? この世界石鹸なくね?

 お風呂はある。湯あみというかお湯で体を洗い流す行為だ。

 だが、シャンプーなんてない。

 女性は香油で紙をつやつやにしてはいるが、シャンプーなんかは使っていない。


 とりあえずその日は、お湯で全身を洗い、湯舟に使った。


「はぁ……なんですか、これ。すごいです、セカイ様」

「仕事終わりのひとっぷろは最高でさぁ、それがこんな豪勢な風呂なんて……国が滅ぼされる前でもありえなかったっす」

「どうしたんですかい、領主様」

「いや、風呂は最高で今にもとろけそうなんだが」


 石鹸で体を洗っていないので何か物足りない。

 髪もごわごわだし。

 

「よし!!」


 俺は立ち上がった。

 

「石鹸を作るぞ!!」

「石鹸?」


 次の目標は、石鹸を作ることにした。


 

◇レイナ



「ふゎぁぁ……」


 レイナは湯舟につかりながらとろけていた。

 10日ぶりのお風呂。

 お風呂に入れないから、一旦ファルムス王国に帰ってやろうかと思うほどだった。

 しかし、どうだ。


「しゅごい……このお風呂……しゅご……」


 クールでツンツンしているレイナも、これにはうっとりだった。 

 不毛の大地について、早10日。

 最初はすぐに音を上げて帰りたいと言うだろうと思ってそのための計画を立てていたのに、蓋を開けてみるとどうだ。

 

「思ったより……しっかりしてたなぁ……セカイ様。しかも領主っぽくなってきてるし……みんなに慕われ始めてるし」


 セカイのことを知っているレイナは、不思議に思った。

 あの日から人が変わったようである。

 前の面影もあるのだが、何か大きな体験をしてきたという感じだろうか。とてつもなく成長を感じる。

 

「頼りなくて、基本クズのセカイ様でもよかったんだけどなぁ……」


 いつも自分が世話を妬かなければ大抵何もしなかった主人は、ここにきて自主的に色々動いている。

 悪逆貴族と呼ばれるノクターン家に生まれ、最低な反面教師を親に持ったのに一体どういうことだろうか。

 

 極めつけは、あの男の子の心を動かしたあの演説だ。

 本人は、作ったパフォーマンスだと言っていたが、演技であんなことができるだろうか。

 むしろ…………。


「ブクブクブク……」


 レイナはお風呂に顔を付けた。

 暖かい。


「レイナ、どうだ! そっちは!」

「――!?」


 すると声がした。

 慌てて体を隠すが、どうやら男湯と壁一枚で繋がっているだけで声しか聞こえないようだ。

 

「とても素晴らしいです! 本当にお疲れさまでした! それとありがとうございます!」

「おい、聞いたか! レイナが罵倒しなかったぞ! しかも感謝までしてくれた! お前ら、100年に一度の奇跡だ!」

「さすがです、セカイ様!」

「俺は罵倒されたいっす! 領主様!」

「俺もレイナ様に踏まれたいっす!」

「あの冷たい目で変態って言われたいっす!」

「レイナ! ご褒美が欲しいらしいぞ! ちなみに俺は、もう少し優しくしてほしい!」


 そんな声が聞こえてあちらは楽しそう。

 少しセクハラなのだが、今は気分がいいので許してあげよう。

 しかし、我が主人はどうやら本当に領民の心を掴んでしまったようだ。


「ふふ……バカ」


 レイナは笑った。

 何か明るい未来がきてくれそうな気がしたから。

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