第9話 大浴場を作ろうー1
あれからため池も少し増築しながら、湧水草をひたすら敷き詰めた。
そして、一週間がたった。
「もう限界! もう限界です!!」
レイナが壊れた。
あの冷静なレイナが壊れるとはよほどのことだな。
「臭い! セカイ様が臭い! 私も臭い! 何もかもが臭い!! もう嫌!!」
失敬な。
一週間、風呂に入らなかっただけだろう。
俺はボロ家で、横になりながら頭をぽりぽりとかく。ふけがすごいな。
「お風呂を所望します。最優先で」
「風呂っていってもな、こんなぼろ家じゃあ……」
「温泉ができる植物とかないんですか」
「今のところ手元にないな」
「ちっ!」
舌打ちした? 我主人ぞ? 毒吐きもいつもの5割増しできつい。
レイナのストレスも最高潮に達しているようだ、これは改善しなければ命が危ない。
そういえばこいつお風呂大好きだったな。侯爵家では夜、誰も使わなくなった大浴場を占領するのが趣味だったわ。
「水を沸騰させる魔道具は幸い一つあります。セカイ様のおかげで水事情は改善したので、不要になったものが」
「あぁ、あったな」
「なので、次は大浴場を作ります。足が延ばせる大きな風呂を作ります」
「私情入ってない?」
「ストレスを改善するのは、とても重要なことです。村の女性たちも多くが望んでいるはずです。なので大浴場を作ります」
「贅沢だな……」
ぎろっとした目で睨まれた。
とりあえず怖いから賛成しておく。
「はぁ……秘蔵のこれを使う時がきましたか。仕方ありませんね」
「そんな大事?」
ぎろっとした目で睨まれた。
もう反論するのはやめておこう。今のレイナは触れるものすべてを傷つける抜身のナイフと同じだ。
するとレイナが取り出したのは、瓶だった。
その中にはどろっとした緑の液体が入っている。
「魔力回復ポーションだ。そんなのもってきてたのか」
「魔力回復ポーション・小。これ一つで、およそ魔力が1000回復します。ちなみに100本あります。100万ゴールドぐらいします。いつか返してください」
「おう……」
そういえば今まで興味なかったが、先日レイナの魔導書をみせてもらった。
氷結の魔導書と言い、魔法がいくつか書かれており、消費魔力なんかも書かれていた。
どうやらこの世界の魔法は、MP形式がデフォルトらしい。
「では、これを全て飲んでいいので魔樹を木材にして浴場を建設してください」
「…………それめっちゃまずいやつじゃなかった?」
「では、これを全て飲んでいいので魔樹を木材にして浴場を建設してください」
「…………ひゃい」
まったく同じセリフを吐かれた。
YES以外の返答はいらないという強い意志を感じる。
仕方ないので、俺はレオンをつれていくことにした。
「おはようございます、領主様! 今日も仕事をもらえるって聞きました!」
「あぁ、今日はため池以上に、大仕事だ。頑張るぞ。いや、まじで」
「はい、喜んで!」
そして俺達は、大浴場建設地に来た。
まだ何もない場所だ。そういえば、もう使われてないボロ家なんかは随分と撤去されたな。
今は必要最低限の村人69名が住むだけの家しか存在しないし、荒れ果てた村も綺麗になっている。
今は村人たちは俺が作成した魔草を必死と植え替えて、土壌を集めて作物栽培エリアに集めたりとレイナの指示通りに動いている。
「魔樹か……一度も作ったことがないし、とりあえずやるか。水は……いらなさそうだな。魔草と魔樹は水がいらないのか、それは便利だな」
どうやら魔草も魔樹も土壌も水もいらず、魔素……つまり魔力だけで成長できる個体らしい。
さすが魔法、不思議現象すぎる。
水が必要なら、今村の中央を横断するように、川ができている。
といっても大増設したため池からの水を引いているだけだが、めちゃくちゃに便利になった。
水は、そのまま海に流されていたり、乾いた大地に撒かれている。
魔草ではないが、この水には十分な栄養があるので水をまくだけで土壌が復活する可能性があるかもな。湧水草が万能すぎる件について。
今回の大浴場も、この中央の川――開拓川とよぼう――の隣に立ち、その水を使う予定だ。
「よし、じゃあ魔樹を育ててみよう」
==========================
名称:魔樹
Tier:4
レア度:★★★★☆☆(レア)
成長速度:1500日
種子作成:10魔力
説明:その硬さは木の中でも最上位。
過酷な大地でも魔素さえあれば成長するたくましい種。
土壌を肥沃させ、すべての基礎となる。
==========================
まずは魔樹の種子を作成。
種子は魔力10なので今の俺からすれば大したことはない。
そして植えてみる。
魔樹は1500日かかる。
まぁ木だからな、5年ぐらいはかかるだろう。
俺は成長促進を使う。魔力が1500ごりっと減った。
その瞬間。
「でかぁ」
「すごい……こんな立派な木が生えるなんて」
でかい木が生えた。
高さは20~30m、幹の太さは直径1m近くある。まっすぐと空に伸びて、とても扱いやすそうな木材になりそうだ。
もはや、完全にヒノキである。
今まで作ってきた草とは明らかに存在感が違う樹木という種類。
俺はコンコンと叩いてみる。
しっかりと固い。丈夫な木だ。こんなものを生み出せる生命の魔導書はやはりチートなのかもしれない。
「さてと……レイナの設計図はっと……」
俺はレイナが作った設計図を見る。
これも羊皮紙である。羊皮紙は貴重なので繰り返し使うが、いずれ紙を作るのも考えてもいいかもな。
ふむふむ……。
そこには、小さな浴槽の小さな建物の建築予定が書かれていた。
俺の力を過小評価しているな。こちとら前世知識もある。こんな小さな風呂では我慢ができない。
日本人の心――大浴場である。
「よし、どうせ作るならすげぇの作ろう。レオン、ヒャッハー三兄弟を呼んできてくれ」
「はい、喜んで!」
なんでそれで通じるのかはおいておいて、俺は労働力を手に入れた。
「アニキ! どうしやすか!」
「汚物は消毒ですかい!」
「どんな汚れ仕事でもやってやりやすぜ!」
相変わらず見た目も性格も世紀末の三兄弟が現れた。
いつから俺はお前らの兄貴になった。
「お前ら建築に詳しい奴知ってるか?」
「それなら任せてくだせぇ、俺達これでも元大工見習いでさぁ! この村の家も俺達がつくりやした! 木材がないんで、修理もできねぇですが」
「便利すぎるだろ、お前ら」
中々良いガタイをしてるこいつらは、ファルムス王国に滅ぼされる前は、大工見習をしていたそうで建築はお手の物らしい。
俺はレイナが作った設計書をみせてみると、三人が真面目な顔で読み込んでいる。
「これならいけそうでさぁ! でも木材が…………ってなんですかい、このでかい木は……」
「あぁ、いまからこの木を大量に生み出すから、そのつもりで。それとその予定の3倍は大きく作るぞ」
「すげぇ……腕が成りやすぜ!」
そのあと三兄弟は家に戻って大工道具をもってきた。
「じゃあ、やっちゃいやすか」
「あぁ、ちょっと待ってな。試したいことがあるんだ」
俺は魔法を発動した。
植物操作、魔力を操作して、植物を動かし、加工できる。
もしもこの力が本当に自由にできるとしたら。
「ふぅ……よし。離れていろ」
俺は手をかざして魔法を発動する。
あぁ、できそうだ。
俺はその木を根から剥がす。
ドスン! という音とともに地面に魔樹が倒れた。
「えぇぇぇぇ!!」
「驚くのはまだ速いぞ」
そして、その木の皮をむく。
綺麗な丸い木が生み出され、そして前世でよく見た四角い木材にまで加工した。
この間、わずか1分で60魔力しか消費しなかった。
植物操作、めちゃくちゃ使えるな。
加工したばかりの木は水分が多いが…………もしかして。
「成長促進!!」
乾燥したわ……もはや成長促進というより、対象の草木の時間経過を早めるという感じなのかな?
「こ、こりゃ……すげぇ。領主様は神様か、なんかですかい……」
「みろよ、ノコギリよりもずっと綺麗な断面だ」
「さすが領主様だ……脱帽でさぁ。しっかり乾燥した木材だ」
よし、これでレイナが驚くすごい大浴場を作ってやろう。
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