第8話 緑地化計画進行中ー2

 俺の魔力は、魔豆の力によって+5され、18になった。

 生命祝福のことを考えると、魔豆を作るのには種子作成に5、成長に60の合計65が必要だ。

 つまり、65の魔力を消費して、5の魔力が増える計算になる。


 そういう意味では、4の魔力を消費して、1の魔力が増える魔草がやはり一番効率がいいな。じゃあ湧水草の検証をしてみるか。



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名称:湧水草

Tier:4

レア度:★★★☆☆☆(ノーマル)

成長速度:40日

種子作成:10魔力


説明:大気中の水分を集めて、栄養価の高い水をまるで湧水のように、生み出す草。

土壌がなければ、育たない。

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「とりあえず、湧水草を生やすために魔草を」


 湧水草は、土壌がいる。

 なので魔草を使って土壌を肥えさせなければならない。

 種子を作って、三つほど魔草を植えて、成長促進させてみた。

 

 掘り起こそうと思ったが、さっきから俺はせっかく貴族なのになんで自分で頑張っているんだという思考に至った。

 いかんいかん、青空大地の記憶が隙あらば社畜にしようとしている。


 よし。


「おい、手伝え。レイナ」

「いやです。忙しいので」

「…………」


 よし。


「レオン! こい!!」

「はい、なんでしょうか、セカイ様! 何でも言ってください!!」


 さっきの男の子が走ってくる。

 なんか目がキラキラしてるな。

 さっきまで俺を殺しそうな目だったのに、まるで崇拝するかのようだ。


「お前には、今日から俺の仕事を手伝ってもらう。馬車馬のように働かせるからそのつもりで。今は無理だが、頑張れば給料……いや、飯も出してやる」

「はい! 頑張ります!」

「返事ははい、喜んで! だ」

「はい、喜んで!」


 俺は社畜時代に叩きこまれた洗脳を試みる。

 喜んで! ということによってあたかも本当に喜んでやっているように錯覚させるのである。

 ほんとか?


 しかしレオンは素直で、憂い奴だ

 どこかの氷姫とは大違いだな。


 裏手にいって、魔草の植え替えをレオンにやらせた。

 やはり自分でやるよりずっと楽である。しかし働き者だな。これぐらいの子供は遊びたいだろうに。


 俺は湧水草の種子を作成。

 そして、レオンに埋めさせる。


「セカイ様の魔法はすごいですね……こんな土地に草を生やせるなんて」

「戦闘力もない大した魔法じゃないさ」

「火を出すとかよりもずっと……優しい魔法だと思います。セカイ様のように」

「俺が優しい?」

「はい! だって奴隷の俺達は、やろうと思えば奴隷紋を使って無理やり働かせることもできたのに、俺達が自分の意志で働けるようにあんなことを言ってくれたんですよね。すごく……優しいと思います」

「はっ……俺は優しくなんかないぞ。死ぬまでこき使ってやる」

「はい! 喜んで!」

「なんでだよ」


 嬉しそうなレオン。

 社畜根性が極まっているな、昔の俺を見ているようだ。


 そのあとレオンと一緒に、成長促進を行った。

 俺の魔力では一度にというわけにはいかないので、30分ぐらいかかったが。


 そして生えてきたのは。


「なんか…………」

「言うな、レオン。口にしたら負けだ」


 俺の腰ぐらいの高さの植物が生えた。

 レオンと同じぐらいだろうか。

 正直男性器にしか見えないが言ったらおしまいなので言わない。


 大きな葉っぱを広げて、水が噴水のように定期的に湧き出ている。

 見た目がえぐいな。まるで小便……。


「レオン飲んでみろ」

「は、はい…………」


 その先端に口をつけて、飲むレオン。

 決して何か意図があるわけではない。


「美味しい……美味しいです、セカイ様! この水、すごくおいしいです!」

「水にうまいとかないだろ」

「すごくきれいな水です! いつも飲んでる水は、なんか変な味がするんですけど……この水はいくらでも飲めちゃいます!」


 一度沸騰させて、蒸発させた水は確かにちょっと変な味がするからな。

 ミネラルが含まれていないし、口当たりも悪い。 

 少しひんやりしているのもポイントが高いか。


「飲み水の確保は最優先だからな、士気にかかわるし」


 10分ほど眺めていると、大体コップ一杯分といったところか。

 24時間動いてくれるとしたなら、一日で10リットルぐらいは生み出されるか。

 生活排水にも利用したいし。


「よし! ため池をつくろう!」

「池ですか?」

「あぁ、水はすべての基本だ。レイナ! ため池を作ろうと思っているんだが!」

「ん!」


 俺は家で色々計画を練っているレイナを呼ぶ。

 すると無言で羊皮紙を渡してきた。この世界、そういえば紙がなかったんだった。

 これ結構高いんだよな。


「おぉぉ……」


 そこには、この村の簡易的な地図と村の改築案が書かれていた。そこにはため池予定地も。

 さすができる女だ。

 俺は、レオンを連れて村にいく。


「ソン、動ける男が3人ほど欲しい」

「わかりました。おい! イチロウ! お前たちこちらへ!」


 すると似たような顔の若い男三人が来た。

 25、6歳ぐらいだろうか。世紀末っぽい見た目をしている。

 

「一体なにをしましょう! へへへ。俺はイチロウでさぁ!」

「なんでもいってくだせぇ、領主様! 誰をヤリやすか! 俺はジロウです!」

「この村のためなら何でもしますぜ! 死ぬ気で働きます。俺はサブマリンでさぁ」


 統一しろ。お前はもうサブロウでいいだろ。なんだサブマリンって。

 しかし、やる気まんまんである。

 見た目がひゃっはーして、服がボロボロだから世紀末三兄弟とよぼう。


「今からため池を作る。開拓用のスコップやら道具をもって、ついてこい」

「「へい!!」」




 村の東側。

 特に何もない場所だ。

 だがレイナの開拓案では、ここに魔豆などを含めた作物生産エリアを作るようだ。

 なので、ここにため池を作り、定期的に水を流すことができるようにしたいのだろう。


「本来ならもっと巨大なため池を作りたいところだが、今は人数もいないし材料もない。地面を平に鳴らして、周りに積み上げろ。底は水が抜けないように叩いて固く。粘土質の土なので、問題ないとは思うが」


 幸か不幸か、粘土質の土地なので水はけが悪い。

 魔草による土壌改善がなければ、水がしみ込みずらい土地だ。

 そりゃ、作物も育たない。


 そして作業は開始された。

 俺は適当に魔草でも作って待っていよう。

 魔草はいくらあってもいいからな。

 

 俺は魔草を作りながら、彼らの作業を眺めていた。

 汗をかきながら、必死にスコップで掘っている。

 その表情は、昨日俺がきたときの表情とは全く違う。やる気に満ちて、まるで労働が楽しいとでもいいそうだ。


 5時間後。

 

 時刻は夜になった。

 俺は魔草をその辺に、70本ほど植えた。

 魔力の回復速度的には、大体4分に一本植えられるので、1時間に15本といったところか。


 ため池の方は……まだかかりそうだな。

 しかし5時間もぶっ通しでやって疲れないものかね。


「おい、休憩して明日でもいいぞ」

「いえ! 今日中にやりきってしまいたいです!」

「はい! みんなが美味しい水が飲めるなら! できるだけ早くがいいっすから!」

「これぐらいへっちゃらですよ! むしろ楽しいぐらいでさぁ!!」


 まったく……こういうのは、村畜とでもいうのか。

 俺は立ち上がった。


「領主様!?」

「そんな、自分達が頑張りますから!」


 そしてスコップで掘った。

 

「少し体を動かしているだけだ。今日中にやり切るぞ」

「「………………はい!!」」


 レオン達含めて、俺達はひたすらに掘った。

 それから完成したのは、深夜のことだった。


「はぁはぁはぁ……完成でさぁ……」

「はぁ……疲れやしたね。もう動けないっす……」

「領主様……はぁ……大丈夫ですかい!」


 俺も思わずしゃがみこんだ。

 肉体労働ってきっつ! ただでさえ、この体引きこもってたからこういうのに向いてないんだよ。

 じゃあなんでやったかって? わからない。

 ただ何となくやりたくなったんだ。それにしんどいが、割と気持ちが良い。

 このため池を俺達が作ったんだという達成感が。


「…………はぁはぁ……問題ない……うげぇ」


 吐きそうになっている俺を見て、へへへと若者三人衆とレオンは笑ったが、すぐにはっと口に手を当てた。

 不敬だと思ったのだろう。


「気にするな。俺はそんなに器が小さくない」


 俺もふっと笑い、そして立ち上がった。


「見ていろ」


 魔草をたくさん作ったおかげで俺の魔力の最大値は101にまで膨れ上がっていた。

 これだけあれば……俺は二つの湧水草の種子を作成。

 そして魔草で改善された土壌に植えた。


「――成長促進!」


 二つ同時に成長させる。

 そしてにょきにょきと育ち、湧水草は成長した。

 ぴゅっぴゅと水が溢れ、ため池に溜まっていく。


「うわぁ……まるで……チ〇コみたいっすね。うっ!」


 それを見て、思わず口を開いた若者三人衆の口をレオンが慌てて塞ぐ。

 俺はそれを見て笑いながら言った。


「この水を飲むのは、ちょっと気分悪いな」


 俺達は顔を合わせて爆笑した。

 

 何もないところだが、ちょっとだけ悪くない気がした。

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