第6話 魔草ってすごいー3

「し、知るかだって? ふざけるなぁぁぁ!!」


 その男の子は俺に殴りかかるように、走ってくる。

 だが、レイナが魔導書を取り出した。


「――アイスウォール」


 氷の壁が行く手を阻む。

 男は、氷を殴るがそんなことをしても通るわけもない。

 項垂れるように、膝をついた。


「レイナ、不要だ」

「しかし、危険です。セカイ様が刺激されるから……今にも全員で襲い掛かってきそうです」

「いや、これでいい。怒りはとても大切な感情で、こいつらの心がまだ死んでいない証拠だ」

「………………そういうことですか。またあなたは……ではどうぞ、ご勝手に」


 すると氷の壁が砕け散った。

 俺は項垂れて膝をついているその男の前に立つ。


「もう一度言おう。俺は知らない。お前らがどれだけの苦悩と絶望を感じていたか。侯爵家として悠々自適に過ごした俺が、お前たちの絶望など知るわけがないし、知っているなど知った顔で言えるわけがない」


 そして腰を落として、その男の目を見た。


「名前は」

「レオン……」

「そうか、レオン。まずはっきりと言っておく。俺はここに来たかったわけではない。お前たちと同じように、ここに追放された者だ。そんな俺を殺して、死んでいった仲間たちは満足するのか?」

「な、なら……どうすれば……俺達はここで死を待つだけなのに」

「死なない」

「え?」

「さっきもいっただろう。俺に逆らうならば殺す。だが、従うならば恵みをもたらすと」


 そして俺はその男の目の前に魔草のタネを植えた。


「――成長促進」


 その瞬間、魔草が生える。

 それを見た村人たちが目を見開いた。


「なにをしても……草木一本生えなかったのに……」

「奇跡だ……奇跡がおきた」

「不毛の大地に……草が生えた」


 俺は大きな声で叫んだ。


「俺には力がある。今はまだ弱いが、いずれこの大地を緑で覆いつくし、肥沃な土地にできる力が。だが俺一人では無理だろう。だからお前たちの力を貸せ」


 俺は目の前で膝をついていた男に手を伸ばした。


「そして……誰もが羨む領地にして、目いっぱい幸せになれ。それができるのは、生きているお前たちだけだ。それが……お前を愛し、無念のうちに死んだ親の願いだろう」

「願い……母さんと父さんの……願い」


 その少年は、両親を思い出したのだろう。

 涙を流し、ボロボロと溜まっていたものがあふれ出ている。

 

 すると先ほどレイナにシチューをもらったこの村で一番小さな少女が、走ってくる。

 するとその男の子に泣きながら抱き着いた。どうやら兄弟のようだ。


「生きてねって…………母さんたちは、俺たちに生きてねって言った!! 俺は死ななくてもいいのか。俺の妹は……死ななくてもいいのか!」

「お前たち次第だな。どうする。ここからもう一度俺と共に戦うか?」

「…………」


 男はゆっくりと俺の手を握った。


「俺の命なら捧げます。セカイ様、どうか……妹と……みんなを助けてください」

「違う。助けない、お前たちが自ら助かるんだ。だから命令ではなく、自らの意志で立て」

「…………はい!!」


 俺は周りを見る。

 どうやら周りも、同じ気持ちでいるようだ。

 

「意思は同じようだな。ならば、まず力を取り戻せ。飯を食い、そしてしっかりと休み……心の整理がついたなら、死んだ者たちを弔ってやれ。以上だ」


 そして俺はレイナとともに、その場を後にした。

 後ろでは、村人たちが涙を流しながら、頭を下げている。

 

 


 俺はレイナと、ぼろ家に戻った。

 そして、床に突っ伏した。


「なんとかなったぁぁ」

「名演説でしたね。さすが、口から先に生まれて、言い訳だけで引きこもり続けた方は違います。最初からこうする予定だったんですか?」

「俺が引きこもってたのは、外に出る理由がなかっただけだ。それにほとんどアドリブだ。…………空腹だけなら飯を食えば、立ち直れる。でもあいつらの心は、枯れていた。あれでは使い物にならない。いやいや働くのと、自らの意志で働くのでは効率が違いすぎるからな。まずあいつらに足りないのは、ここが自分達の領地であるという意識と、自らがここを開拓するんだというモチベーションだ」

「だから、彼らを挑発したんですか?」

「枯れた奴らの心を動かすには、飯というエネルギーと怒りという起爆剤を与えなければならない。案の定噛みついてくれる奴がいてよかったよ」

「彼らは、まんまと踊らされたということですね」

「言い方悪……でもそうだな。俺はあいつらを乗せた。だがあいつらもバカじゃない、乗せられたことぐらいわかってるだろう。それでも必要なんだ。嘘でもいいから」


 俺は床に転がりながら空に向かって手を伸ばす。


「――絶望を超えるための、希望の光が」

「そうですね、それはすごく……わかります。…………あ、そういえばあの草は一体どういうことですか」

「あぁ」


 俺はレイナに生命の魔導書の説明をした。


「…………なんですか、その力」

「え? 糞弱くない?」

「確かに魔草だけならそうですが、それでも十分におかしな性能だと思います。それこそ……他に植物が開放されたなら……」

「異世界チート無双始まるか」

「チート?」

「いや、忘れてくれ。とりあえず、魔草を植えていきたいんだがどこがいいか選定してくれ。色々検証もしたいし」

「わかりました。では、緑地化計画を作成しますので、明日まで待っていただけますか?」

「さすが、仕事が早い。じゃあ俺はガチャを回してみよう」

「その結果で、計画が変わるんですが」

「そりゃそうだな。じゃあ一緒に回すか」


 俺は持ってきたF級の魔石10個を用意する。

 これであとE級の魔石が一つだけになる。


「では……回すぞ。これで全部魔草とかだったら笑うしかない」

「レア確定と書かれていますけどね」

「レアが、魔草(大きな個体)とかだったらどうしよう」

「はぁ~えい!!」

「うわぁ!」


 レイナが魔石を全部放り込んだ。

 すると魔導書が光り輝く。

 うわ、この演出親の顔より見た!!

 

 働き過ぎていた俺の唯一の楽しみはソシャゲのガチャだった。

 時間のない現代人の大人は、クタクタになりながら電車の中、金の力でガチャを回すことだけが楽しみなのだ。泣きたくなってきた。


『コモン! 魔草!』

『コモン! 魔草!』

『コモン! 魔草!』

『コモン! 魔草!』

『アンコモン! 魔豆!』


 おぉ! 4連続魔草が出たときは、終わったと思ったが魔豆? これは食料になりそうな植物だし、アンコモンと書かれているぞ。豆といえば畑の肉だからな。

 

『コモン! 魔草!』

『コモン! 魔草!』

『コモン! 魔草!』

『ノーマル! 湧水草!』


 さらに、レアリティがノーマルの湧水草という植物も手に入った。めっちゃ水が湧きそうな名前だが、果たして……そして最後に、10連だとレア以上の植物が確定しているが。

 

『レア! 魔樹!』


 木かぁ~。

 あ、でも……植物操作できるってことはもしかしてあれができるのでは?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る