第4話 : 迷子フリートレス、艦隊に合流すべく行動開始!
ソロモニア学園より東側、ソロモニア王国城下街へ続く丘の道。
「……ハァ……ハァ……は、走る以外でさ……息切れっていつ以来だか覚えてる……?」
街道を、肩を組んで歩く二人。
「フゥー……フゥー……ま、まぁ?私ったら、普段、ダイエットでこのぐらいは……グゥ!!」
二人は、若い女だった。見た目は。
二人は、布地の少ない服をさらにボロボロにしていた。
二人の片足は、負傷して『青い血』を垂れ流していた。
「ハァ……ハァ……なぁ、ル・ファンタスク……?」
「フゥーッ……!喋んないで足動かしてもらえますぅ?
ヒュー……!自称最速の
2隻は、
片方、ショートカットの栗毛の方は、陽元海軍重雷装駆逐艦『島風』。
紫色の長髪は、
2隻とも、かつて地球の第2次世界大戦において、
『最速』の称号を持った駆逐艦の名を受け継いだフリートレスである。
そんな2隻は……大破と判断される負傷を負っていた。
「……木、あるし休まないか?」
「……珍しく、素敵な考えで!!」
二人は丘の上、一本の木にもたれ掛かって、ようやく一息を付く。
お互い、しばらく無言で、空や、遠くの街を覗く。
「…………轟沈したかい?」
「…………まだ喋れたんですねぇ……くたばって静かな方が好かれますよ?」
「…………今初めてその憎まれ口が聞けて良かったって思ったよ」
「……王子様気取りの島風様に気に入られて光栄で〜す♪」
ははは、と力無く笑い、お互いはぁー、と息が漏れてしまう。
…………頭上を鳥が鳴きながら、飛んでいった。
「………………ボクたち、死んだのかな?」
やがて、ぽつりと島風が問う。
「もしここが地獄でしたら、怪我ぐらい治して欲しいんですけどぉ??
見てくださいよ……グッ!!
クソ…………足が完全に逝ってるんですけどぉ!?
最悪ぅ!」
鋼鉄製の骨が、曲がって飛び出る足の悲惨な傷。
いまだに青色の血が流れていく。フリートレスでなければ失血死だろう。
「…………骨だけでも戻そうか?」
「誰が……手伝って欲しいって……ガァッ!!」
ル・ファンタスクは、自分の手で鉄の骨をまっすぐに曲げて、無理に傷にしまう。
「フゥー……!!!
ったく、5次元空間でしたっけ!?!
6次元??7次元!?!?
ジュール・ベルヌもHJウェルズも流石に実物は見たことがない空間から出てきてコレですよ!?
クソが!!クソクソクソクソッ!!!
クソ以外に言葉無いんですけどぉ!?!」
「はしたないね。騒ぐと出血が酷くなるよ?」
「ハァ!?!ったくアジアの艦の癖にマナー語りやがります!?
にしたって、GPSも効かない!!星座もわからない!!
呼吸可能大気って事以外何も分からない!!!
ここはどこで!?!!
私たちは帰れるんですか!?!
そんな状況ではしたなくもならない陽元艦のあなたが異常なんですよ!!
いや、それ以前に、
私達の戦いが勝ったのか!!
負けたのかぐらいは教えてくださいよぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!
クソ神様がッ!!!」
ル・ファンタスクは中指を天に掲げる様に立てて、どこか分からないこの場所の下でグチャグチャの感情をむき出しにして叫ぶ。
「畜生!!畜生!!!クソ!!!
ねぇ!?!私達、こんなんなってまで異次元を突破して、それでようやく敵の本拠地に乗り込んで!!!
でもあのクソ大和の攻撃で全部吹き飛ばされて!!」
「じゃあつまり、勝ったって事じゃないかな?
大和ならやるさ」
「ハッ!!あのお高くまとまった戦艦の傲慢さでも移りましたぁ!?
まぁご自慢の秘密兵器ですもんねぇ!?
私達は、あのクソに…………クソ!!!」
「まぁ、フランク艦なら言いたくないよね。
『あの大和にしんがり任せて逃げました』だなんて」
ガッ、とル・ファンタスクが島風の胸ぐらを掴む。
「……この服だと胸が溢れるからやめてよね」
一通り睨みつけ、乱暴に島風を放し、どかっと再び木に背中を預ける。
「…………あーそうですよ!!
……逃げたのは私ですしぃ……クソが」
「私じゃなくて……『私達』だろ?
責やしないよそこはさ」
島風は、あってない様な服を直し、あまり機能していない半袖コートの内側をまさぐる。
「…………
「こんなとこ入れてたら割れてるよ……
……コイツみたいに」
取り出したのは、へたった包み紙のチョコレートだった。
「キャハハハ!何それ溶けてんじゃないですか!
今日初めて愉快な気持ちになりましたけどぉ!?」
「要らない?」
「んなもん要りませんしぃ??
私だって、とっておきのお菓子の最後の一個ぐらい……」
そう言って、ル・ファンタスクも似た様な服の内側を弄り……
─────溶けて一つになったグミの袋を取り出した。
「…………」
「…………溶けてんじゃん」
「笑いたきゃ笑ったらどうです?」
「笑えないよ……お互い本気で走ったら体温500℃じゃないか」
「…………原型とどめてるあたりマシですかね」
お互い、溶けたチョコとグミを見る。
食えなくは無いが、予想外の形態に食う気は失せる。
「…………これ食べたら傷治るかな?」
「食べたらわかりますよ?ほらどうぞ?」
ハァ、とお互いユニゾンしたため息を出す島風とル・ファンタスクだった。
「…………どこかも分からない場所で、死を待つか」
「サムライの国の美学に合いますかぁ?」
「…………君が悪いわけじゃ無いけどさ……
寂しいな。同郷の仲間に会いたい」
島風の言葉に、思わず面食らった顔になるル・ファンタスク。
「……会いたいよ、みんなに。
長波……武蔵ちゃん……摩耶さん……
この際、一回だけ世話になった第3ソロモン戦隊の口うるさい夕立さんとかでも良いかな?
……嘘だよ。あの人、一回だけ世話になったけど……良い人だったよ……」
「…………ハァ?随分とおセンチですこと。ハハハ……ハァ……」
空を見る島風と、顔を背けて疲れた表情のまま黙り込むル・ファンタスク。
「…………誰が、寂しいなんていうもんか」
「?」
「…………私の仲間も、姉妹も……寂しいなんて言い合う様な……おセンチな、絆じゃ無いんですよ……クソが………………言ったら……バカにされるんだ……バカにされて……いじられて…………グスッ…………畜生……!!」
…………お互い、さまざまな疲れが心身共にのしかかる。
しばらく無言で、俯いたり、遠く明後日の方向でも眺めていた。
「あ───────────ッ!?!?!」
そんな二人に、突然鼓膜が破れそうな大音量が襲いかかった。
心身ともに死にかけていた二人が一瞬意識も吹き飛び、心臓も一瞬止まった大音量。
この声を知っている。
最も知っているのは島風だけだが。
声がうるさいフリートレス。
その2大巨頭はどちらも太平洋を主戦場とするフリートレスだった。
ひとつ、陽元海軍。
とある日の早朝の一発目の『朝が来たー!』の言葉が地球の反対側の基地に届いたと噂される兵装試験型
そしてもう一つ。
ステイツ海軍、最新鋭戦艦にして、普段からうるさい事で有名なアイツ。
一度服にゴキブリが入った時あげた悲鳴で、同僚のフリートレスの聴覚を破壊して、周辺にいた潜水艦および
「いたァ─────ッ!!!
友軍だぁ!!!仲間だァ───ッ!!!
助かったぁ──────ッ!!!!」
爆音の声で、また三途の川から戻される。
そして、道の向こうに見える人影が、予想通りの姿を見せる。
「って怪我してんじゃねぇかぁ──────ッ!?!」
目の前で爆音響かせる、褐色肌の露出が多い陽元では「アメスク」と称される衣装に似た格好の背が高い美女。ちなみにステイツのフリートレスの正式採用型衣装である。
彼女は、ステイツ所属の最新鋭戦艦の一隻。
サウスダコタ級
「さ、サウス……ダコタ……!?」
「ヤベェ!!めっちゃ傷が深い!!!
クソやばいじゃねぇかぁ!?!
あ、でも傷は生体部品だけかァ!?おい、えっと」
「……私は島風。覚えてくれてなかったかい?」
「島風ェ!?ごめんよちょっと名前忘れてたァ!!!
でこっちは誰だっけかァ!?!?!」
「ル・ファンタスクですよ、クソデカボイスの戦艦女」
「ル・ファンタスクゥ!!覚えたァ!!
とにかくちょっと待ってろぉ!!!
とりあえず痛えけど今、
「「ステイツ製かよ。まぁ気力があれば」」
世界一使いたく無い特効薬を渡して、サウスダコタはどこかに爆速で走っていった。
……残された
なお、ステイツ製は陽元製より治りが遅く、鋭い痛みでは無いが、地味に痛みが長く続く。
「……グッ……ガァッ!!!
クッ……痛ッッたいな〜〜〜……グゥッ!!!」
「ぬグググ……叫んだって良いんですよ、別にバカにはしませんしぃぃぃぃッ……〜っ、つぁッ!!クソ!!!」
と、修復の副作用で汗やら何やらが蒸気となる様な温度の体温となっている二人に、また大きな声が迫ってくる。
「待たせたなぁァァァァ!!!!!
ちょっと色々あってぐったりしてるけどよぉ!!
ワシントンと
爆音と爆速でやってきたサウスダコタが、自ら抱えていた二人の人物を下ろす。
「ぐえー……ダコタぁ、もっと優しくしてよぉ〜……!」
一方は、金髪白人でツーサイドアップの、サウスダコタと同じ格好の女性、
「あーうー……ごめんなさいダコタちゃぁん……!」
もう一方は、青い髪に襟から腕までの軍服風の服の下には青いビキニとミニスカートだけの凄まじい格好の女性。
「冗談かと思えば、本当にワシントンと高雄さんじゃないか……!」
島風は、顔見知りだった二人、
金髪の方、ステイツの
青髪の方は、陽元の
グギュルルルル……
「「……お腹、空いた……」」
二人揃って、腹を鳴らしていた。
「それなりに美味しー!ちょっと溶けてドロドロだけどぺろぺろしたら変わらないもんねー♪うふふふふふ!」
「うっわ、さっすが意地汚い田舎国家のステイツの戦艦ですことぉ」
ル・ファンタスクを背中に背負い、恐らくこの場のメンバーを含め1番背が高くスラッとしたスタイルの金髪美人のワシントンは、10歳児の様な笑顔で溶けたチョコの包みの裏をぺろぺろ舐めていた。
そう、この
生まれた時から10代後半辺りから、恐らくどんなに老けて見えても20代前半の女性の姿をするフリートレスという存在において、実は大変年若い。
言い換えれば『新世代型』にして、その中でもすでに後継がいるにもかかわらず、精神年齢が大変幼い事で有名だった。
「コラ!」
と、背中で嫌味を言うル・ファンタスクに突然そう声を荒げる。
「は?なんです怒りました?」
「知らないの!?
ステイツの事『いなかこっか』って言うのは、国家機密漏洩罪なんだよ!!
ヴィクトリアの支援で言った先の優しいえらい提督のおじさんが言ってたもん!
ワシントン知ってるもん!国家機密漏洩罪はダメだと思うよ!!
めっ、だよル・ファンタスク!!」
「ブフォッ!?!」
「ブッ!!!」
屈託のない笑顔で放たれたのは、
「……ワシントン、お前……お前も国家機密漏洩してるぞ?」
「ワシントンはいーの!年下のダコタちゃーんと違って、偉いもん!」
サウスダコタは、自分はバカな方の自覚はあるが流石にそのジョークの真っ黒ぷりは分かった。
同盟国陽元の仲間の言葉、「ヴィクカス」という単語が頭を駆け巡った。
それを事実と信じてドヤ顔で自分の頭を撫でて年上アピールするデカい幼女に何教えてんだと叫びたかったが、やめておいた。
「なんかムカつくぜワシントォン!!」
だがそれはそれとして腹が立ったのでワシントン髪の毛をわしゃわしゃしてぐしゃぐしゃしておいた。
「やーめーれー!!!」
「やーめーねー!!!」
「うるせぇし、私に髪の毛当たってんですよ、田舎国家のアホ戦艦ども!!」
「……元気だよねぇ、ステイツ艦。
なんか、気持ちが楽になりましたよ」
そんな横で、高雄におぶさる島風はそう言って高雄の顔を見た。
「……うぅぅぅ、本当良かったよぉぉぉぉ……!!」
高雄はその美人な顔をグチャグチャにしてボロボロ泣いて鼻水も垂らしていた。
「……あー、まぁ高雄さんだしねぇ」
「高雄ォ!?!どうしたお前、溶けたグミに当たったかァ!?!ぽんぽんぺいんかァ!?!」
「うぐ、うぐ、違うのダコタちゃぁん……アタシ、アタシって、みんなよりずっと歳上だけどねぇ……正直一人だけじゃ寂しくで何にもできなかったなぁ、って考えるとねぇ……ひぐ、やっぱり、情けないって思うし……でも良かったなぁって……
ひとりぼっちはさぁ……さみしいんだよぉぉぉ……!!」
そう聞くと知る物は誰もがこう答える。
「残念美人」
「高雄すぐ泣く」
「オドオドしていて鈍臭そうなフリートレス筆頭」
実際の能力は抜きに、高雄はすぐ弱音を吐き、すぐ泣いて舐められるを通り越して皆がすぐケアする様な残念フリートレスだった。
「高雄ォ!!元気出せよ!!!
お前、アタシに残りの食料くれたスッゲーいいヤツじゃねーか高雄ォ!!!」
「よしよし高雄おねーちゃん。私の分までダコタに上げたのはアレだけど、判断は良かったぞ?褒めて遣わすー」
「グスン……ありがとうねぇ、優しいねぇ……」
「うーわ、想像以上に悲惨な人格してますねぇ?
これがあの、第2次世界大戦で最後まで活躍したあの『高雄』の名前を継いだ、」
「オイ、ファンタ女」
と、高雄の背中にいた島風が、突然ドスの効いた声を上げる。
「は?誰のことで?ドイツの炭さ、」
「ル・ファンタスク。その先の言葉は慎重に選べよ。
高雄さんに間違った意味で役不足とか言うつもりなら、こう言っちゃなんだけどお前の認識は間違いだ。
謝るなら今のうちだぜ。どうする?」
「は??
私より遅いヤツが何言い出すかと思えば」
「やるか?今度はボクが足をへし折ってやろうか?」
「私を追いかけるだけでへし折れるクソ雑魚陽元の脚遅駆逐艦が生意気言わないでくれますぅ??」
「って、喧嘩しないでぇ!?!アタシ気にしてないからぁ!!」
「お、喧嘩か??喧嘩か??」
「やれやれー!!」
「二人も煽らないでぇ!!」
ふらつく足取りで喧嘩のために地面に立つル・ファンタスクと島風と、煽るステイツの戦艦二人に収拾がつかず涙目の高雄。
『───カオスな状況だナ、お前ら』
と、そんな全員の持つフリートライザーから、そう声が漏れる。
「誰ですか!?友軍識別コードを口頭で言ってください!!」
即座に、高雄は陽元式の携帯電話型フリートライザーの無線機能を起動して声を発する。
『おっと悪かったナ。『チョビヒゲ伍長クソ喰らえ』、これでいいダロ?』
「EUG友軍識別確認!」
「ゲルマン!?げぇ、そこもいるんですかぁ!?」
ル・ファンタスクが嫌そうな声を上げる中、高雄は無線相手に続ける。
「『ワレアオバ、ワレアオバ』、こちら陽元の
『
昨日から相棒の航空機を飛ばしていた甲斐があったゾ!』
ブゥーン、と空を一瞬横切る影。
第2次大戦期のレシプロ機を模したドローン。
「うわ、Bf109T型とか……!」
「てことは、グラーフツェッペリンが一緒かぁ〜。
大西洋勢じゃ、なんとか戻って来れた艦だったっけな〜」
「戻って……?」
「来れた?」
ふとつぶやいたワシントンの言葉に、島風とル・ファンタスクは疑問符を浮かべる。
「オイ、どうしたんだ二人ともォ!?
どこか痛いのかァ!?!」
「……なぁ、聞きそびれてたけど、
あの裂け目の突入作戦から、あの後どうなったんだい?」
島風の質問に、ハッとなる高雄と対照的にサウスダコタは首をかしげる。
「どうなったって、勝ったじゃねぇかよ島風ェ!!
アタシたち勝ったんだよ!!んでもって、セカンドクロスロードで……あッ!!!!」
サウスダコタはそこである事実に気づいた。
「アタシ以外考えても見たら作戦で帰還できてねェェェェェェェェェッ!!!!!
ワシントォン!!!高雄ォ!!!島風とあとファンタ!!」
「ル・ファンタスクですからね。
次クソゲルマンの偽物コーラの名前で言ったら殺す」
「なんでも良いけどもしかしてェ!!!
全員あの後どうなったかしらねぇって事かァァァァ!?!!」
青空に響くサウスダコタの声で、鳥が飛び立ち鹿がこちらを向いて、岩に擬態していたモンスターもこちらを向いた。
「……五月蝿いのはこの際いいとして、
アレから、ボクたちはせいぜい数時間しか感覚で経ってない。
で、勝ったよね?」
「ああ!!!勝ったぜ島風ェ!!!
アタシ戦いすぎて手足も目も無くなっちまってさァ!!2年間クロスロードまで大変だったぜェッ!!!!」
「声デカいの、めっ!」
ストン、とワシントンからチョップを喰らうサウスダコタは、痛ぇとつぶやきながら、不服そうな顔でワシントンを見る。
その様子を見つつ、怪訝な顔で島風はおそらく同じ様な感情のル・ファンタスクと顔を見合わせる。
「すると、アレですかね?
私達、あの後別次元を突っ走っている間に2年間は少なくとも経っちゃったって??
HGウェルズでしたっけ?ジュール・ベルヌ?
見てないんですけどどっちも!?」
「……2年で済んだら良いけどね。
少なくともここは未来の地球とかじゃ、絶対無いってのは上を見ればわかるけど」
島風は、片手で目を少し覆いながら遠くの空を見る。
この星を照らす、登りかけている太陽。
目を凝らして、それが異様な姿なのに初めて気付くような太陽。
─────中心の『漆黒の球体』の周りに、光が纏う様な天体。
「ん?何見てんだ島風………………なァ!?!??!
おい嘘だろォ!?!太陽じゃねーじゃねーかアレェ!!!!??!!!!」
「うっさいなぁ、あんなの目を凝らさなきゃ分かんないさ。
何せ、あの天体はこの宇宙の中では反物質に次いでエネルギー効率がいいって言われてる天体だぜ?」
「随分詳しいですねぇ、天体博士の島風さん?
じゃあ聞きますけど、ここはどこの銀河のどの星なので?」
「───お前ラの国がSF小説の先駆者だった時代はもう終わりって分かる質問だナ?」
突然の声に全員が振り向く。
「よぉお前ラ。ステイツに陽元に今は同盟国のフランクか?ま、アホヅラ下げて集まってるヤツらという意味じゃピッタリのラインナップだな」
そこにいたのは、グレーと黒の横がガラ空きの衣装を纏う、背が低い金髪ツインテールの少女だった。
「プリンツ・オイゲン!?」
そう、彼女こそEUGの
「誰がアホヅラですか、キャベツの国の陸軍国家の弱小海軍フリートレスさん?」
「ま、そのアホヅラに加わろうっていうんだからナ。
私もアホヅラってところダ。良かったなフランク1の逃げ足駆逐艦?」
「あ!?!」
「はいはい、背中で暴れないでね〜。
というかエウロパのフリートレスって、みんな貶し合わなきゃ生きていけないの?」
「エウロパはどっかのカスの島国以外は連合を組むことにしているが、あいにく昔からコウだゾ?
お前ラの国の州同士みたいな物ダ」
ワシントンの言葉にそう返すプリンツ・オイゲン。
そこからワシントンが同郷のサウスダコタに視線を向けて、なんか分かるとでも言いたげな顔で無言で同時にうなづいたのだった。
「あのぉ、オイゲンさん?
あなたはこの状況については何か情報をお持ちですか……?」
ふと、高雄がおずおずと片手を上げてオイゲンに尋ねる。
「いや知らん」
しかし、キッパリとオイゲンはそう何も知らないことを伝えた。
「やっぱり……」
「知らんが、知ってるヤツを知っている」
だがここで、新事実を唐突に突きつけてきた。
「え!?」
「待てよプリンツ・オイゲェン!!!
知ってるヤツを知ってるってどういう意味だよォ!?!」
「うるせぇゾ、ステイツ戦艦。
まぁ良い、ちゃんと答えてやる。
今ここにはいないが、さっきまでグラーフ・ツェッペリンと一緒にいたんダ。
そこで……」
と、サウスダコタの声に耳を塞いでいたオイゲンは元の姿勢に戻って語る。
「そこで、偵察機を出していたダロ?
ソイツが帰りがけに、陽元の偵察機を見つけたんだ。
確かゼロだったか?」
「
と、太平洋組のフリートレス達はその名前に喜びの声をあげる。
「はしゃぐならコレ聞いてからにしロ!
無線も聞いたゾ?相手の名前は『
「隼鷹ちゃん!?!」
「アイツが!?!」
「隼鷹といえば、あの!?」
「で、ダ。
隼鷹曰くここは魔法がある様な童話の異世界だそうダ。
信じられんが、割と信じたくもなる様ナノを昨日から見ていてナ」
「大丈夫ですその報告者?
大麻あるなら、分けて欲しいですけどね」
「確かにそりゃ危ない葉っぱを疑うぐらい信じられないな。
ま、ボク達最終決戦の後色々あって5次元空間走り抜けたけどね?」
「まぁ、それは見りゃ嘘か真かは分かるダロ?
とりあえずはその隼鷹ってヤツと合流ダ。
で、それでちょっと申し訳ないがな、手伝ってもらいたいことがあるんダ」
ふと、オイゲンがそんな事を言い出す。
「手伝う?」
「ハッ!一体何手伝わせたいので?
ま、そろそろ脚も治ってきましたし、頭下げるなら、」
「ここからが本題だが、グラーフ・ツェッペリンの他に一応味方がいたから回収しタ。
ソイツが、たまたま見つけた酒場に勝手に行きやがっタから連れ戻して欲しいンダ」
少し頭を抱えて、オイゲンは生意気な発言を遮ってそう簡潔に説明する。
「えー、お酒呑みに行ったってこと〜??
…………ん?」
「あ。
あーッ!!なんかスッゲーいやな予感するぞオイゲェン!!!!」
「だからうるせーゾ!!
けどその予想は合ってる!!
よりにもよってソイツは『ノーシア』艦だ!」
────地球の北方には、巨大な国家が存在する。
かつては白い雪に包まれた『赤い国』。
そして、ステイツと張り合ったもう一つの陣営の主。
そして何より、今も昔もお酒好き。
「酒カスノーシアの
アイツ、馬力だけはあるし、昨日酒場を見つけてからずっとアル中の禁断症状だったんダ!!
私だってビール我慢してんだゾ!??」
***
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