第3話 : ごめんなさいです、国王様
ソロモニア魔導士学園、その1番高い塔。
私、異世界に来た駆逐艦装少女夕立と、現地の方で提督になってしまったフォロン提督、
後、今朝合流したばかりの
…………ま、まぁ随分と風通し良いっすね〜、ええはい……
そんな、なんか見覚えがあるな〜、このまぁるい穴な〜、誰のカットインが開けたのかな〜?
「まぁ、昨日は大変だったよ。
私がいない間に、学園の執務室に穴が空いてしまったようで。
資料が幾つか……燃えてしまって……その、少しショックだがまぁ、気にしないでくれたまえ……」
やべぇ、この国の王様で学園長のこのイケオジ様、
ものすごく落ち込んでる……
特に資料のあたりで………………
今私は、怒られる提督とドーリナ姫様の背後、扉の近くで安めの姿勢で滝汗流して立っています。
隣には、心中お察ししますって顔をしてくれる全てを察したアークロイヤルさんと、
あと後ろで無言で顔近づけて煽り散らかしている昨日の最大の戦犯の青肌悪魔のアスモロッテ氏。
殴ったろか、コラ?
にしてもやっちまったなぁ、私。
これ私のカットインのせいじゃ無いですか。
気まずい!!!
今すぐ土下座したいですけど、今は私の番では無いんです!
「恐れ多くもソロモニア王陛下たる我が父ゲーテル8世へ言わせていただきたい。
此度の騒動は、全てこの不肖の娘ドーリナに全ての責任があります」
面倒臭い理由で提督と戦ったお姫様ですが、一応筋は通すようにそうまずは言葉を紡ぎました。
パチィン!!
しかし、まさかのその頬に突然白い手の一撃が!
「まったく、いくらドーリナ姫といえども!!!
禁術魔法を使うだけにとどまらず!!
それにより呼び出した悪魔のせいで、学園がめちゃくちゃになっているんだぞッ!?!
その蛮行、本来なら万死に値するほどのものだッ!!!」
────若い女みたいな美人顔の枝みたいに全身細い人から、聞こえる張りのあるイケメンボイス。
ああ、そんな美人顔にもう一つだけ特徴が。
耳が、すっごく長い。
エルフですよ、トラックじゃ無い方!!
ちょっと魔法使いっぽい格好のキリッとした女みたいな美人顔のイケメンエルフが、姫様の頬を平手で叩いたんです!
「エリアテ副学長……!!
い、いくらなんでも、」
と、そこからさらに狼狽えて立ち上がった王様の方につかつか近づき、エルフ氏はまさかのグーパンで王様を殴りました。
「痛ッ!!」
「不敬というならいくらでも言われよう!
しかし、ゲーテル貴様!!人の親なら叱るべき時はキチンと叱れ!!!
ましてや、怒られる覚悟と反省をしているもの相手に有耶無耶で済ますな!!
王である前に親の自覚を持て!!!」
エルフの人は、その本当に綺麗な氷みたいな表情の顔に似合わないぐらい熱血な指導をしていました。
王族関係無しなぐらい、気持ちいいぐらい「スジ」ってヤツを通す人柄なのが伝わってきます。
というか、さらりと副学長って言われました?
じゃあこの学校で2番目に偉い人??
「…………すまん。私も、娘には甘いのだ」
「あの、エリアテ先生?どうかその辺で。
お父様も、そこまで親バカではございません。
なにより、」
「くどいですな、姫様。
反省の意も最初の罰も終えている。
そして、まだ反省すべき者もいる」
エリアテさんというエルフの人は、そう言っていよいよ我らのフォロン提督の前へ鋭い視線を向けてやってきました。
「…………何をやったのか、まずは理解しているのかフォロン?」
「……私は、ドーリナ姫を止めるためとはいえ、同じ禁術に手を、」
「それ以前の話だ。
私が言ったことが現実になったようだな?」
う、とエリアテさんの言葉にバツが悪そうな顔を見せる提督です。
「フォロン貴様は、世間体を気にしすぎる。
貴様の才能を見出したのは私だ。だからこそ言ったはずだぞ?
お前は、才能を隠すのが下手すぎる。
人もエルフも誰もが、もっとも侮辱を感じる時はなにかをこれで理解したか?
侮られたと感じた時ほど、関係は拗れるのだと。
下手を打った感想はどうだ?
此度の騒動の遠因となった感想は?」
…………いっそ、殴って指導された方が良いレベルの圧迫感でした。
提督、強く生きて……!
「……私もやりすぎました。薄い言葉で申し訳ないですが反省してます……
それはそれとして、もう一つだけ報告がありますエリアテ先生……!」
「なんだ?ああ、もしも最悪な知らせなら遠慮なく言うといい。
これ以上下がる機嫌を私は持ち合わせていないからな」
「……で、ではその……そちらにいる私が契約した夕立の、仲間についてですが……!」
「提督、失礼ながらその先は私が」
流石にこの氷みたいな視線のプレッシャーに泣きそうなフォロン提督です。
私が変わった方がいいでしょうね。
「……お願い、夕立」
「……魔と言うには変わった気配だが、使い魔としては空気が読めるらしいな」
「すみませんねえっと、副学長殿ならびに国王陛下、」
フォン、と瞬間、エリアテっていうエルフの方が指輪の付いたその指を向けたと同時に、私の周りに謎のリングの光る魔法っぽいエフェクトのヤーツが……?
「続けてもらおうか。言葉は選んだ方がいいが」
「……では、まず我々のことと状況から」
謎の魔法な感じのリングの中で、とりあえず私たちフリートレスという生き物の簡易説明、提督の権限と例の初期建造による艦隊の編成。
そしてなぜ建造装置があるのかは分からない代わりに、おそらく私とそこのアークロイヤルさん含めて運が悪ければ11隻フリートレスがこの世界にいる事を説明しました。
「……ほう?案外すんなりと本当のことを言う物だな?」
「お優しい言葉感謝します」
フォン、と初めて私を囲うリングが一瞬光を強くしました。
「今のを見ただろう、夕立とやら。
コレは嘘と誠を聞き分ける魔法だ。
ああ、厄介なのは世辞も嘘と判断するところだがな」
すぅ、と目の前のエリアテさんの手の動きと連動して、その魔法の嘘発見器が消えていきます。
「……だが、腑に落ちないな。
お前はあの『不完全な時空破壊魔法』で呼ばれたわけでは無い可能性が出てきた可能性すらあると言うことか」
「「は?」」
ん?
多分専門家な魔法使いの提督とお姫様がそんな声を上げました。
「どう言うことですか?
あの禁術は、精霊界以外の別の世界の者を……」
「聞くな。口を滑らせただけだ」
「いや、副学長。
そこは同意できかねないな。
使ってしまった、やり方を覚えてしまった二人にはあの術の本質と、なぜ禁術なのかを知る必要があるとは私も判断するが」
「正気かゲーテル!?」
「違うかね?」
先程までの情けなさが消えた、静かな強い意志のこもった視線の陛下です。
「…………お前ほどの問題児を、問題児のままに王にした私の落ち度か」
「1500年生きている『先生』から見ればまだ問題児扱い、ですかな?」
キッと睨み返すエリアテさんに、少々不適な笑みを返す陛下なのでした……
「……提督、そういえばこの方って偉いのは分かるんですけど、なんで陛下相手にここまで出来るので?」
「エリアテ副学長は、ソロモニア王国建国からずっとこのソロモニア魔導士学園の実質トップで、」
「……本人は語りたがらないのだけれども、500年前の魔王と勇者の戦いにおいてその補佐をした『伝説の魔導士』とも……」
「────エルフ種の地獄耳もすぐ目の前で、余計な噂話をする余裕があるようだな?」
と、気になる事を聞いていたら、そんなおっそろしい声をかけられちゃいました。
「……良いだろう。その太々しさ、
そこの元教え子と瓜二つなようだな」
恐る恐る振り向いたその先には、綺麗な顔のゴミでも見るような目が。
「喜ぶといい。貴様達には禁術の全てを教えてやろう。
そして、命尽きるまでそれらを守る大役を背負ってもらうぞ」
「…………」
有無を言わせない。そして沈黙の意味もイエス。
あーー、思い出すなぁーー
欧州遠征時、直属の司令官となった
あの冷たい顔と、有無を言わさない完璧主義。
古臭くって、不遜で自信たっぷり、その癖……いやそれだからこその冷徹で冷静沈着なステレオタイプだった、ゲルマニア人らしいあの態度。
エルフって、ゲルマニア人なんですか?
「……ところで、一つ確認なのですが、」
そんななか、なんとアークロイヤルさんがおずおず手を上げてそう発言しました。
「なんだ?」
「大したことではございません。
このお部屋は、そちらの王陛下様のお部屋ということでよろしいのでしょうかという確認にございます」
「…………陛下、お呼びだ」
「コラコラ、私は一応一国の主人なのだからね。
そちらの素敵なお嬢さん……というべきか不安な君のいう通りだよ。
この今は風通しのいい部屋は私の研究室だったんだが…………ま、また一から魔法の研究なんてすれば良いからね……頭の中に……のべ数百万冊の……うぅ……」
アークロイヤルさん、心の傷抉る〜。
……さすがに申し訳ないので、私のカットインの流れ弾のせいなので、
私は、無言で土下座しておりました。
「心中お察しいたします。
この通り、この度の王陛下の研究室損壊の主犯は謝っておりますのでどうかお心やすらかに……」
サラリと私の罪を暴きやがった!!
まぁ事実とはいえ『ヴィクカス仕草』じゃねーですか!!
「その上で確認ですが、
……!
「そうか、
そろそろ航続可能限界時間!」
「へ?何??」
────ブロロロ、と言う音が聞こえてきます。
「この音は?」
「陛下、もう一度お尋ねますが、
もう吹き飛んでもお困りになる資料はございませんね?」
「何か、風を巻き上げる物でもやってくるのかね?」
「ええ。
我がヴィクトリア製のエンジンを響かせ、荒い大西洋の風を切る、
少々古臭いですが、わたくし自慢の翼が」
ブロロロロロロロロッ!
ブォォ、と風を巻き上げてやってくる。
ブゥーン、と音を立てて部屋の大穴から突入する、レシプロ単葉機型の
ブラックバーン・スクア。
もうそんな企業もいない、かつて空を飛んでいた時代の名前のみを受け継いだ兵器。
「なんだ?鋼鉄の鳥……いや虫?」
「強いていえばカモメとでも」
ブゥーン、とスクアは綺麗な弧を描いて、片手を横に一礼したアークロイヤルさんの背中と腕を滑走路にスポッと伸ばした片手に着艦します。
「アレって……何?」
「艦載機。
巡洋艦や駆逐艦のように小柄さと素早さを活かして近距離で殴り合わず、戦艦のように強烈な砲で戦うわけでは無い。
その代わりに得た、誰よりも遠くから敵を見つけつつ、戦艦の砲の届かない位置から爆弾やら魚雷やらを叩き込む。
そして、同じ艦載機を相手にし、空から来る同じ脅威から艦隊を守る。
故に、
「それがわたくし、
す、ともう片方の手で、私のものと同じ機能のフリートライザーを……
「剣!?」
「ああ、これがヴィクトリア所属艦専用のフリートライザーにございます」
ちょうど、この世界にピッタリな造形のブロードソード型フリートライザーを取り出して、片手のスクアを量子化してしまうアークロイヤルさんです。
「……アークロイヤルさん、いましたか?」
「ええ。ただ、事前の予測とは違いますね」
「…………フォロン。貴様の使い魔の方が、使い魔の使い方を知っているようだ。
先ほどの空飛ぶ物に偵察をさせ、そして視界を共有していたと言うところか。
魔力もないのに、よくここまでができる」
「エリアテ様、貴方様がエルフと言う人に似た人ではない物であるように、
この身は、機械と肉と、その他諸々混ぜられて、我らの世界の戦闘艦艇の名と、不釣り合いな女の様な身体を持った人ではない存在です」
事実、こう話しているアークロイヤルさんは、これまでスクアが上空を飛行していた映像を脳内で高速再生と並列情報整理を行っております。
「…………夕立様、悪い知らせがございます。
単刀直入に言って、予測が外れました」
「え?」
「提督にもご報告を。
フリートレスの
12隻のフリートレスを確認」
…………
「12隻!?!!!」
12!?!?
ここに、私とアークロイヤルさんもいるのに!?
他に12!?!
「てことは、この世界に14隻のフリートレスが!?
建造の数と合わない!!」
「ええ、ありえませんね。
それも、ありえない艦の着任を確認しております」
「言ってた話と違うじゃん!
あと、これから食費どうしよう!?!」
「それは禁術の代償と思い諦めろ!
それよりどう言う事だ!?話と違うぞ!!」
「………………アークロイヤルさん、報告は明瞭に。
ありえない艦とは何ですか?」
「それは……」
「───ひょっとして、あそこに飛んでいるものと関係はあるかね?」
ふと、この部屋に空いた大穴の外を見ていた陛下が呟きます。
「え?」
「……ふむ、ここは眺めがいいじゃないか。
こんな大穴が開くまで、ずっと本棚で埋もれていて気付かなかったな。
おかげで、あんな発見もできる」
ブゥーン、とエンジンの音を響かせて、
空飛ぶ緑の塗装。スクアとは違う形の、レシプロ機型ドローン。
翼の日の丸。陽元機の証。
「───ゼロだ」
私にとっては、頼もしい名前。
「ゼロ?」
「『
ゼロ……かつての名機、その名を受け継いだ傑作ドローンですよ」
ピピピ、と音を立てて、フリートライザーが鳴ります。
無線だ。チャンネル合わせ。
『───ぇーっと、聞こえますかー?誰か応答をお願いします〜……えっと、あっそうだった……
『ワレアオバ、ワレアオバ』……って、私『青葉』さんじゃないし……』
───え?
知り合い、の声だ……!!
「……聞こえますか?『ワレアオバ』、友軍識別音声コード、『ワレアオバ』。
こちら夕立。
久しぶりですね、
『うぇ!?!?』
無線機越しに、いつもの素っ頓狂な声が聞こえた。
『……夕立、さん?
……もう、違いますって……
私は、もう橿原珠乃じゃないんです。
今の私は、』
いつもの冗談の会話、大体テンプレのやり取り。
それが懐かしい。お互いに多分そう感じているはず。
「誰?」
「この方は、変わったフリートレスと言いますか、
元は人間の方でした。
橿原珠乃さん。でも今は、」
『今は、
「お久しぶり。異世界へようこそ、隼鷹さん」
***
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