第2話 : こんな美味しいのがフィッシュアンドチップスな訳がない







「フン!ハッ!!オラよッ!!!」






 日も上る前から元気な異世界の少年騎士くんの素振りをバックBGMに、


 さて始まりました、夕立クッキングのお時間です。



「さて、今日はこの異世界アメリカナマズと悪魔みたいな顔の形したお芋でフィッシュアンドチップスを作ります」


「おぉ、まさかのヴィクトリア料理ですか‪……‬?」


「じゃあまずは、不安そうな顔であれですけどアークロイヤルさんは流石にお芋の芽と、この顔の部分だけはくり抜けますか?」


「やってみましょう。切るぐらいはできねば恥というものですから」


「じゃあ私は、異世界アメリカナマズを捌きますんで」



 釣ったアメリカナマズ異世界産へ、まず沸かしたアッチアチのお湯をかけておきます。

 こうする事で、表面の『ヌメり』が硬化して、簡単にこのナイフの裏でこそいで落とせる様になります。


 こうしておくとこのええ感じの石でできたまな板の上でも捌きやすいです。滑らないので


 腹を掻っ捌いて、内臓を取り出します。

 ちなみに包丁の代わりに、フリートレス用武装の艦首バウブレードを使いってまーす。慣れてる大型ナイフ型近接武装は、D.E.E.P.のカスどももアメナマも捌きやすいです。


 内臓を取り出したら、アメナマの背中のヒレの下に骨まで切れ込みを入れます。

 そのままお腹側まで切れ込みを、左右に入れて、

 そして胸びれの下側にも切れ込みにつながる様ナイフを入れます。

 ちょうどこの切れ込みの位置が背骨の関節なので素手でストンと頭を落とせます。


 お前のパワーだからだろ?

 あなた捌いて確かめてやりますか??


 では3枚おろし。フリートレスの武器だけあってスルスル骨から切り落とせる〜。


 そして、皮側にブレードを入れて、皮も落とします。

 最後にちょっと勿体無いですが3枚におろした切り身の、頭側だった方の方を少し切ります。


 どうしても前の方は臭いんですよね‪……‬

 それでも、70cm台のアメナマは充分な身の量です。



 これを10匹分処理!


「あー、このナマズやっぱくっせーですわ」


「‪……‬なんでそんな不気味な魚朝から切ってるの‪……‬?」


 と、小さなあくびと共に、ピンクの髪の小さい影が。

 我らが可愛い身長に提督、フォロン提督がお目覚めです。


「あ、おはようございます提督。

 今、切り身出来終わったら、くっさいのはどっか埋めときますからご安心を」


「‪……‬というか、そのクッサいやつ‪……‬ネコヒゲじゃん。

 釣りしてたの?もっと見た目のいい魚いなかったの?他にいるじゃんそのまま焼けるの‪……‬」



「やっぱ『外道』なんですか、このアメリカナマズっぽいの。前の世界でも同じか‪……‬勿体無い!」


「夕立様、お芋が剥き終わりました。

 少々不細工になりましたが‪……‬」



 と、まだちゃんと原型に近い大きさの悪魔みたいなツラだった剥かれた芋達を見せてくれるアークロイヤルさんです。



「‪……‬誰この娼婦みたいなメイド??」


「ああ、こちら北半球なメイドさんはアークロイヤルさん。

 私と同じフリートレスです。ただちょっと別の戦場にいた方なので、私も初見です」


「おはようございます。あなた様が提督であらせられるフォロン様ですね?

 わたくし、確かに娼婦みたいな衣装のメイドにして空母、アークロイヤルと申します、以後お見知り置きを」


「‪……‬どういうこと?」


「そこらへんも含めて、飯作って食べながら話しません?

 後、提督の秘蔵の『薬草』、借りたいんですが」


「‪……‬まぁ確かにそっちが先かな‪……‬いいよ、炉の近くにあるから使っちゃって」


 フォロン提督の指差す先、今油を温めている炉の薪を焚べる穴の近くに、それは皿に乗せて置いてありました。


 黒い燻された実‪……なんと、『スパイスの王様』たるコショウです!


「まさかコショウが手に入るとは」


「そういえば遠くの国だとめっちゃ高価なんだっけ?

 うちも味がいいの栽培してるらしいけど、割るとそこらへんに生えてるよ。

 塩の方が高いぐらい」


 そう言って、提督は大体4センチ直径のピンクみがかった石を渡してきました。


 岩塩です。


 じゃあ、早速切り身にお胡椒を。

 そして岩塩は、おろし金みたいなのでゴリゴリ削って同じく切り身に。



「‪……‬んぁ‪……‬なんだ朝かぁ‪……‬」



 ふと、提督のご家族の一人、さっきのマルコさんのお兄さんに当たるお方が起き出しました。


「おはよ、アル。バルカちゃんの卵一個いい?」


「おはよフォロンねぇ

 ソイツはバルカちゃんの機嫌次第だわな‪……‬」


 ピュイ、とアルさんという弟さんが口笛を吹くと、草陰から顔を出す生き物が1匹。


 それは、横から見ると例えると毛のないインコの顔です。

 ところが、振り向いて真正面から見た顔は、恐竜。


 トリケラトプスから角を全部無くして、フリルが無くなったみたいな顔です。


 その生き物は、草葉から2速歩行でアルさんのところまでやってきました。

 体長は約1.6m。結構大きい恐竜の様な何かです。


「よし良い子だなバルカ。

 お‪……‬出る?出るか‪……‬出た!」



 なんと、急にしゃがんだかと思えば、ニワトリの様にポン、と卵を出しました。



「出たぜ!

 夕立ねーさん、朝の産みたて新鮮コカトリスの卵でごぜーますぜ?」


「ありがとうございます〜、名ブロウラーですね?」


「へへ!ぶろうらー、が何かは知らねぇけど、名ってつくのは良い気分だぜ」


「ついでなんですけど、ちょっとバルカちゃんのお餌を分けてもらっても?」


「え?これぇ?」


 この、恐竜みたいなモンスター、コカトリスのバルカちゃんの餌。そこら辺の草ではないもう一つ。


 クソ硬いパン。味はそれなりでもクソ硬すぎてただ同然の値段で買えるパン。それを粉々にしてバルカちゃんに与えてます。


 そんな本来のものより1/3サイズのクソ硬いパンを、気合いで素手で砕いて粉にします。


「おぉ‪……‬豪快っすね?」


「馬鹿力」


「私の本気は、4万5千馬力です」



 もらった卵を割って、中身をお皿に。


 そこら辺で拾ったごっつええ感じの棒二本を箸代わりにしてよく混ぜて、


 切り身を混ぜた卵に潜らせて、砕いたパンの粉を付ける。


 おっと、薪もくべておこう。


 よし、炉で温めていた油がいい温度!


 油へ入れた、アメナマの衣付きのヤツはジュワァといい音を出します。


 この家族の食卓を支えた少し黒い油ですが、この分なら美味しく上がるでしょう。


 さて、もうすこし揚げられそうですね。

 数いるなら遠慮なく!三切れ同時上げじゃい!


「夕立様、差し出がましい様ですが、お芋を切らせていただきました」


「おぉ!ナイス‪……‬揚げちゃえ!!」


 この温度ならいけるでしょ!アゲアゲで芋も揚げますよー!



「んぁ‪……‬?」


「むにゅ‪……‬?」


 と、ぱちぱち揚げている音で、もう二人のご兄妹がお目覚めです。


「ヨナ、ネーナ、おはよう」


「おあよ姉ちゃん‪……‬なんかえっちな人増えた?」


「あー!なんかネコヒゲの頭がいっぱい!」


「これ揚げてるらしいんだよ。

 まぁ、いつかの塩なし悪魔イモスープよりは美味しいさ」


「ふふ、塩なし悪魔イモスープ程度と比べられてはかわいそうですね」



 この表現は元の世界の動画で、辺な被り物の料理系YouTuberが言った言葉ですけど、


 柴犬の色になったら、完成!


 後は‪……‬ま、この木の皿代わりのヤツの上で油きっとけばいいでしょ!



 ナマズと芋のフライ。

 まさに、フィッシュ&チップス。


「‪……‬料理になってる‪……‬!?」


「うぉぉぉ、美味そぉ〜!!」


「あ、まだ暑すぎるんでもう少し待ってくださいね?」


 まだ大量に切り身も芋もありますしね‪……‬


 あ、だーめだ、子供ちゃんがもはや我先にですわ。

 仕方ないので、私のパワーで岩塩からできた塩をかけて召し上がれ。



 サクッ


「‪……‬熱いけど、美味しい〜!

 美味しいよ姉ちゃん兄ちゃん!!」


「マジか!俺にも分けてくれ‪!」


「ネーナ、僕一緒に寝てあげただろ?」


「ズルしてばっかか!

 お姉ちゃん優先だぞ?」



「取り合いしなくても、私達が腹一杯になっても皆さんの分は確保してありますから安心してくださいね?」



 しっかし、つまり味は元の世界のアメナマと同じってわけですか。




 アメリカナマズ。

 正式名称「チャネルキャットフィッシュ」


 大飯ぐらいのデカいナマズで、陽元では生態系を破壊する厄介な外来種。



 ところがコイツは、身が美味い!


 淡白な白身魚であり揚げて食べる時その真価を発揮するとんでもない美味い魚なのです。


 見た目は不気味ですけど‪……‬



 塩をかけて、出来立てのアメナマのフライに噛みつきます。

 パン粉はクソ硬い家畜の餌、卵は謎の生き物の卵、揚げ油も新鮮ではないですし、そしてあの不気味な面の異世界にまでいたアメリカナマズ。



 それがこの美味さか‪……‬


 いや、元の世界で趣味で釣ったアメナマのフライより、ずっと美味しいんじゃないですかこれ?


 塩だけでこの美味さ‪……‬!!


「クッ‪……‬!」


 一人、幸せな空間で私は苦しみの声をあげます。


 何故って?美味いからですよ異世界アメリカナマズが。

 美味いから、苦しむんですよ。

 だって‪……‬だって‪……‬!!



(誰か、マヨネーズをください‪……‬ッ!!

 タルタルソース、中濃ソース、そんな贅沢言わないから‪……‬!!!


 塩だけじゃ、美味しいけど物足りないんだよぉぉぉぉぉぉ‪……‬ッッ!!!)



 あるよ。美味しいアメリカナマズ異世界にあるよ。

 ないよ。ソースなんて無いよ。


 そんな気持ちで、悪魔イモって名前の文字通り悪魔みたいな顔だったお芋のフライも食べるのです。



 悪魔的美味さか?

 揚げた芋は美味いはたとえ異世界超えても真理か‪……‬




『違うだろ?』



 その時、私は背後にかつて沈んだ仲間の‪……‬

 それも、同盟国ステイツの仲間の亡霊の気配と声を聞きました。



『夕立ィ‪……‬気づいてるよなァ‪……‬足りないだろぉ‪……‬?』


「やめて亡霊ダコタさん」


『ヘイ、陽元は健康志向だなぁ‪……‬?

 でもぉ、なぁんか足りねぇよなぁ〜??』


「言わないで亡霊のラフィーさん、それ言ったら‪……‬!」


『欲しいよねぇ〜?アレが欲しいよねぇぇぇ??』


「やめてください亡霊アトランタさん!!

 アレは無い!!無いんだ!!!」



 頭を抱えて目を瞑ります。

 ‪……‬ふっと気配が消えて、目を開けました。




ケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップケチャップ



 亡霊たちが、あの赤い悪魔的調味料を持って、笑いながら私の周りをぐるぐる回っています!


 思わず口から漏れる声にならない悲鳴、涙と同じぐらい出るよだれ。


 ただただ恐怖と、絶望と、物足りなさ。


 そんな物、考えてはいけないはずなのに、

 これだけで美味しいのに‪……‬!!






「うぅ‪……‬ケチャップくれ‪……‬!」


「さっきから悶絶しているけど大丈夫?」


 フォロン提督に心配されるほど、内心ケチャップを求めていました。

 芋があるなら、同じ植物の仲間のトマトがこの世界にあることを祈りたいです‪……‬


 もしもステイツ艦が今ここにいたなら、秒で頭を撃ち抜くでしょうし。


 そしてケチャップを求める怨霊になる‪……‬絶対なる‪……‬!!


「‪……‬うぅっ!」


 と、突然アークロイヤルさんが顔を押さえてそんな悶絶した声を出します。


「どうしました?」


「美味しすぎて‪……‬」


「美味しすぎて?」


「美味しすぎて、もはやこれはフィッシュ&チップスではありません‪……‬!!


 あの黒焦げで油ベタベタの味からはかけ離れたサクサクしっとり、お芋もホクホク‪……‬陽元語の擬音を舌と心で理解できました‪……‬!!


 でもこれは間違いなくヴィクトリア料理ではありません‪……‬だからもう感動してしまって‪……‬!!」



「良かったー。ヴィクトリア料理では無いって最高の褒め言葉ですわー」


「ヴィクトリア料理っていうのが、私達が普段マジで金がない時に食べてるやばい料理がデフォルトなのはよく分かった」


「あ!てめーら俺が素振りしてる間に!!!

 なんかするいぞ食わせろ!!」



 さて、感想タイム終了。全部揚げ終わりましたしね。


 後はサクサク、ホクホクご飯タイム。


 米はないけどご飯タイム。米くいてー、の気持ちまで出てきちゃった‪……‬早くも舌と胃袋がホームシックですか。



「‪……‬にしてもよく食うな、アンタら‪……‬」



 と、アル氏が言う視線の先の私は4切れ目、アークロイヤルさんは7切れ目です。



「‪……‬消費カロリーデカくてごめんなさい」


「寿命とか魂とか貰わない代わりに食費が代償、か。

 禁術魔法ってなんで禁術なのか分かった気がする」


「ねーちゃん、罰金とかはねーよな?禁術ってなんか法律に禁止とかあんのか?」


「安心しろよアル。俺もひっとらえる側だから知ってるけどよ、そういう悪さした魔導士はその場で打ち首だぜ?

 首繋がってるってことは、まだ平気ってことよ」


「安心できるかボケ!てか兄貴にタメ口かマルコこの野郎?」


「あ?1歳違いで偉そうにしてんじゃねぇぞクソアル??」


「辞めなよバカ弟ども。

 そんなこと言ったらお姉ちゃん2歳か1歳違いでしょ?」



 おやおや、微笑ましい兄弟喧嘩で。



「‪……‬魔法という単語がこんな自然に出るとは。

 本当にここはファンタジー小説の世界なのですか」


「なんならそこにヒュドラいるよ」


「おう、ヒュドラいるぞ。でもコイツ他の国では珍獣らしいな」


 なおヒュドラ君は提督の一家の周りをグルンと囲んで人の体温でぬくぬくしてます。


「‪……‬なかなか、癖が強い子で」


「世界一息が臭い家族さ」


 わお、ヴィクトリア人的言い回しに良い返しですよ提督。


「それより、なんでこのアークロイヤルって子が増えてるの?」


「‪……‬そうですね、話さないといけないことですねこれは‪……‬」



 さて、アメリカナマズ君に貰った力を、嫌な現実と推理をするため使いますか。



「‪……‬提督、昨日アドミライザーの登録を行った際、中の文はいくつか読んだはずですが‪……‬

 一部その場では意味がない内容があったはずですね?」


「‪……‬覚えてる範囲だけど、会った気はする」


「‪……‬‪……‬実は、フォロン提督が『新任提督』として『着任』という形になったことが、ここにアークロイヤルさんがいる理由になっているんです」


「‪……‬っていうと?」


「まず、我々フリートレスは人工生命体です。

 人の手によって作られた命であり、基本は『量産品』であったりします」






 説明しましょう。


 フリートレスは、海上から現れる未知の敵「D.E.E.P.」に対抗すべく作られた人工生命体です。


 その名に、歴史上1番激しい海上戦闘のあった第2次世界大戦辺りの軍艦の名前と似せた武装を装備して戦う存在なのは少々おかしな話ですけど、


 重要なのは、ある程度量産‪……‬言い換えればコピーができます。


 私自身、「どこそこの夕立」が6か7人いたこともあります。


 ただ、それら夕立の記憶も持っていたりします。

 脳みそにコンピュータ仕込んである生き物なので、作られるたびに経験と記憶を大体コピーされてたりするんですよね。



 おっと、そこは重要じゃ無いですね。


 重要なのは提督と呼ばれる私たちの指揮官となる偉い役職が着任した場合の人事、というよりフリートレスの編成の時です。


 量産品型とはいえ敵と戦って轟沈もあり得る私たちですが、特に『着任最初の秘書艦』と呼ばれる存在は実は割り当てられるフリートレスが歩い程度決まっていたりします。


 なんでかって?

 戦闘も事務作業も出来るし、何より戦闘で主力になるフリートレスはそういう業務はさせたく無いのです。


 なので、大抵の提督着任時に秘書艦となるのは、数も多くて戦闘も多少できるがゆえにそう言った知識もある、そこそこ経験値がある駆逐艦装少女デストロイフリートレスが選ばれます。



 私も所属する白露型駆逐艦装少女デストロイフリートレスは、そういう意味ではそこそこ後方作戦向けで、良く秘書艦やってるんですよね。


 他にも陽元だと、性格がいいことで有名な特型駆逐艦装少女デストロイフリートレスの『吹雪』さんとか、同盟国ステイツですと、本人が科学実験大好きで科学者の資格もある大変頭のいいキャノン級の『エルドリッジ』さんなどが秘書艦を務めてます。



 さて、秘書艦として私なんかが着任した後が問題です。


 ‪……‬いえ、実はもうすでにとある問題が見え隠れしています。





「提督、今から言うことは我々も頭を悩ませている問題なんです。

 今私達は、こう、言い方があれですけど‪……‬そこら辺の剣みたいに人の手で量産できると言いましたね?」



「‪……‬長いけどそこは言ったの覚えてるよ。

 そこに何の問題が?」



「実は量産方法がランダムなんですよ」







 ‪……‬‪……‬‪……‬‪……‬‪……‬‪……‬






「は?」



「そうなりますよね。

 詳しい理屈は省きますが、実は‪……‬

 フリートレスの、私で言う夕立って名前の最初の一体は、普通に狙って作れました。

 ところが、そのフリートレスの量産に今使われている方法は、おそらく量産方法としては極めて短時間で出来るのですが‪……‬」



「‪……‬ランダム、ってつまり無作為とか、運任せって意味だよね?微妙に訛りある言語だけどそこは、」


「間違ってません。


 実は、秘書艦の最初の建造も‪……‬

 あれも誰が最初の一隻になるかは選べないんです。


 私は、提督が『召喚した』建造用のあの機械が全くのランダムによって排出された最初の秘書艦と言うわけです」



 えぇ、と言う顔。

 私もそう思いますよ。えぇ、そこランダムでいいの?



「そして、先ほど新任提督の艦隊編成の話になりますが、私たちも割と油断するとスナック感覚で轟沈するクソ敵と戦ってたので、提督の得意とする作戦に合うフリートレスが、轟沈やら何やらしている場合がありましてね‪……‬まぁ、私達の勝利の前は、もうマジの地獄であの世とこの世を行ったり来たりしてましたが‪……‬そこは置いておいて、


 と言うわけで、戦力が割と枯渇気味だった結果、


 新任提督には10回だけこのランダムの建造をする義務が生まれていたんです」




 ───フォロン提督は、小さい身体でこんな貧乏な生活をする幸薄少女ですが、凄腕の魔法使いで頭が良いのです。



 この長ったらしいけど必要な前提から生まれる、

 やばい事実にすぐ気づいた表情を見せました。



「じゃあもしかして、私10人は夕立の仲間をこの世界に!?」


「私含め、最悪11隻この剣と魔法のファンタジー世界にはフリートレスがいます」


「そして、このわたくしアークロイヤルはその内の一隻にございます」



 顔色の悪い提督。なんとなくヤバい事を察するご家族。


 言うべきか迷ったのですが、迷う理由そのものの反応を見て私は頭を抱えます。




「今日、私この国の王様でもある学園長と面談なんだけど。

 学園長より怖い、副学園長ともね。


 これ、隠したら罪増えるよね?」


「何が罪というかは分かりませんけど、喋らないともっと怒られる案件です」


「ね、ねーちゃん!!

 一応遺産の話しとこうぜ!!」


「任せろよフォロンねぇ!!弟達は俺がなんとか養う!!」


「姉ちゃん、どんまい」


「おねーちゃん死んじゃうのー?」




「ああああああ!今になってあのアホ姫を恨んできた!!

 いや私のせいか!?いやさぁ、分かるわけねぇじゃん!!禁術の怖さ初めて知った!!!」




「ぶっちゃけ、野良のフリートレスが今少なくとも9隻いるっていうのは怖すぎますからね。


 駆逐艦や理性的な空母ならまだ良いですけど、血の気の多い軽巡洋艦、そこに加えて火力も高い重巡洋艦に、フリートレスでもフィジカルエリートで血の気も多めな戦艦だったらもう‪……‬」



「いやさぁ!!9隻だよね!?

 全部当てちゃったらもっとヤバいし、道端で金貨拾うはずの運ここで使ったら、その「センカン」っていうヤツ全部だったらマズイじゃん!!!


 一瞬で昨日学園大暴れの怪我人続出させたお姫様の上をいく戦犯じゃん!?


 ぐわぁぁ‪……‬よく読めばよかった‪……‬!」



「いや本当、なんかごめんなさいというか」


 ふと、頭を下げた私に、妙な視線を向ける提督。


「‪……‬‪……‬夕立、私に頭下げるのは別に良いよ」


「え?」


「夕立。そしてアークロイヤルだっけ?

 もう仕方ないから洗いざらい言うのは決定だから、うん私の契約した召喚‪……‬獣では無いけどまぁ、召喚フリートレスとして、これだけは頼みたいの」



 頼みたい。

 そう真剣に言われたら、たとえどの陣営のフリートレスでも頷くでしょう。


「何をですか?」


「提督のご命令とあらば」



「‪……‬‪……‬‪……‬


 情けないぐらい一緒に頭下げてくれない?

 せめて‪……‬私の首だけで済むぐらいにはしたいし」




 !



「任せてくださいよ提督!

 私は白露型4番艦夕立ですよ!?

 単艦突撃やらかしまくって、始末書と土下座は大得意です!!」



「このアークロイヤルにはプライドがあります。

 提督の命懸けのメンツを何が何でも守るのが、メイドとしてのプライドです。

 喜んで最上級の、陽元式の土下座をさせていただきます!」




 よし!


 とりあえず今日は、全力で謝らないと!!





           ***

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