第4話 : トドメの必殺技《カットイン》






 異世界に着任した駆逐艦装少女デストロイフリートレス、夕立の提督となったお方、


 フォロン氏は、ピンクの髪と可愛らしい顔と身長の女の子ですが、とんでも無い方でした。



「夕立、確か水の上が得意なんだよね?」


「へ?」


「『目覚めろ地の底の水よ。我が願いにより噴き出せ』!」



 地面に振るった魔法の杖から光が溢れたかと思った瞬間、この足元の地面のタイルの隙間がジワリ、と染み出してきた水が一気に足元から吹き出します。



「井戸掘り魔法!?田舎必須の魔法じゃ無い!!」


「一応は属性魔法だけど、吹き出すのは本物。

 魔法無効マジックキャンセルは出来ない」


「だからどうした!!

 足元が水なぐらいで!『飛翔』!」



 クッソ短い詠唱で、お姫様の足元に魔法陣が出て空を飛びました。ついでに彼女の相方こと青肌悪魔のアスモロッテさんは最初から飛んでます。


 すげー、魔法バトルっぽいー!





「わー!流されるー!」


「にゃー!!」「捕待ってください!!」



 あ、提督のお仲間さんが‪……‬ごめんなさい、頑張って耐えてくださいね??





「足元が水ぐらい、か」


「ちょっとマスター忘れたのアンタ!?

 魔法の基礎!!」


「魔法の‪……‬あ!」


「『穿て幻の水竜。虚像にして実体なる大いなる水の流れよ』」



 ドバン!!

 水が爆ぜました。


 と言うより水が竜巻を作って巻き上がり、詠唱した言葉通り水のドラゴンみたいに口を開けて相手へ迫ります!




「水場だし、単純計算で威力は倍だ!!」



 そういう理屈ですか!?



「っ、マスター合わせて!!

 『防げ登る滝の』!」


「『ごとき壁よ』!!」



 ドパン!と向こう側もまるで上下逆に落ちる滝みたいな流れのでっかい防壁で守りました。


 対応早いな。



「マスターちゃん、やばいわ本当。

 向こうも天才すぎるじゃない?」


「当たり前。だって‪……‬『水蛇よ行け』『飛べ凍てつく鳥よ』!!」



 瞬間、提督の方角へ細く長い蛇みたいな水が高速でやってきて、遅れて飛んできた氷の翼の小鳥がそれに続いてやってきます。



「『防げ登る滝の如き壁よ』!」



 対して、お姫様と同じ魔法で水の壁を‪……‬小さいけど3つぐらい間を置いて水の滝を作ってそれを防ぐ提督でした。


 水の蛇は2つぐらい壁を破って、あの氷の鳥は3つ目でようやく止まって、壁を3つとも凍らせます。



 魔法バトル‪……‬すごくね???ってなる光景ですよこれは!



「‪……‬‪……‬センスが良すぎるじゃないの!?

 嫉妬するわよそりゃこんな相手!!

 魔界で鍛えてた私でもそうだもん!!」



「‪……‬うふふ‪……‬!

 ようやく、本気のお前が見れた。

 はじめてだもの。恐らく私が知る以上、同年代でお前だけが底が見えなかった‪……‬!

 ようやく、底の深さが見える程度まで来れた‪……‬正直嬉しい」


「そりゃどうも。改めて聞くけどなんでさ?

 私が本気じゃないと何が気に入らないの?

 ドーリナ姫さ、あんた絶対貧民の私より天才で努力の方向音痴なだけの努力家だし、家だって太いし何もかも持ってるのに」


「持ってない。お前ほどの才能なんて、持ってない。

 それがようやく確信できたの」



 盛り上がってきましたね。口挟むのも失礼なぐらい。



「理由なんて、いくらだってあるし何も無い。

 それに一番の理由は言ったはず!


 『噛み砕け凍てつく牙』!!!」



 おっと、口を挟まなかったら、提督の足元に氷の牙が生えた!!



「お前に負けたく無い!!!」



「───誰か忘れてません?」



 私、生憎黙って見てるほど無能ではないので。

 ドン!と12.7cm砲の一撃で氷の牙を細かく粉砕し‪……‬


 あー!?!提督が普通の人間なの忘れてたぁー!?!



「夕立‪……‬覚えてろよ!?」


 提督の言葉と振り上げた魔法の杖。

 瞬間、砕けた氷のカケラたちが提督の周りをぐるぐる渦巻きます。


 提督がすごい魔法使いなの忘れてましたわ‪……‬!



「『氷牙よ舞え。そして我が願う先に吹雪の牙を』!」


「うわ!!

 『分解せよ、燃素、爆素』!!

 マスターちゃん、火!!」


「『渦巻け業火よ、我が身を守れ』!」



 あ、さっき見た水を魔法で電気分解するヤーツ!

 後それで炎魔法の威力あげたってやつ!!


 すごい爆発するような勢いの炎の壁が、お姫様に降り注ぐ提督の攻撃を防ぎます!


「流石よね!!私にも魔界の優秀な悪魔が来てくれなかったら負けてたわ!!!」



「また嫌われたねお姫様!!

 うざったいだろ、平民どころか貧民街の娼婦の娘の私なんかさ!!」



「嫌いですって!?

 私と同じで、まともな召喚魔法も出来なかったお前に!!

 それ以外の魔法の技量で手抜きまでされて勝たされて、惨めに感じたからこそ‪!!


 はっきり言ってやる!!!私は‪……‬!」



 魔法の杖を構えるお姫様に、一歩遅れて提督が構える。



「『穿て水の槍、雨の針よ』!」


「『守れ氷の崖』!」



 それは、レーザービームみたいな勢いで射出された水の攻撃でした。


 咄嗟に貼った提督の氷の壁が、3枚ほど畳みたいに競り上がった物がほぼ貫通して、可愛い顔に少し傷がつく威力の。



「提督!!」


「平気!!

 上級魔法は驚いたけど!!!」


「っ、そうでしょうね。そうだろうとも!

 防げると、思ってしまったもの!!!


 フォロン!!お前にはそのぐらいできる実力があった!!


 イラつくのも当たり前だ!!!


 私は‪……‬‪……‬私は、お前に!!




 私は、お前に憧れたんだッ!!」




 お姫様に突撃とつるか、って思った時に叫んだその声に、足が止まる。


 気がつけば、横にアスモロッテさんがいて、私の肩に手を置いて、振り向いた先で「ごめん」のジェスチャーで少し待って欲しそうな視線を送ってます。


 ‪……‬たしかに、ここは提督とお姫様の時間ですね。



「私なんかに?」


「私なんかって言うな!!

 本当は強かったじゃないか!!!本当は私なんかより一歩先にいるじゃないか!!!


 イラつく‪……‬イラつくほど才能があった!!

 お前は、お前が他の貴族のアホどもに毎回嫌がらせされてるのを!ただ家柄がない奴がでしゃばってるせいでって思っているだろう!?


 そんな単純な物じゃない!!

 お前にとっては、お前の目的のためにヘラヘラ頭を下げているだけの行動が!!!


 その実力のせいで、喉元を抑えられそうだと怖がっているからなんだ!!!


 お前は強い!!!魔導士の才能がある!!

 召喚術なんてオマケだ‪……‬むしろ召喚術が使えていたら、私は今頃首を吊ってる!!!!


 ‪……‬なんで、そんなすごいお前自身が‪……‬!!


 一番お前のこと過小評価しているんだ‪……‬!?」



 ‪……‬‪……‬わーお。厄介ファンでしたか、お姫様は。



 いやね、私もフォロン提督とあって数十分ですよ。

 それでもわかる。



 この人すっごい魔法使いだ。


 間違いない‪……‬ね、そこの提督のご友人方、そう思うでしょ?

 なんて視線に、3人‪……‬二人と1匹は頷きます。




「‪……‬‪……‬だったら、そんな才能要らないね」



 って、そこまで聞いて何言ってんですか提督ぅ!!?



「なんだと!?」


「‪……‬私は、ただ自分の兄弟姉妹が暮らせる家と土地が欲しいだけさ。

 男爵ぐらいの貴族になりたいのも、少なくとも貴族が考える貧乏の中にはいたいってだけ。


 魔法の才能には助けられてるけど、けど‪……‬

 面倒を起こしたいわけじゃなかった。

 そこそこの地位にいれるような才能があればいいし、そもそも私の魔法専攻は魔法農学だし。


 悪目立ちして、誰も彼もから敵にされるような才能なら要らない。

 それは本心さ」



「‪……‬」



「‪……‬ただね、お姫様?」


 提督は、一呼吸置いてから‪……‬言い放ちました。



「アンタマジで面倒くさくて、嫌い。

 人の迷惑考えずに、目的のために色々巻き込むとかさ‪……‬甘ったれてんじゃねーよバカ姫!!!


 だから、長い間そう言うのは抑えてたけど、路地裏育ちには限界だね。


 ぶちのめす。


 アンタに貸し作って将来ヤバい時返してもらうから」






 シンプルな、力強い答えでした。

 ‪……‬一瞬キョトンとした顔したお姫様は、提督の言葉を理解したと同時に、初めて笑いました。



「‪……‬ふふふ‪……‬ここまで、育ちが悪い事言われるだなんて‪……‬!」


「何がおかしいのさ。目の前にいるのは、魔法の才能だけあるけど、貧民窟の娼婦の娘で7人兄弟姉妹の長女だけど?


 育ちが悪くて当たり前。


 言ってしまえば、目の前のお姫様はそんなヤカラに対して自分からぶつかってきて絡んでる哀れな世間知らずのお姫様って事。


 身包み剥がされたほうがマシな事にしてやるって言ってんの」



「‪……‬ごめんなさいね。先に謝っておくから。

 我が家は、代々そういう絡まれ方されたら丁寧にお返しする家系なの。


 ウフフ‪……‬文句は言わないでしょうね?

 まぁ、こちらが絡んできたのだから、余計に丁寧に対応してあげないと、ねぇ?」




 す、とお互いが口元だけ笑って、剣呑な目で睨み合いながら杖を構えます。



 差し詰め、ステイツ西部開拓時代の荒野の決闘。


 早撃ち勝負‪……‬魔法の詠唱を早く唱えて杖を先に振った方が勝ち。



 シンプルで、極めて早く決着が付く勝負。





《───今です、夕立》



 でもフォロン提督は、育ちが悪いと自ら言うお方。


 左手に持っているアドミライザーを異世界のお人ながらもう使いこなし、大淀を通して私に暗号無線で指示をこまめに出しているんです。





 荒野の早撃ち?


 はじめっからそんなことするつもりねーんですよ。




 今からやることと同時に、背中のサブアーム兼装甲で隣のアスモロッテ氏を殴り、



 そして卑怯とは言うまいな12.7cm砲を喰らえ!!!



 ズドン!!



「───『闇の影脚』、ぶべっ!?」


「へ?アバッ!?!」



 発射と同時に、隣からなんか黒い闇で出来た脚が、まず私に真下から顎にクリーンヒット。


 うっすら意識が遠のく中、ついでにフォロン提督に同じ物が真横から放たれて、


 ああ、ここまで書いて理解しました。

 なんとか歯を食いしばって、なんとか思考を戻しながら、理解しましたとも。



 あの育ちの悪い陰険姫、

 おんなじ事考えてやがった!!!




「っ、てんめぇっ!!!

 クソ姫ぇ、アンタ最初っから撃ち合う気なかったなぁっ!?!」



「どの口が貧民街のチンピラ娘が!!!

 卑怯など、負けた方の言い訳という言葉を知らないの!?!」



 多分、普段押さえてる口の悪さを発揮するお二人。


 あー、クソ、背中から落ちるわけにはなぁ‪……‬




 ところで知ってます?


 私の方の魚雷発射管、こんな背中地面に向けた姿勢でも撃てるんですよ。


 ボンッ!バシュゥゥゥゥ!!!



「!?!」



 酸素魚雷は、提督が水浸しにしてくれた地面のおかげでようやく私のマジで無理をした時の瞬間最高速度と同じ速さで進めるようになりました。


 40ノット、時速で言えば74km/hの進んでくる爆弾だ!!




「小癪な!!

 『飛べ雷鳥の矢よ』!!」


「私も忘れないでよね!!

 『飛べ雷鳥の矢よ』!!」



 お姫様と提督の杖から同時に放たれる、電みたいな翼の鳥のような物。


 まるでミサイルだ。

 比喩でもなんでもなく、酸素魚雷より速い速度で魚雷たちに追いついて破壊。


 しかも、提督の攻撃にも同じ技を合わせて相殺!



 このお姫様、面倒くさい性格だけど、

 提督と同じ、すごい魔法使いだ!!



「忘れてなんかなるものか!!

 でも‪‪……‬これで終わりのようね?


 アスモロッテ!!戻りなさい!!

 ここから立て直す!!」




 ‪……‬!!




「───あの、ごめんね、マスター??

 やられたわ‪……‬!!」



「何?」



 ああ、そうだった。言い忘れてましたね?



「ごめんなさいね、アスモロッテさんはしばらくは動けないし使えませんよ」



 私が直接殴ったアスモロッテさんは、今、


 殴って吹っ飛ばされた姿勢で、空中でピタリと止まっていますので。



「!?」



「何、これ‪……‬動けない‪……‬!

 動けないと言っても、なんか‪……‬!!

 この空間に、縫い付けられたみたいで‪……‬!!

 喋る、のもキツい‪……‬無詠唱魔法じゃ、この拘束は抜けない‪……‬!!」



「そんな怖い事できるんですか。

 魔法って呪文唱えるものじゃないんです、ねっ!」



 男女平等顔面パンチ。

 サブアームではなく、私の直接の拳で。


「─ッ!?!

 ッ!!!ッ!!!!」


「顔の筋肉と喉の動きを止めました。

 呼吸はさせてあげますよ、私も鬼畜じゃないんで。

 まぁでも、喋れなきゃ魔法の呪文も唱えられませんよね?」


「アスモロッテに何をしたの、貴様!?」



「覚えてますかお姫様?

 さっき私の能力説明したじゃないですか。


 『暴力認証ランペイジ・オーソライズ』。


 私がこじ開ける、認証しろと思ってこじ開けた制限ロックは全部こじ開けられるんです。


 でも、こうは思いませんか?


 こじ開けられるオーソライズできるなら、

 制限かけられるロックできるって事でしょう?」



 そう、その驚く顔が見たかった。




「名付けて『暴力制限ランペイジ・ロッキング』。

 と言っても、私もアホなんで出来るのは何かの『動き』を数十秒制限とめられる程度。


 まぁ、混戦してる時にはすっごく使えるんですよねぇ?」




「〜ッ、卑怯な能力!!」


「そりゃそうでしょ?

 私が止めるって思えば止めて、こじ開けるって思ったらこじ開ける。


 言うなれば、私がルールだ!


 そんな能力、卑怯以外なんて言えば良いか私にもわかんねぇんですよ!」


 そして、とお姫様に近づく私は拳を振り上げます。



「っ、『跳ねよ駈けよ脱兎の如く』」


 うわお、早口言葉!!

 判断も的確で、多分脚の力を強めるのか、それとも足に竜巻でも纏うのかっていう具合の魔法で跳躍ですか。




「───でも遅い」



 その足を掴むぐらいは、容易かったですけどね。



「っ!!」


「私、駆逐艦装少女デストロイフリートレスとはいえ遅い部類ですがね。

 人間の反応速度ぐらいは余裕で追いつけますよ。

 まぁ、思ったより運動神経良いようで驚きましたけど」



 パシャン、と水浸しの地面の上に、片足を空中で固定されたまま手を伸ばして倒れるお姫様。


「ぐっ‪……‬この‪……‬!」


「さて絶体絶命ですけど、どうします?」


 油断なく、まぁ撃つ気は無いですけど12.7cm連装砲を頭に突きつけます。

 いや撃つ気は無いんですよ?

 ただ‪……‬このお姫様は口さえ動かせばここからまだひと暴れできる。

 だから、用意はしないと。

 そろそろアスモロッテさんにかけた暴力制限ランペイジ・ロッキングが効力を失うので。



「‪……‬‪……‬フッ」


「‪……‬‪……‬提督、なんかお姫様笑ってるんですけど?」


「そりゃそうでしょ。これどう見ても私達、お姫様相手に跪かせて「くっ、殺せ」って言われてる三下悪党じゃん?」


「‪……‬確かに、頭に銃突きつけて『動くな』は悪党のやり口ですねぇ?」



 そろそろ向こうの片腕とかは動かせるぐらいかも。

 なんとか、降参させたいんですけど。



「‪……‬フフフ‪……‬その通り。

 追い詰められてるのはお前たちね?

 そろそろ私を救う冒険者様でも来るのかも。

 いいの?本物の悪党なら一発傷が残らないように殴るのだけど??」


「参った、って言う気は無しか。

 ドーリナ姫さぁ、アンタしつこいね。

 異世界から伝わった言葉だっけ?『往生際が悪い』ってヤツ」


「バカめ、と言ってあげる。

 参ったって言うのは────お前だフォロン!!」



 バシャン、と倒れた状態で水を片手でこちらにかけるお姫様。


 その手には魔法の杖。



「『凍れ』」



 クッソ短い上にヤバいと一言で表す言葉と同時に、私にも提督にもぶっかかっちゃった水が、一瞬で凍りつきました。



(ヤバい!!)



 水って凍ると体積が膨張する異常な物質らしいですね。

 なんでこんなこと思い出したのかと言うと、本当にガチガチに凍って動けなくなっていますので。


 フリートレスの体温じゃなかったら、中も完全に凍ってますね、これ。



 ヤバい。



「‪意趣返しには良いでしょう?

 今度は、お前が、動けない」


 片足が空中で固定されて、意外と派手なおパンツ見えてるお姫様が言い放ちます。


 いやちょっと動けてきたんですよ!!

 私が普段お腹丸出し南半球丸出しな格好してるのもフリートレスが体温高すぎるからなんですよ!!


 それでもまだ、ちょっと震える程度しか融けてない!!


 なんていうガチガチな氷!!液体窒素ぶっかけてもこうはならない!!

 魔法ってやばい!!人間でフリートレスと戦えるだなんて!!!



「もうすぐアスモロッテも動けるのでしょう?

 ほら‪……‬私の足も、ようやく‪……‬!」



 てことは、もうアスモロッテさん動けてるじゃないですか!!!


 クソ!!クソクソクソクソ!!!!


 動けこの‪……‬!!氷が思ったより硬い‪……‬!!



「ええと、名前は夕立だったか?

 まぁ良い‪……‬先に再起不能にしてあげる」



 魔法、来る!?




「ダメよマスター!!!そこのチビっ子を見て!!!

 あの天才魔導士、最初っから私らを騙してたのぉぉぉぉッ!!!」



 へ?



「────『荒ぶる火のエレメント。業火と怒りの星の精霊たるサラマンダーにお願い申し上げる。その焼き尽くす顎をひとときのみ我にお貸しいただき眼前の敵を焼き尽くすようお願い申し上げる』」




 顔が動かないんですけど、多分左のそこそこ遠い箇所から、今までとなんか経路の違う詠唱が聞こえてきました。



「え?

 フォロン!?なぜそこに!?」



「多分土人形作りゴーレムクリエイトよ!!

 そんなことより水の中に伏せて!!


 『防げ登る滝の如き壁よ』!!」



「夕立、生きてたら文句は聞くから。


 『焼き尽くすサラマンダーの顎』」




 何が起こったのか?

 会話の断片から推理すると、多分提督はすごい魔法使いなので分身で最初から近づいていて、本人は別の場所にいたのでお姫様の氷魔法に捕まらずってことですかね?


 で、物騒な魔法は、多分炎のものすごい威力の魔法ということですね。




 ボォォォォォォォォォォォォォッッ!!!





 ッッつぅぅぅうぅうううぅぅぅいぃぃぃぃいいいぃいぃいぃぃぃぃッッッッ!?!





 目の前真っ赤っか通り越して光で何も見えなァァァァァァァァいッッ!?!?!!!!





「ヤバいおチビちゃんじゃないのよ!!!

 というか、精霊界の精霊じゃ無い、この世界の在来種で上位種精霊の力借りる魔法とか禁呪でしょ普通は!?!?」



「いつのまにそんな物を!?!」



「アンタも色々図書館のヤバいところ覗いて騒動起こせる禁呪見てんでしょ!?」


「見て覚えて使えるかは別ね!!!」


「というか、喋ってて言いの?

 言っとくけど、こっちはもうトドメの用意はしたよ」



《はい。

 提督の命令を受諾しました。

 夕立の『カットイン』を承認》






「────フリートレス使いが荒い人ですね」




 炎の向こうがようやく見えてきた中、焦げ臭い空気を吸いながら手元の連装砲のとあるスイッチ‪……‬


 というか、『トゲ』に手のひらをぶつけて突き刺す。



《CUT IN》


 カットインモードへ移行する音声が流れました。


 連装砲、そして両肩の魚雷へ私の血液を、

 フリートレスの証である蛍光ブルーな血を、燃料であり武器の炸薬でもある合成化合物『フリートブルー』を通常使用時から2倍の量装填していきます。




「何を!」



 する気だって言いそうな勢いで飛び出したのは、多分ソナー情報だとアスモロッテさんの方。


 目標が自分から出てくれた。


 それいる?機能の一つのカットイン時に周囲への警告の意味らしい音楽が鳴り響く中、12.7cm連装砲のトリガーを『半分』引きますと、


 十字に割れて展開した砲身から、5発の青白い光の弾が発射。


 一発目、アスモロッテさんの喉元に直撃。

 暴力制限ランペイジ・ロッキング発動、動きと詠唱するための喉を止める。


 残り四発が、右腕、左腕、左足、右足に命中して空中に固定。



「はぁぁぁぁぁぁぁ‪……‬!!」



 ここからが1番の踏ん張りどころです。

 魚雷発射管に装填されたフリートレス用酸素魚雷が展開。


 一発でも複合装甲200ミリをぶち抜ける威力の弾頭のエネルギーを、計8つ分連装砲の前で収束。


 プラズマだかなんだかはこの際どうでも良いですが、とにかく当たったらやばそうなバチバチしてる光の球を形成。


 これだけで、体力というか動力源の私の血液をだいぶ消費しますが、まだ用意は終わりません。


 格闘用のサブアームを真下の水溜りに降ろします。

 暴力制限ランペイジ・ロッキングの力でそれを固定。


 腰のスカートアーマーのアンカーも射出して、地面に突き刺し同じく能力で固定。



 ここまでして反動に備えなきゃ、撃てない。



 そんな攻撃を今、ぶっ放す!


 狙いを定めて、トリガーを深く、押し込む!




《夕


 デストロイ ブ ラ ス ト》



 エネルギー弾が発射されます。


 同時に現れたいつ見ても冗談みたいな視界の表示と、いわゆる発射しましたっていう確認の為の音声がわざわざ大音量で鳴り響くんですよ。


 これ作った奴は、昔の漫画アニメ特撮の見過ぎです。



「グッ‪……‬!!」



 そして、反動でどう踏ん張っても10m後退するようなこの威力は、

 その見すぎたであろう漫画アニメ特撮を完璧に再現した才能の持ち主なのを無言で語っています‪……‬!




「アスモロッテ!!

 『守れ聳え立つ崖よ』!!!」



「ヤバい‪……‬『武装を禁ずる』!」




 お姫様の魔法が生み出した、10枚ぐらいある分厚い岩の壁。


 視界の端で提督の魔法で、魔法の杖が取られているのが見えます。


 もっとも、間に合ったって顔もお姫様は見せていました。



 けどね?




 ボン、ボン、ボンボンボンボン、ボッ!!!




 壁は、全てがほぼ一瞬で貫通して、エネルギー弾はアスモロッテさんを『轢き潰し』、そのまま夜空の方へ。


 進路上にあったなんかお城みたいな建物のいちばん高い場所も貫いて、夜空の雲に大穴を開けて、そして今度こそ何処かへ見えなくなっていきました。



「‪……‬‪……‬やりすぎたかなぁ‪……‬!」



 カットイン。フリートレスの切り札、つまりは『必殺技』。


 ごめんなさいね、アスモロッテさん。

 あなたの事嫌いじゃないですけど、死なせないで何とかする器用さは私に無かったので。


 いてて‪……‬カットインの反動でまだ腕がジンジンする。


 でも、黙祷を‪……‬




「─────だぁぁぁぁ!!死んだわ久々に!!」



 なんて、突然さっきまで辺り一面に散らばろうとしていたアスモロッテさんだった物に魔法陣が、

 ちょうど時計のような模様のそれの、呪文でできた長針とでもいう物がグルリと反時計回りして、あの青肌悪魔なアスモロッテさんが復活しました。

 あ、服も一緒にです。


 ‪……‬‪……‬とりあえずまた連装砲構えますかね?



「ちょ、マジやめろバカ!!

 もうマスターちゃん負けてるって!!

 流石に後2ヶ月は死ねないのよ、この魔法とっておきなの!!!」



「そりゃ悪かったですね。殺さないと流石に止められないぐらい強かったので」



「躊躇いなさすぎて怖いわ!!

 はぁ‪……‬で、あっちは話まとまったかしらね?」



 おっと、確かに上の許可なしに先頭続行は無しです。




「‪……‬‪……‬私の‪……‬負けね‪……‬!」



 チラリと視線を移すと、膝から崩れ落ちるお姫様と、静かにこの水浸しの地面を元に戻す魔法を使っているっぽい提督が見えます。


「‪……‬死ぬほど、悔しい。

 でも同じぐらい、ホッとしているの」


「‪……‬こんな騒動を起こしただけはあった?」


「ええ。私の今の実力も、あなたとの差も、分かることができた。

 ‪……‬ごめんなさい。ワガママに付き合ってもらって」


「謝る相手は私だけじゃないと思うけどね、お姫様」



 フォロン提督の小さな手が、お姫様に差し出されます。


「‪……‬‪……‬次は負けないから」


「また勝負するなら、アンタの立場も私の立場も弁えた上でどっか秘密の場所でね」


「なら次も負けないとでも?生意気なヤツ」


「一言多いんだよ、ワガママ姫」


「どっちが」


 悪態吐きつつ、その手を取って立ち上がるお姫様。

 そして、立ち上がった二人はお互いに、どこかスッキリした笑顔。





「‪ま、人死にも出そうなバカ騒動起こすような過激な子だけどさ、

 そんな子に20年寿命貰って契約したんだから、私としては後80年ぐらいは満足して生きてほしいのよ、マスターちゃんには」



 ふと、隣でのアスモロッテさんが、頭の後ろで手を組みながら手頃な木に背中を預けてそう言います。



「若いんだからさ、ライバルって思ってる子と思いっきり競ってスッキリした方が良いし、バカやるなら若いうちが良いのよ」


「おばあちゃんみたいな感想で」


「見りゃ分かるでしょ、おばあちゃんなのよ、ほら悪魔みたいな美人の顔じゃないのよ。こういう顔は長生きしてるのがテンプレってヤツでしょ?」


「だとしたら、これ言っときますけど、

 若さ故の過ちとかでウチの堅実な提督の人生設計壊しそうにならないでくださいね?」


「ハッ!概ねいい感じに進んだんだから、結果オーライってことにしときなさいな、若いの!」



 まぁ確かに若いんですけど。なんか釈然としなーい!!





 パチ、パチ、パチ



 ふと、拍手の音が聞こえてきました。

 一瞬警戒体制。誰か?





「─────本来なら、叱って頭でも叩くべきなんだろうが‪……‬

 ダメだ。私も親バカの様だ」



 その人物が現れた瞬間、その声の方向を見た提督とお姫様が表情をこわばらせました。



「ドーリナ、まったくお前もお転婆な子だな。

 ダメだぞ?我が国の無辜の民に迷惑をかけるなど。

 王族であるからには、そのようなことは恥と思いなさい。そこは勘違いしないように。


 そして、確かフォロンだったね?

 君も欲張りな子だな、まさかあの数の禁術をこっそり覚えているとは。これは図書館の封印も強化せねばいけないな‪……‬


 よし、説教は終わりだ!!



 そんなことより、君たち!!!」



 これ助けるべきですか?助けないべきですか?


 ガッチガチに固まって小刻みに震える二人の前、

 ちょっとイケオジなマントを纏う身なりがいい男性が、がしりと二人の肩をつかみました。



「良い戦いだったじゃあないか!!

 いや何より魔法の使い方が良い!!!


 正直私も自慢の娘が負けたのは悔しいが、フォロン君のあの場を水で満たす戦術は良かった!!


 しかも、ちゃんとこうやって戻せる辺り、相当練習したようだね?


 素晴らしい!!基礎ができているからこその応用だ!!」




「‪……‬が、学園長‪……‬いや『陛下』、その‪……‬」




 ‪……‬ん?『陛下』って言いました??今??





「‪……‬お父様?私の罪はいくらでも償いますから、あの‪……‬せめてちゃんと叱らないと‪……‬??」



「ん?

 おっと、これはすまないな!

 無論行かんぞ、うむうむこういう魔法を人を巻き込んで使うのは行かんぞ!

 うむ、こういう大規模な魔法を使った決闘は、もう少し目立たない場所で堂々やらないと行かんぞ二人とも!!」




「いや決闘はして良いんかーい」



 なんというか、すっげーズレた事言っているオジサマですね。


 でも、今お姫様も提督も、そんな相手にとんでもない敬称を使ってましたよね??



 『陛下』?

 そしてお姫様は『お父様』??




「まぁ、我が娘も含めて不問というわけにも行かんが、幸い怪我人多数で済んだのだしな!


 というわけでだ、未来の魔導士の技術向上‪……‬ではなくって、二度と禁術で暴れないように指導と行こうか!」





 この人が、この国の王様??










 あ、ちなみにその後二人はなんか他の偉い人が多分王様の人を止めに入るまで、物凄く真面目な魔法の野外授業と熱血指導を受けてましたとさ。


 2時間ぐらい、みっちり。





          ***

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