第9話 衝撃の事実が判明しました

 翌朝


 いつも通り目が覚め、窓の外を見る。今日もいい天気ね。でも、海は見えない…


 王都で海を見ようと思うと、馬車で少し走らせないといけないのだ。今日の裁判が終わったら、また海を見に行こう。


 でも私、本当に裁判が終わったら解放されるのかしら?実は投獄されるなんて事はない…と信じたい。


 私はまだ、自分が被害者として出廷する事を、信じ切れていない。そもそも私が被害者になる要素はない。何よりも私は、公爵令嬢のレイリス様に対する無実の罪を着せられているのだ。


 どう考えても、裁かれるタイプの人間だろう。もし投獄され、そのまま処罰されたら…そう考えると、胃が痛い。


「おはようございます、お嬢様。体調がすぐれないのですか?」


 心配したメイドたちが、駆け寄ってきた。いけない、これ以上彼女たちに心配をさせてはダメよね。


「いいえ、何でもないわ。今日は裁判所に行かないといけないの。準備をしてくれるかしら?」


「はい、もちろんですわ。今日はどのお召し物にいたしましょう」


 嬉しそうにクローゼットを開けるメイド。たくさん並ぶドレスのほとんどが、ワイアーム殿下の瞳をイメージしたエメラルドグリーンだ。どれも彼からのプレゼント。さすがにこのドレスは着られないわよね。


 う~ん…


 そうだわ、このドレスにしましょう。


 私が手に取ったのは、スカイブルーのドレスだ。早速メイドたちが着替えさせてくれた。鏡に映る自分を見る。


「なんだか青一色ね…」


 髪色、瞳の色、ドレスまで青いのだ。でも、別に似合っていない訳ではないし、これでいいわ。


 着替えを済ませ朝食を頂いた後は、いよいよ出発だ。


 お兄様と一緒に、馬車に乗り込んだ。


「ルイ、セーラの事を頼んだわよ」


「あなた、セーラちゃん、気を付けてね。傍聴席で私も様子を見守るから」


「母上、アマリリス、行ってくるよ。セーラの事は任せてくれ」


「お母様、アマリリスお義姉様、行って参ります」


 心配そうな2人に笑顔を向け、馬車に乗り込んだ。


「セーラ、震えているのかい?そんなに心配しなくても大丈夫だよ。一応簡単に話しておくよ。実は少し前に、クレイジー公爵と彼の娘、レイリス嬢が逮捕されたのだよ。それに伴う裁判なんだ」


「どういうことですか?クレイジー公爵とレイリス様が逮捕ですって?一体何が…」


「僕からはあまり詳しく話せないが、どうやら殿下が彼らの罪を暴いたようなんだ。殿下はずっと、彼らの行動を怪しんでいたらしい」


「ワイアーム殿下が?それは一体どういうことですか?殿下はレイリス様を愛していたのでは…」


「どうやら違う様でね。彼女の悪事を暴くために、あえて好意がある様に装っていたらしい」


「そうだったのですね…それでお兄様は、殿下とレイリス様が婚約する事はないと、おっしゃられたのですね」


 ずっと疑問だったことが、少しずつ解消されていく。ただ…


 殿下とレイリス様の仲睦まじい姿が、脳裏に浮かんだ。殿下は間違いなく、レイリス様を愛していた様に感じる。もしかしたら愛してしまった女性が間違った道に進んでいる事に気が付き、悩んだ末逮捕したのかもしれない。


 彼は生まれながらの王太子だ。子供の頃から帝王学を叩き込まれている。いくら愛する女性を守りたくても、出来ない事はあるだろう。それでもきっと、レイリス様に少しでも有利になる様に、裁判が進められるはずだ。


 最悪レイリス様だけでも助けられないか、考えられているのかもしれない。


 という事は、私が被害者として法廷に立つという事は、私に対する虚偽が証明されたという事なのかしら?


「セーラ、馬車の中でこんな話をしてしまってすまない。本当は昨日、家に帰ってから話そうと思っていたのだが、君が予想以上に疲れていた様だったからね。とにかく、我が家は被害者として出廷する。だから、安心して欲しい。さあ、裁判所に着いたよ。行こうか」


 お兄様に手を引かれ、馬車から降りた。そして別室へと案内された。


「マレディア侯爵殿、セーラ嬢。よくいらしていただきました。本日は、被害者の1人としてお2人には出廷していただきます。あなた様達にとって、辛い内容になるかと思います。もし体調がすぐれない等ございましたら、途中退席も可能です。何なりとお申し付けください」


 辛い内容とは、どういうことなのかしら?


「お気遣いありがとうございます。私はある程度裁判の内容を把握しておりますので、問題ありません。ですが妹は、昨日王都に戻って来たばかり。法にのっとり、先ほど少しだけ話をした次第です。ですので、万が一妹が精神面で我慢できなくなった時は、どうかご了承ください」


「承知いたしました。それではセーラ嬢の傍には、侍女を付けさせていただきます。彼女が裁判中、セーラ嬢のお世話をさせていただきます」


「マーラと申します。裁判中何かお困りの事があれば、私に何なりとお申し付けください」


 後ろに控えていた女性が、私に向かって頭を下げたのだ。見るからに優秀そうな女性だ。まさか私の為に、侍女まで雇って下さるだなんて。


「それではそろそろ裁判が始まります。どうぞこちらへ」


 いよいよ始まる様だ。なんだか緊張してきたわ。

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