第10話 裁判が始まりました
案内された部屋に入ると、傍聴席には既にたくさんの方たちが座っていた。そして私とお兄様は、並んでイスに座る。お兄様の隣には、なぜかクレイジー公爵様の次兄夫婦の姿も。
確かクレイジー元公爵夫妻が事故で亡くなった後、次男と三男(現クレイジー公爵様)による、激しいお家争いが起こったのだ。本来なら次男の方が継ぐはずだったのだが、三男でもある現クレイジー公爵様が自分が継ぎたいと訴えて、色々と大変だったそうだ。
一族を巻き込む骨肉の争いが繰り広げられたと聞く。結局最終的には、次男の方が病気を患った事で、三男でもある現公爵が爵位を継ぐという事で話は纏まったらしい。
彼らも被害者として出廷しているという事は、お家争いでも何か問題があったのだろう。
そして私達の向かいには、ワイアーム殿下と陛下、何人かの公爵様たちも座っていた。さらに裁判長と思われる男性、その周りには裁判官と思われる方たちが数人いる。
何なの、この重苦しい空気は…
その時だった。
鎖で繋がれたクレイジー公爵様とレイリス様がやって来たのだ。公爵家の人間とは思えない程、質素な服を着ている2人。それに何だか2人ともやつれている。彼らの姿を見た傍聴席の貴族たちも、騒めいている。それくらい、衝撃的な姿だったのだ。
愛する女性があのような姿になってしまって、さぞ殿下はショックを受けているだろう。極力殿下を見ない様にしていたが、つい気になって殿下の方を見てしまった。
すると…
真っすぐ私を見つめる殿下と目が合った。その瞬間、嬉しそうに微笑んだのだ。どうして私を見て笑っているの?急いで視線をそらした。
“セーラ様、顔色がよくありませんが、大丈夫ですか?あなた様の証言まで、別室へ休憩する事も出来ますよ”
すぐに侍女が話しかけてきてくれる。
“お心使いありがとうございます。ですが私は大丈夫ですわ”
そう笑顔で伝えた。私ったらダメね、殿下の顔を見ただけで、動揺するだなんて。とにかくこの裁判が終わったら、再び領地に戻ろう。その為にも、この裁判を見届けないと。
再びレイリス様たちの方を見つめた。俯き唇をかむクレイジー公爵様に対し、今にも泣きそうな顔をしているレイリス様。
そして裁判が始まった。
「それではクレイジー公爵と、レイリス嬢の裁判を始めます。ワイアーム殿下より、今回彼らの罪について証言をして頂きます」
お兄様が言っていた通り、ワイアーム殿下が今回の件を調べた様だ。証言台に立った殿下は、クレイジー公爵とレイリス様の悪事について説明し始めた。
「まずはこちらの資料をご覧ください。クレイジー公爵は自分の娘、レイリス嬢を私の妻にするべく、レイリス嬢を私に近づかせました。そして私の婚約者、セーラに対する悪い噂を流したのです。それはどれも事実無根の内容ばかり。こちらの資料に詳細が書かれております」
スクリーンに映し出された資料には、レイリス様の証言と、それが嘘であった証拠が次々と映し出されていく。
「貴族社会では、特定の人物を嘘の証言で陥れる事を禁止する法律があります。レイリス嬢が行った行為は、セーラに対する侮辱罪及び、名誉棄損に当たる重大な罪です。セーラは彼女の嘘に追い詰められ、自ら命を絶とうとしたほどです。私の婚約者を追い詰め、命まで奪おうとした行為は、重罪に処されるべきです」
ワイアーム殿下が裁判長に向かって訴えている。まさかワイアーム殿下が、私の為にこんな風に言って下さるだなんて…誰も私の事なんてわかってくれない、そう思っていたけれど、そうではなかったのね…
実際ワイアーム殿下の話を聞いて、なんだか心が温かい気持ちになった。
「セーラ嬢、証言台に来ていただけますか?」
「はい」
よくわからないが、私も何か証言をしないといけない様だ。
“セーラ様、参りましょう。大丈夫ですよ、あなた様は聞かれた事に対し、正直に答えればよいだけですから”
耳元でマーラがそっと呟いた。マーラに連れられ、証言台までやって来る。まさか自分が証言台に立つだなんて。皆が私に注目をしている、何だか緊張するわ。
「セーラ嬢、あなたはレイリス嬢の嘘で、随分傷ついたと聞いております。自ら海に身を投げたのは本当ですか?」
裁判長から質問された。素直に、正直に答えればよいのよね。
「はい、本当でございます。私は身に覚えのない事を色々と噂され、さらに私がレイリス様を暗殺しようとした罪で、裁かれるという話を聞いて…父を亡くし、母はショックで倒れ、兄や義理姉が必死に侯爵家を立て直そうとしている中、私が生きているせいで、皆に迷惑がかかる。私はいない方がいい…そう思い、身を投げました」
あの時の事を思い出し、涙が溢れ出る。
「辛い話をさせてしまいましたね。セーラ嬢がレイリス嬢を毒殺しようとしたという噂も、レイリス嬢が流したという証拠があります。その嘘のせいで、セーラ嬢は追い詰められ、自ら海に身を投げたという事ですね?」
「確かにそうなのですが…私の心が弱かった事も、問題だったと考えております。あの時は、全てが嫌になってしまって…決してレイリス様のせいで、身を投げた訳ではありません」
確かにレイリス様には色々と追いつめられたのは確かだが、全てがレイリス様のせいと言う訳ではない。
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