第8話 王都に着きました
「母上、セーラも。侯爵家の屋敷が見えてきましたよ」
「う~ん…もう王都に着いたのですか?」
「あら…本当に家が見えているわね。それにお外も真っ暗だわ。さっき昼食を頂いたと思ったのに」
眠い目をこすり窓の外を見ると、お母様が言った通り、外は真っ暗だ。そして我が家がすぐ目の前に見えている。
「セーラも母上も、昼食後はぐっすり眠っていましたからね。よくあそこまでグーグー眠れるものだ」
はぁ~っとため息をついているお兄様。そうは言っても、馬車の中は退屈なうえ、心地よい揺れが眠気を誘うのだ。
「さあ、屋敷に着いたよ。使用人やアマリリスも待ってくれているし、早く降りよう」
窓の外を見ると、懐かしい使用人たち。さらにアマリリスお義姉様も待ってくれていた。皆私たちの為に、待っていてくれたのだ。慌てて馬車から降りる。
「セーラちゃん、お義母様、お帰りなさい。ルイも長旅お疲れ様。さあ、お疲れになったでしょう。どうぞこちらへ」
「アマリリスお義姉様、お出迎えありがとうございます」
「アマリリスちゃん、あなたには随分と苦労を掛けてしまったわね。本当にごめんなさい。これからもどうか、ルイを支えてあげて頂戴ね」
「セーラちゃん、お義母様も、お元気そうでよかったです。私は何もしておりませんわ。お義母様こそ、色々とご苦労されたのでしょう。さあ、どうぞお屋敷へ」
アマリリスお義姉様に促され、お屋敷に入って来た。
「本来ならお2人がお帰りになったお祝いに、宴を開きたいところなのですが、生憎明日は出廷日ですので、今日はゆっくり休んでください」
「ありがとうございます、お義姉様。そうですね、今日は明日に備えて、早く休みますわ」
そう、明日は出廷の日なのだ。一体なぜ出廷するのかすら知らされていない私が、出廷させられるのだ。いい加減なぜ出廷するのか、教えて欲しいものだわ。
でも、頑なに教えてくれないのよね。お兄様ったら、本当に何を考えているのだか…
そう思いつつ、2ヶ月ぶりの自室に向かった。
あの日以来の自室だ。もう二度とこの部屋には戻って来ないだろう、そう思い、ある程度整理をして出たのだが、まさかまた戻ってくるだなんて…
「お嬢様、あの…申し訳ございませんでした。まさかお嬢様があの日、海に身を投げられるだなんて思いもよらなくて…私はお嬢様を守る事が出来ませんでした。専属メイド失格ですわ」
「私もです。お嬢様が身投げなされたあの日、私共は皆、侯爵家を去ろうと思いました。ですが旦那様が“セーラが戻って来た時、君たちがいないと寂しがるから”そうおっしゃられて。主でもあるお嬢様を守れなかった私たちが、どの面下げてお嬢様のお世話が出来るのだろうと…」
私の専属メイドたちが、ポロポロと涙を流して謝罪したのだ。
私はなんて事をしてしまったのだろう…私が消えれば、皆が幸せになれる。あの時の私は、そう考えていた。でも…私の為にこうやって心を痛めてくれるメイドたちがいる。お兄様やお義姉様、お母様にまで多大な心配をかけてしまった。
それに侯爵令嬢の私が身投げをすれば、最悪護衛やメイドたちが処罰される事も十分考えられたはずだ。それなのに私は…
「皆、私の軽はずみな行動のせいで、心配をかけてごめんなさい。あの時の私は、自分の事しか考えていなかったわ。こんな愚かな私だけれど、また仕えてくれるかしら?」
「もちろんですわ。お嬢様、よくぞご無事でいて下さいました。とはいえ、お嬢様は幼い頃、何度か海で行方不明になられた事がありましたね」
「そうでしたね。なぜか行方不明になった海ではなく、別の、それも離れた場所で見つかるのですよね」
「侯爵家ゆかりの場所の時もあれば、全くゆかりのない場所の時もありましたね。ですがどんな時でも、なからずすぐに侯爵家の人間に発見されて…て、申し訳ございません、お嬢様。あなた達も、口を慎みなさい」
「「申し訳ございませんでした」」
使用人たちが一斉に頭を下げたのだ。
「皆、謝らないで。私、海で何度か行方不明になった事なんてあったかしら?」
「ええ…何度かございました。ただ、お嬢様はその時の記憶がすっぽり抜けていらっしゃる様で…とにかく今日は、お疲れでしょう。すぐにご夕食の準備をいたしますね」
そう言うと、足早に部屋から出ていくメイドたち。なんとなく話をそらされた気がしたのだが…
それにしても、何度も海で行方不明になっていただなんて、全然覚えていなかったわ。だから私、海に行く事を禁止されていたのかしら?
今はそんな事はどうでもいいわね。とにかく今日は疲れたし、夕食を食べて寝よう。
明日に備えて。
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