第6話 王都戻らないといけないそうです

 悲しそうに呟く殿下。一体どうしたのだろう。


「殿下、急に領地にやって来て、どうされたのですか?何だか顔色が悪い気がしますが…もしかして、レイリス様を虐めた私を、捕まえに来たのですか?それならお引き取り下さい」


 もしかしたら、わざわざ私を捕まえに来たのかもしれない。愛する人を傷つけた私を、許すことが出来ないのだろう。


「セーラ、誤解だ。僕は君を捕まえに来たのではない。僕はただ君に…」


「殿下、どうしてここに?今領地にいらっしゃるだなんて。万が一あなた様の身に…いいえ、何でもありません。それよりも、セーラにはまだ何も話をしていないのです。どうかお引き取り下さい」


「殿下、あなた様は何を考えているのですか?マレディア侯爵領に許可なくやってくるだなんて!…セーラ様…やはり生きておられたのですね…」


 私達の元にやって来たのは、お兄様と殿下付きの執事と護衛たちだ。執事と護衛に至っては私の姿を見るなり、今にも泣きそうな顔をしている。


「あなた様のお気持ちは分かりますが、どうか今は…セーラも混乱しておりますので、お引き取り願えないでしょうか?」


 お兄様が、殿下に頭を下げているのだ。


「マレディア侯爵殿、今回の件、本当に申し訳ございませんでした。今回の件は、私の不手際でございます。それよりも、セーラ様は…」


「セーラは1ヶ月前に、なぜか領地のマレディア侯爵家の私有ビーチで発見されたのです。体調が思わしくなく、その後しばらく意識が戻らなかった為、今領地で療養しているところだったのですよ。今もまだ、体調は思わしくなく、とてもセーラに次期王妃は務まらない、そう判断したのです。それにセーラが見つかったのは、殿下との婚約を白紙に戻した後でしたし…」


「そういう事だったのですね。まさか1ヶ月後に領地の海で見つかるだなんて。もしかしたら、誰かがセーラ様を助け、保護していたのでしょうか?何はともあれ、セーラ様がご無事でよかった」


「セーラ、今日は元気そうな君の顔を見られて、よかったよ。それじゃあ僕は、王都に戻るね。マレディア侯爵、申し訳ないがセーラの件、よろしく頼むよ」


「ええ、分かっております。必ずセーラを連れて帰り、4日後の裁判には出廷させますので。とにかく殿下は、早く王都にお戻りください」


 裁判ですって?それじゃあ、やっぱり私は裁かれるというの事なの?


「マレディア侯爵、多大なる協力、感謝するよ。セーラ、また王都で会おう。今日は君の元気そうな顔を見られてよかった。それから、急に領地に押しかけてしまって、すまなかったね。それじゃあ」


 悲しそうに微笑むと、ワイアーム殿下が執事と一緒に、馬車に乗り込んでいった。まさか私の居場所がバレてしまうだなんて!それよりも、さっきの話。王都に連れ戻され、出廷させられるとの事。もし私が有罪判決を受ければ…


 結局私は、お兄様たちに迷惑をかけてしまうのね。やはりあの海で、命を落としておいた方がよかったのだわ。


 あまりのショックに、傍に座り込もうとした私を、お兄様が支えてくれた。


「セーラ、大丈夫かい?急に殿下が領地にやって来たから、驚いたのだね。でもね、セーラ、殿下にも色々と事情があるのだよ。セーラ、申し訳ないが、王都に戻ってくれるかい?君がいないと、裁判が進まなくてね」


「お兄様、申し訳ございません。ですが私は、レイリス様に酷い事など一度もしておりませんわ。それでも裁判に出て裁かれろというのでしたら、それもまた私の運命なのでしょう。私のせいで、お兄様に多大なるご迷惑をおかけしてしまった事、深くお詫び申し上げます」


 結局私は、無実の罪で裁かれる運命なのだろう。せめてお兄様やお義姉様への被害が最小限になる様に、殿下にお願いしよう。やはりあの日、あの場で命を落としておけば…


「セーラ、何か勘違いしている様だが、君は被害者として法廷に出てもらうつもりだ。僕も出廷する予定でいるから、そんなに心配する必要はないよ」


「えっ?被害者?一体どういうことですか?お兄様まで出廷するとは?」


「あまり僕の口からは話せなくてね。とにかく一度僕と一緒に、王都に戻ってくれるかい?4日後にある裁判に出廷さえすれば、また領地に戻って来られる…のは無理か…でも…う~ん…」


 なぜかお兄様が、考え込んでしまった。一体どうしたのだろう?ただ、私が裁判で裁かれる事はなさそうだ。とはいえ、私が被害者とは一体どういうことなのだろう。


 よくわからないが、一度王都に戻らないといけない様だ。このままずっと、領地でのんびり暮らせると思っていたのだが…

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