第4話 領地での生活が始まりました
「セーラ、王都の話は、もういいでしょう?とにかくあなたは今、殿下の婚約者でも何でもないの。どうか今は、心穏やかに過ごして頂戴。きっともう、あなたの体調は万全のはずだから。ごめんなさい、本当はしばらくはあなたの傍にいてあげたいのだけれど、すぐに王都に戻らないといけないの。ルイやアマリリスちゃんも一緒に」
「叔母上の言う通り、セーラはしばらくは領地で暮すといい。王都に戻っても、セーラは辛いだけだろう?君は何も心配しなくていいよ。それからね、母上も君の事を、とても心配しているよ」
「お母様がですか?」
「ああ、セーラが身投げした後、少しずつ正気を取り戻したのだよ。“私が落ち込んでいる間に、セーラは”そう言って泣いていたよ。だから母上の事は、心配しなくてもいいよ。近いうちに療養と言う名目で、母上が領地に来ることになっている。後数ヶ月、セーラの傍にいたいのだって。ただ、ここ3ヶ月で随分衰弱していてね。今の母上の体力では、領地に向かうのも大変だから、体力作りに励んでいるところだ」
「お母様も元気になったのですね。分かりましたわ、私、領地でお母様がいらっしゃるのを、楽しみに待っておりますわ」
まさかお母様が、領地に来てくださるだなんて。もしかしたら、キース様のお陰かしら?
ん?キース様?一体誰の事かしら?やっぱり私、大切な事を忘れている様な気がする。
「セーラ、どうしたの?頭を抱えて」
「いえ、何でもありませんわ」
これ以上、皆を心配させる訳には行かない。そう思い、ごまかしておいた。
「それじゃあ、私たちはもう帰るわね。セーラ、何かあったらすぐに連絡を頂戴」
「セーラ、王都の事は気にせず、どうかゆっくり休んでくれ」
「セーラちゃん、また来るわね。それじゃあ、元気でね」
「皆様、私の為に、ありがとうございます。せっかくなので、お見送りをいたしますわ」
ベッドから立ち上がろうとしたが、なぜか上手く立てないのだ。
「君は目覚めたばかりだから、無理は良くない。ここでお見送りしてくれたら十分だよ」
お兄様に再びベッドに戻されてしまった。仕方ない、ここでお別れをするか。
笑顔で手を振って去っていく3人に、私も笑顔で手を振り返した。せっかくお兄様やアマリリスお義姉様、叔母様まで来てくださったのに、ろくにおもてなしも出来なかったわ。
ただ、王都に無理やり連れて帰らされなくてよかった。もしかしたらお兄様は、犯罪者になりかけていた私の存在を、そのまま隠そうと思っているのかもしれない。王都では私は、亡くなっている事になっているだろうし。
それにワイアーム殿下との婚約も、白紙に戻ったのだ。もう私が、王都に戻る必要もない。このままひっそりと、領地で暮せたら…
窓の外には、綺麗な海が広がっている。なんだか無性に海に行きたくなった。再びベッドから出て、ゆっくり立ち上がる。
私が転ばない様に、使用人たちが私の傍にやってきたが、どうやら今回はうまく行った様だ。ゆっくりと歩く。
段々コツを掴んできて、随分歩けるようになった。せっかくだから、海に行こうと思ったが、さすがに今日は止められてしまった。
そしてこの日の夕食は、私の為に沢山のお料理が準備された。ただ、ずっと眠っていたせいで、あまり食べられなかったが、それでも領地で採れた美味しい海の幸を頂いた。
やっぱり領地の食事は美味しいわ。よく考えてみれば私、お父様が亡くなってから、食事もほとんど喉を通らなかったのだったわ。いいえ、レイリス様がこの国に戻られてから、ずっと…
思い返してみれば、レイリス様がこの国に戻られてから、ずっと独りぼっちだった。それまではずっと私の傍にいて下さったワイアーム殿下。いつしかワイアーム殿下は、レイリス様の傍にいる様になったし。令嬢たちも私の傍に寄り付かなくなった。
ずっと孤独だった…
悲しくて辛くて、胸が押しつぶされそうだった日々…でも、もうあの日々とはおさらばだ。だってこれからは、領地でのんびり過ごせるのだから。
でも、本当にどうして私、生き延びたのかしら?それも1ヶ月後に領地の海で見つかるだなんて、不思議よね。
もしかしたらお父様が、助けてくれたのかもしれないわね。ついそんな事を考えながら、眠りについたのだった。
翌日
朝早く目覚めた私は、目の前の海へと向かった。
「なんて気持ちの良い朝なのかしら?相変わらず綺麗な海ね」
なぜだか海を見ると、心が満たされるのだ。そして無意識に、あの歌を口ずさんでしまう。
すると…
「まあ、こんな浅瀬に、沢山の魚たちが集まって来たわ。そうだわ、私が歌を歌うと、こうやって魚たちが集まって来るのだったわ」
子供の頃、私が歌を歌うと集まって来る魚たちの姿を見るのが好きで、よく歌を歌っていた。
スカートをめくり、そのまま海へと入っていく。冷たくて気持ちがいい。
やっぱり領地はいいな…
この日から私は、時間を見つけては海に足を運ぶ様になったのだった。
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