第3話 お兄様が領地にやってきました
「…ラ、頼む、目を覚ましてくれ。セーラ…」
この声は…お兄様?
ゆっくり瞼を上げると、目を真っ赤にはらしたお兄様と、涙を流しているアマリリスお義姉様、さらにお父様の妹でもあるアナ叔母様までいらっしゃる。
「セーラ、よかった。目覚めたのだな」
「本当によかったわ。このままセーラちゃんが目覚めなかったらと思ったら、私…」
「本当によかったわ。セーラ、あなたって子は」
「お兄様にアマリリスお義姉様、それにアナおば様まで。ここは?」
そうだわ、私、領地の海で倒れているところを発見されたのだったわ。でも、どうしてお兄様とアマリリスお義姉様、アナおば様がここに?
「どうして皆様がここにいらっしゃるのですか?アナ叔母様までいらっしゃるだなんて」
「どうしてって、セーラが見つかったと知らせが来たから、急いで領地に来たのだよ。でも、ずっと目覚めないから、本当に心配したんだ。このままセーラが目覚めなかったら…そう思ったら、本当に生きた心地がしなかったよ。父上だけでなく、セーラまで失うかもしれないと思ったら、僕は…」
「セーラちゃん、ごめんなさい。あなたがそこまで追い詰められていただなんて、思いもよらなくて。でも、生きていてくれて、本当によかったわ」
「セーラはまだ、16歳になっていない。でも、自ら海に飛び込んだのだ。もしかしたらあの方に連れて行かれるかもしれない、そう思ったら、気が気ではなくて…」
「ルイ、それはないわ。あの方は、16歳になるまで手出しは出来ない。ただ、今回自ら海に飛び込んだことで、何が何でもセーラを迎えにいらっしゃると思うわ。でも今のセーラなら、あの方の傍にいた方が、幸せかもしれないわね…」
悲しそうに、叔母様が呟いた。あの方とは一体誰の事だろう。なぜかお兄様も、悲しそうな顔をしている。
「さっきから一体、何のお話をされているのですか?あの方とは?」
「いいや、何でもないよ。それよりもセーラ、意識がない間、誰かに会ったりしたかい?例えば海の中で」
「海の中で、誰かに?えっと…誰かに…」
誰かに会った?確かに私、誰かに会ったような気がする。でも、なぜだろう。思い出せない。何か大切な事を忘れている様な…
「ルイ、いい加減にしなさい!セーラ、何でもないのよ。それよりも、体の調子はどう?あなたが発見されてから、1週間も眠っていたのよ。どこか辛いところはない?」
優しく話しかけてくれる叔母様。
「ええ…海で発見された直後は頭がボーっとして、眠くてたまらなかったのですが。今は頭がすっきりしておりますわ。ただ、皆様にご心配をおかけしてしまった様で、申し訳ございませんでした」
本当に申し訳ない事をした。
「あなたが謝る必要はないわ。可哀そうなセーラ、海に身を投げるほど追い詰められていただなんて…もう王都に戻る必要はないのよ。16歳になるまで、ずっとこの領地で生活をしたらいいわ。もちろん、海にも好きに行ったらいいし。あなたの好きな様に、生きたらいいの」
「叔母上!その様な事は…」
「あら、もうセーラは王太子殿下の婚約者ではないのよ。セーラは今回の件で、誰よりも傷ついたのだから、これからは、セーラの好きな様に生きたらいいと思うの。それに後数ヶ月で、セーラは16歳になるのよ。きっとセーラは、あの方を…いいえ、何でもないわ」
叔母様は今、私は王太子殿下の婚約者ではなくなったと言っていたわよね。という事は…
「私とワイアーム殿下の婚約は、正式に解消されたのですか?」
「婚約を解消されたというか、何というか…ただ、セーラが海に身を投げたことで、セーラの生存は絶望的だと判断されたのだよ。それでセーラと殿下の婚約は、一旦白紙に戻される事になった。僕たちもこれ以上、セーラに負担をかけたくなかったしね」
「セーラちゃんは海に身を投げるほど、辛い思いをしていたのでしょう?これ以上殿下の婚約者で居続けたら、セーラちゃんは完全に壊れてしまう。そう考えて、婚約を一旦白紙に戻したのよ」
「婚約解消ではなく、一旦白紙ですか?その言い方だと、またいつか私と殿下が、婚約を結び直す可能性があるように感じます。殿下は公爵令嬢のレイリス様を、愛していらっしゃるのですよ。もしかして、私への配慮かしら?それでしたら、私の事はいいので、さっさとレイリス様とご婚約をして頂けるように、お兄様からもお願いしてください」
もしかしたら、身投げした私に遠慮しているのかもしれない。でも、正直そんな遠慮は必要ないのだ。どうか好きな人と、結ばれて欲しい。
「それが色々とあってね。レイリス嬢とワイアーム殿下が婚約する事は、多分なさそうなんだ」
お兄様が言いにくそうに呟いている。この人は何を言っているのだろう。レイリス様は身分的にも問題ないし、何よりも2人は愛し合っているのだ。それなのに、どうして?
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