第2話 何が起こっているのでしょうか

 何だかフワフワして気持ちいい。この感覚は…


 ゆっくり瞼を上げると、見た事のない立派なお部屋にいた。


 ここは、天国?でも、なんだかイメージが違う。


 ここは天国と言うよりも、海の中の様な感じだ。近くには綺麗なお魚が泳いでいるし、綺麗なサンゴもある。でも、なぜだろう…なんだか懐かしい気がするのは…


 “セーラ、目が覚めたのだね。可哀そうに…こんなにやつれてしまって”


 目の前に現れたのは、金色の髪を腰まで伸ばし、金色の瞳をした美青年だ。ただ、耳はとんがり、肌にはうろこが付いている。


 この人、どこかで会った事がある様な気がする。でも、どこだったかしら?


「あの…ここは一体どこですか?あなた様は?」


 “そうか、セーラは僕の記憶が消えているのだったね。君の記憶、返してあげるよ”


 何やら雲の様なものを取り出し、私の体の中に入れたのだ。その瞬間、走馬灯のように記憶が入って来る。


「あなた様は、キース様…この海の守り神、キース様ですね。懐かしいですわ、最後に会ったのは確か…」


 “君が婚約を結んで半年後、9歳の時だったね”


「そうでしたわ。あの日以降、私は海に行く事を禁止されてしまって…」


 “ああ、知っているよ。セーラ、辛い思いをさせてしまってすまない。本来ならすぐに保護してあげたいが…申し訳ない、後半年…後半年待ってくれ。私の可愛いセーラ…”


 私のおでこに口づけをしたキース様が、悲しそうに呟いたのだ。


 後半年?


「それは一体…」


 “セーラ、そろそろお別れだ。すまない、また君の記憶を消さないといけない…でも、16歳になったら、必ず君を迎えに行くから。どうかそれまで待っていてくれ”


 悲しそうなキース様の顔が、目に飛び込んできた


 そして一気に目の前が真っ暗になったのだ。




「お嬢様、しっかりしてください。お嬢様」


「う…ん」


 ゆっくり瞼を上げると、今にも泣きそうな使用人の姿が目に飛び込んできた。でも…この使用人は…


「ここは一体…」


「よかった、お嬢様は生きていらしたぞ。すぐに旦那様に連絡を!」


「お可哀そうに…お嬢様をすぐにお屋敷に連れて行くのだ」


 使用人に抱きかかえられ、馬車に乗せられた。ここは我が領地だ。確か私は…王都の海に身を投げたはず。それなのに、どうして領地にいるのかしら?王都から領地までは、馬車で丸3日かかるはずなのに…


 何だかわからないが、私、何か重要な事を忘れている気がするわ。


 ふと窓の外を見る。今日も綺麗な海が広がっていた。我が領地は、近くに海がありとても綺麗なのだ。


 屋敷に着くと、すぐに使用人が私を抱きかかえ、そのまま浴槽へ連れて行かれた。体を綺麗にしてもらい、着替えを済ませるとベッドに寝かされたのだ。そのタイミングで医者がやって来て、私の治療を行う。


「特に異常はございません。ただ、目が虚ろで視点があっていない様に思います。とにかくしばらくは、様子を見ましょう。少しでもおかしな点がございましたら、至急連絡をください」


 お医者様は私の様子を見ると、そのまま出て行ってしまった。


 そうか…私、死に損ねたのね…


「私はどうして領地にいるのかしら?確かに王都の海に身を投げたはずだったのに…ねえ、どうやってここに来たの?」


 近くにいた使用人に尋ねた。


「申し訳ございません。私共にもわかりかねます。ただ、私が朝の買い出しに出掛けた時に、海が光りまして…その光が気になって向かったところ、お嬢様が倒れていらしたのです。1ヶ月前に王都で行方不明になられたお嬢様が、まさか領地で発見されるだなんて…」


「1ヶ月前?」


「ええ、そうでございます。とにかくお嬢様が見つかってよかったですわ。どうかしばらくは、この領地でゆっくりとお過ごしください」


 領地でゆっくりか…


 ふと窓を見る。太陽の光を浴び、キラキラと海が光っていた。本当に綺麗な海ね。でも、どうして私は助かったのかしら?


 考えようとするが、なぜか頭が働かない。それよりも、眠くてたまらないのだ。


 そのままゆっくりと瞼を閉じたのだった。

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